創作日記&作品集

作品集は左のブックマークから入って下さい。日記には小説、俳句、映画、舞台、読書、など…。そして、枕草子。

維新派「ナツノトビラ」

2006-07-15 16:11:59 | 映画・舞台
2006/7/14 大阪
維新派は初めて観ました。分からない。全く分からない。だけど、身体がのってきた。それと同時に分かった。一瞬に身体で分かった。言葉の代わりに響きがある。わずかにちりばめられた言葉に美しい叫びがある。「なーちゃーん」「わたーる」。全く新しい表現だと思います。二階席で、遠いなと思っていたんですが、却ってよかった。二階席はお勧めです。舞台全体が観られる。舞台の端で起こっていることも一枚の絵のように見える。全体象が俯瞰できる。今も目を閉じると、昆虫網をかかげた子供たちが舞台を駆け抜ける。夏。

帰りに紀伊国屋で「日本沈没二部」と「銀河鉄道の夜」を買いました。

物語のかけら⑩

2006-07-09 08:44:40 | 創作日記
フロアーの左端は緩やかにカーブを描き二階の廊下中央へ続く階段になっていた。部屋のノブが少し見えた。
優が名付けた「時の秤」はフロアーの中央に静止していた。どんな仕掛けなのだろう?フロアーの右端は書架になっており、時間に関する本が並んでいた。「時間泥棒」「果てしない流れの果てに」「時の旅人」「時の終わり」
正面にはささやかな二つの展示品と座り心地の良さそうなゆったりとした椅子があった。
展示品は左側に時計。
柱時計。ニュールンベルヒの卵、水時計の想像図。小さな日時計。
右側に小さな石。「トスカナ石・あばら屋石・風景大理石(澁澤龍彦)」の立て札。
「どうぞ、手にとってご覧下さい」と手書きで添えてある。
「すべすべした灰色の表面に、濃淡のある茶褐色の模様がついていて、その模様が廃墟、塔やピラミッドのある崩れ去った都市のように見えるのだ。トスカナ地方、特にフィレンツェ付近の地層から出る大理石の一種で…。小さな楕円形の石の表面に現れた斑文は、一つとして同じものがなく、千差万別の複雑な形状を示しているのだが、そのいずれもが廃墟を思わせて、塔だの、城砦だの、鐘楼だの、あるいはオべリスクだのを、灰色の地の上に鮮やかに浮かび上がらせているのである」~澁澤龍彦「マルジナリア」より

優は澁澤龍彦を知らない。本など読んだことがなかった。だが、この小さな石に惹かれた。
優はいくつかを手に取ってみた。塔にも城にも見えなかったが、手触りがなぜか懐かしかった。
優はその中の一つをそっとポケットに落とした。

男の料理⑤  カラシ漬け

2006-07-08 18:09:19 | 男の料理
広島は香川県丸亀市の北12.5kmの海上にある過疎の島です。亡父(妻の)の出生地(広島町茂浦)です。時間がゆっくりと過ぎて行きます。ここを舞台に私が書いた小説「再生」はライフワークだと思っています。埋もれてしまっていますが。先日(2006/7/4(火))、妻が亡父の姉の一周忌に帰りました。今日は朝から、妻が「カラシ漬け」を作っています。カラシ漬けは茂浦の家それぞれの味があります。島に帰るといろんな家からもらいます。食べ比べるのも楽しみの一つです。作り方を妻に聞くと、亡父の姉のレシピが出てきました。手書きで一生懸命書いたものです。ほぼ原文のまま書き写します。

○昆布一尺ぐらい小さくはさみでつむ
(1)こんぶと白砂糖500グラムと酢2合 しょうゆ2合をいれてとろ火で、味の素さかづき2はいいれて7、8分炊いて冷ます。
○なすび4Kにたいして
(2)なすび4K洗って皮を取り、小さく(食べやすい大きさに)切り、塩カップ4杯でよくまぜ押さえておく。
(3)カラシを2袋ねっておく。(70g~100g)→1袋の量は不明ですが。好みで加減して下さい。
(4)なすびを良くしぼる。
(5)しぼったなすびに砂糖をお茶わんにかるく一杯入れてなすびによく混ぜる。
(6)炊いたタレにカラシを混ぜてなすびと合わせる。

