久々のニベ科の記事。4年ぶりくらいだろうか。有明海産のニベ科魚類であるコイチを入手。ニベ科・ニベ属の魚であり、本科の代表的なもののひとつといえるだろう。ニベ科の魚は中国~東南アジアの内湾にはたくさんの種がいるが、日本にはぜか種が少ない。10数種が知られているものの、ニベ、コイチ、シログチ、クログチ、オオニベの5種をのぞいてほとんどが東シナ海や黄海に生息するものとなっている。以西底曳網でたまに漁獲がある、というがそもそも以西底曳網漁業自体が衰退しており、入手は至難の業である。全身が真っ黄色なキグチやフウセイなど、漁獲されませんかねぇ。見てみたいんですが。
コイチの特徴は色々あるのだが、まず届いたコイチをみて驚いた。腹部が黄色っぽいのである。これがコイチとニベを見分けるポイントになるようだ。ニベでは腹部は黄色くないため見分けは難しくない。ただし液浸標本とかだとこの色は残ることはないため、標本の同定には使えない。
外見からわかるもう一つの特徴は、側線上方の暗色帯がコイチではしばしば乱れていることで、これがニベではほとんど乱れないことで見分けられる。また外見以外では鰓耙数でも区別でき、コイチでは21本以下、ニベでは22本以上である。また頭長と最長の鰓耙の比率も同定に使えるという。ひとつの形質だけで同定しないでいくつかの形質を同定に使ったほうがよいと思われる。また生息環境もニベは外洋に面した砂底、本種は内湾や大河の河口周辺の砂泥底に多いという違いがある。分布域は山陰・高知県以南、瀬戸内海、有明海、東シナ海沿岸。海外では南シナ海、黄海、渤海で、有明海や瀬戸内海、黄海、渤海に多いのは内湾を好む本種の特徴といえる。このほかに東北地方の八戸や利根川流域での採集例もあるというが、どこから入ってきたのだろうか。
コイチと出会うのは今回が初めてではない。2019年にも兵庫県瀬戸内海産の個体を入手している。この個体は体長218mmほど、決して小さくはないのだが、体は銀色っぽく、腹部の黄色も薄かった。鮮度的にはこの2019年の個体のほうがよいので(シめてあった)、新鮮なもの、もしかしたらシめたものでは明瞭には出ないのかもしれない。でも、側線の上の模様の違いでコイチとわかりやすい。産地の違いとしては、瀬戸内海で腹部が黄色のコイチが上がっており、あまり関係はなさそう。なお、臀鰭はどの個体も黄色っぽい。
ニベの仲間はいずれも中国では高級食材として扱われる。しかし近年は中国の沿岸域の開発や、乱獲がたたりあまり見ることができていないらしい。さらに厄介なことに中国で養殖されている大型のニベ類Sciaenops ocellatusが逃げ出して在来のニベ科と競合する可能性もある。まだそこまでのことはないだろうが、2007年までに長崎県では磯からレッドドラムが釣れている(椎名さんはそのサイトへのアクセスが不可とされているのでソースは表示できない)。今回のコイチは唐揚げにして美味しくいただいた。ニベ科は大陸部では塩干物にしたり、鰾からにかわを取ったりしている。ほか練製品の原料としても利用される。今回のコイチは長崎県の石田拓治さん、2019年のコイチは北村太一さんより。ありがとうございます。