ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2011.10.23 「美味しい」は心も体もしあわせも育てる-彼女のこんだて帖-

2011-10-23 19:43:30 | 読書
 角田光代さんの「彼女のこんだて帖」(講談社文庫)を読んだ。
 美味しいお料理で心がほっこり温かくなるお話15話と、各々のお話に出てきた献立のレシピがカラー写真とともに巻末に付いている、一粒で二度美味しい幸福な本だった。
 レシピはとてもシンプルで分かりやすく、かなり本格的なお料理であるにもかかわらず、私にもできそう・・・と、ずうずうしくも思ってしまうほどの幸せさだ。

 「月刊ベターホーム」に掲載されたものをまとめて、あとがきとレシピが加えられた単行本の文庫化だという。ベターホームのお料理本といえば、「お料理一年生」を結婚祝いに頂き、その後自分で「スピード料理」を購入した。
 今も本棚に鎮座ましましているが、綺麗なカラーページでお料理の基礎が分かりやすく掲載されている。
 今ではもう開くこともないけれど、当時はとても重宝した。何を隠そう、私、結婚前には半年ほど某カルチャーセンターの料理教室に通ったことがある。本当に基礎のコースだったので、夫(予定者)に「今日はこういうの(おにぎりと卵焼きと澄まし汁だったか・・・)を習った」と言うと、のけぞって驚かれた(「そんなものわざわざ習いに行かなくたっていいんじゃないの?!」と言われた。)ことを覚えている。

 私は、角田さんのように母から料理を伝授された経験はない。
 角田さんのお母様は、仕事をしながら小学校から高校時代まで12年間、三度々々の食事から日々の彩り鮮やかなお弁当まで、全て手作りされていたという。けれど、何か料理の素のような魔法があると信じて疑わなかった角田さんが、すべての料理はそうした手間暇をかけてお母様が作っていた、ということを知るのは、大人になってから、という。さらに、お母様は今まで自分流にやってきた料理を学び直したい、と料理教室に通われたそうだ。
 そして、角田さんが書くことに行き詰まりを感じていた20代半ば、料理がそれを救ってくれ、いつとはなしにぎくしゃくしていたお母様との関係も修復したという。だからこそ、彼女が書く食べ物は、実際に作れる人しか書けないリアルな美味しさを感じさせるのだと納得する。そのお母様が胃癌で何も召し上がれなくなって、おせち料理を習うことなく亡くなってしまった、というあとがきには涙線が故障した。

 私にとって母の味って何だろう。
 母は専業主婦だったけれど、料理はあまり得意でなかった。父も自分が何もしない(出来ないし、台所に立つつもりもない。)ものだから、文句も言わず質素な、今思えばとてもワンパターンの料理を喜んで食べていた。(その点、食べることが好きで、料理が得意ではない私をあてにすることなく、自ら動き出す夫とは大違いである。)

 私が小学校高学年の頃だったと思うが、同じクラスの男子のお母様が実に多芸多才で、お料理やお菓子、アートフラワーや革細工を教えておられ、その教室に通い始めた頃から母の料理は進歩した。
 レシピを見ながら作るのは確かに面倒だし、一から材料を揃えるところから行うのは日々の台所回しを考えれば大変なことだ。けれど、当時、ホワイトソースから作るマカロニグラタンや、カレールーを使わないで作るドライカレーは美味しかったな、といまだに舌が覚えている。レシピ通りにきちんと作ったものは美味しいというのは自明なことなのに、日々に追われて速さだけを追求していると哀しいかな、なかなか実践出来ない。

 友人であり定期的に食事会をしているという井上荒野さんが解説を書いておられるとおり、一話目の主人公の同僚が二話目では主人公になるという具合に、登場人物が各話から各話へ繋がっていく。そしてぐるりと回って、最終話では一話目の主人公のその後がちょっとわかったりする、洒落た作りである。ある人の物語でわき役だった人にも、その人の物語がある、というわけだ。

 つくづく、お腹がすいては戦は出来ない、と実感する。どんなに辛いこと、悲しいことがあっても、私たちは生きていかなければならない。そして私たちの体は食べなければならないように出来ている。また、私たちの体は食べたもので出来ている。
 だからこそ、毎日ちゃんと食べよう、食べ続けられるようにきちんと治療を続けよう、と思いを新たにした。

 今日もゆっくり朝寝坊をし、掃除、洗濯、買い物、リンパプラスヨガ、読書、とごくごく普通の“命の洗濯”が出来た日曜日だった。 夏日だったというのが頷けるほどとても蒸し暑い一日だったが、今朝で、気管支炎で処方された薬も飲みきり、ようやく風邪も抜けてくれそうな気配だ。

 心新たに明日からまた新しい一週間を始めよう。水曜日は、また治療再開だ。
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