何とも言えない素朴な味です。胡瓜や瓜でも美味しくできます。カラシ漬けとお粥、優しかったおばさんの思い出。いつか挑戦してみたいですね。

小説「再生」をお読み頂く時は
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北村 想氏を囲んで「劇作と演出を聞く!」

2006-07-02 17:47:48 | 創作日記
先週の日曜日(2006/5/28)、滋賀県南草津へ行ってきました。滋賀演劇友の会主催の北村 想氏を囲んで「劇作と演出を聞く!」に参加してきました。場所は「しが県民芸術創造館」。「椅子は?」とか言って、直ぐに何処かへ行ってしまった人が北村想さんだった。突然主役が現れたのでびっくり。後で知ったのですが、2006年4月から、滋賀県草津市の「しが県民芸術創造館」の館長に就任。仕事場での講演だったのですね。午後7時、12,3人(後から沢山来られて20~30人)の聴講生を前に講演が始まりました。
「50人いうてたやん」司会者をじろり。多分、不機嫌。マイクを使わないので声が聞き取りにくい。絶対、不機嫌。それを悪びれずに、軽く受け流す司会者もすごい。だが、直ぐに調子が出てきた。話は面白い。感銘を受けました。
○劇場はあるのではなくてなるものだ。
○タイトルを考える。
○テーマ、ストリーは最初に考えてはいけない。
○才能、努力は当てにしてはいけない。
○戯曲とは何かを考えながら書く。
○登場人物のキャラクターが出来たら、放っておいても物語は走り出す。
特に印象的な話を一つ。
自分は渡世人。一時期(2週間か2ヶ月?)サラリーマンをしたことがあるそうです。会社員はいつも社長の悪口ばかりを言っている。「タートルネックにネクタイをしてきた。云々」。渡世人になることを決めた想さんは、社長に辞職を申し出る。
「社長はすごく怒っていたんだと思います。顔を何回も洗っていた」
これは凄いと思った。こういう人間観察の深さが作品に投影されて行くのだと思います。
今、机の上に「想稿・銀河鉄道の夜」があります。初めて北村想さんの作品を読む。わくわくします。

突然、小説の連載を始めました

2006-07-02 17:40:12 | 創作日記
ドキュメンタリーと演劇で、こんな事をしている暇はない筈なんですが、やって来るものは書こうと思います。私にとって創作はやって来るものという感覚にとても近いのです。正確には自分の内部にあるものなのですが、外からやって来るような感じなのです。物語は書かれたがっている。だから、自動書記のように書く。現代と過去(1611年)が交錯しながら物語は進んでいきます。どこへ行くのか。作者も知らない。

物語のかけら⑨

2006-07-02 11:05:55 | 創作日記
国王は重い扉を開けて大広間に入った。誰もいない。誰も迎えに出てこない。物音一つない。敵の血をあびた疲れた身体を引きずり、王は甲冑を解いた。ドサッと足下に落とした。血が染みついた土足のまま、絨毯を敷き詰めた螺旋階段を上がった。寝室にたどり着くと、ベットに身体を投げ出した。すぐに眠りに落ちた。深い夢の底で見たのは戦いの続きだった。殺した敵の顔が次々浮かび、なぜかみんな哄笑していた。王は夢の中で子供のように泣いていた。
「もう、いやだよ。もう、いやだよ」
女の声がした。
「よく眠っているわ」
「戦うしか能のない男」
「何人殺したの?お馬鹿さん」
「シー、起きているかも」
「大丈夫、よだれを垂らしているわ」
王は夢の続きか現実か分からなかった。
「汚いね」
「汚い」
「地下のお風呂場で洗ってあげましょ」
「誰が」
「あなたが」
「いやよ」
「それじゃ」
「ほっときましょ。でも、私のお風呂はいやよ」
「面白いことがないかなあ。退屈」
「村へ行こうか」
「村ね」
「狩りか…」
「退屈より退屈でない」

王が目覚めると、化粧の香りがかすかに残っていた。そして、かすかな血の匂いが混じっていた。