創作日記&作品集

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宇治拾遺物語(74)その2

2016-11-30 15:51:22 | 創作日記
宇治拾遺物語(74)その2
鵜舟のかがり火が闇に浮かび上がった。
後世に芭蕉が、
「おもしろうてやがてかなしき鵜舟(うぶね)かな」と詠むことを当然俺は知らない。
坊主は寝てしまったが、起こすこともあるまい。涼しい風が出て来た。下女も団扇を下ろしている。突然坊主ががばっと起き上がった。
後日談があってな。
金玉の後日談か
次は、あれ。キャー。
家綱はあの件の後は目も合わさなかったが、
「謀られたのは腹が立つが、それっきり兄弟の縁を切ってしまうわけにはいかない」
と思い直して、
「あの件はあの件として、兄弟の仲を絶えさせていい訳ではないから」
と言ったので、行綱は喜んで兄を訪ねてまた親しく交際をした。
よい兄貴だ。俺ならそうはいくまい。それよりもかがり火が気になる。風情も良いが、鮎も気になる。下女に鮎を持ってこさせた。
拙僧にも。酒も空になった。
生臭坊主め。話がつまらなかったら、切り捨てるぞ
いや、いやこれからが面白い。
賀茂の臨時祭りの*還立(かえりだち)に御神楽があるので、
行綱が家綱に言うのは、
「舞人の長が私を呼んだ時、**竹台のそばに寄ってざわざわと音を立てようと思うので、
「あれは何をしているのか」とはやし立てて下さい。
そうしたら、 私は「***竹豹ぞ竹豹ぞ」と言って豹の真似をしまくりましょう。」
と言ったので、家綱は、
「 おやすいご用だ。手の限り全力ではやそう」
と承諾した。
さて当日舞人の長が前に出て、
「行綱召す」
と呼ばれ、行綱おもむろに立って、竹台のそばに寄って這いまわり始める、
「あれは何をしているか」
と言われればそれに合わせて、
「竹豹ぞ竹豹ぞ」
と言おうと、心構えしていると、
家綱が、
「彼はどういう竹豹か」
と問うたので、落ちの「竹豹」を先に言われてしまった。
行綱は言うことがなくなり会場から逃げ去ってしまった。
この事は天皇のお耳にまで入り、かえってものすごくうけたと言うことだ。
眠ってしまったらしい。坊主も下女もいなくなっていた。
坊主の声がした。まだ、夢の中にいるのかも知れない。
俺が誰かって?
あの時、煌々と燃えていたかがり火よ。
わしは、みんな見ていた。

*還立:賀茂神社・石清水八幡宮などの祭礼の後,奉仕した使い・舞人たちが天皇の前に出て,歌舞の遊びをすること。→大辞林
**竹台:清涼殿の東庭にある竹を植えた二つの台(うてな)。→大辞泉
***竹豹:ヒョウの毛皮の、斑紋の大きなもの。→大辞林