当初の予定では、今頃、夫と息子は豪華寝台特急に乗って、北海道にいる筈であった。けれど、息子の先月末の2日間にわたる奮闘空しく、プラチナチケットの夢は泡と消えたのであった。
私は独身貴族の気ままな年末を過ごす予定だったけれど、結局、帰省した息子がどこへも行かず仕舞いではちょっと可哀想、せめて近場の温泉にでも・・・ということに相成った。何分既に宿泊予定の1か月前を切っており、どこのホテルも満室状態。ようやく、別々の旅行代理店でリゾートホテルと日本旅館を1泊ずつ確保しての2泊3日の温泉旅行である。
今朝は、乗換え駅で、目の前でJRに行かれてしまい、予約した特急に間に合わないのでは、とハラハラしたけれど、なんとか滑り込みで青いロマンスカーに乗り込んだ。乗ってしまえば僅か1時間弱。途中、抜けるような青空に雪を被った富士山の姿が何とも美しい。最近は、新幹線の車窓から見る富士山にすっかり慣れてしまったので、ロマンスカーからの富士山が新鮮に映る。車内販売のお茶とお菓子でほっと一息したかと思ったら、もう終点である。
体力に自信のない軟弱な私は、ホテル迄バス直行でのんびりしたかったのだが、鉄男の息子がそれではつまらない、とフリーパスを印籠のように掲げ、登山鉄道、ケーブルカー、ロープウェイとフル制覇である。登山鉄道では、今年の11月に導入されたばかりのピカピカの新車両(なんと息子の花粉症のアレルギー薬と同じネーミングなのが笑える。)とすれ違って興奮し、お喋りが止まらない息子である。乗り換えするにもどこもかしこも大混雑で、駅員さんがフル稼働で乗車制限をしている。年越しにかかる旅行でもないし、こんな年の瀬に一体どこからこんなに沢山の人が湧いてきているのだろう、とちょっと溜息である。もちろん、我々もその一翼を担っているのだけれど。それにしても中国語、韓国語、それ以外の言葉が飛び交っており、実にインターナショナルな観光地である。
もう15年近く前、亡くなった義母と4人で初めてここにやって来た息子のこと。スイッチバックをして急な坂を上っていく登山鉄道は、チビの頃から鉄道大好きの彼にとってはとても楽しかったようで、ホテルの大きなお風呂に浸かるのも忘れ、裸ん坊で腕を体側にしっかりつけて、トコトコ歩きながら何度も「スイッチバックします、スイッチバックします」と行ったり来たりしていた。そして、ロープウェイは初体験。行きはロープウェイなるものが一体どんなものかがよくわからずに乗ったものの、硫黄の強烈な臭いと白い噴煙が湧きあがる深い谷底や、そのあまりの高さが怖かったようで、帰路は半べそをかいて「僕だけはバスで帰る」と言ってきかなかったっけ、と懐かしく思い出す。本人にからかうと何ともバツが悪そうである。
既にお昼を大きく回り、食事をする場所も時間もなく、お菓子をつまみながら空腹をやり過ごす。青空をバックにロープウェイの窓から望む真っ白な富士山は大迫力だった。真正面に迫る大きな山、やはりこの美しいラインは日本一の山に違いない。
ロープウェイの終点からはバスに揺られ、冬枯れの高原を抜けてホテルへと向かう。当初の予定では、昼食を済ませてからホテルにチェックインした後に、隣接したガラス美術館のレストランでお茶をすることになっていた。が、乗り継ぎ乗り継ぎの都度、時間を大幅にロスした結果、バスを降りたら既にお茶の予約の5分前。ホテルに荷物を預けることも出来ず、美術館直行となった。
陽光と風に揺られ七色に輝く16万粒ものカットクリスタルガラスの回廊を抜け、庭園を見渡せるオープンテラスのレストランへ滑り込むや否や、「お待ちしていました」と案内される。
そして席に着くなりカンツォーネの生演奏がスタート。陽気なイタリア人歌手によるヴォーカルと電子ピアノのデュオである。その真ん前の特等席で、遅いランチとスペシャルデザートを楽しんだ。
ようやくお腹が一杯になったところで、園内散策開始。ちょうど「貴方も仮面をつけて変身してみませんか」という“ヴェネチア仮面祭”の開催中。物見遊山といえば右に出る者がいない私たち馬鹿親子はすっかりその気になって、仮面とマントを貸して頂くことに。本場ヴェネチアで作られたフルフェイスに黒い帽子、黒マントとファントム・オブ・オペラを地で行く息子と、羽根つきのハーフマスクに金色のマントに身を包んだ私。一人付き合いの悪い夫に写真を撮ってもらいながらテンション高く園内を練り歩く。もちろん、そんな変装中の来園者があちらこちらに神出鬼没、である。皆、幸せそうなのだから、何より平和ではないか。中世ヨーロッパ貴族を熱狂させたヴェネチアン・グラスの繊細で優美な輝きは、今見ても本当にうっとりする。そして、現代ガラスの美術館もなんとも洒落ている。アクセサリーやサンドブラストの体験工房に立ち寄る時間はなかったけれど、ミュージアム・ショップで記念にイタリア製のミニチュアフルマスクを購入して、美術館を後にした。
暗くなる前になんとかホテルにチェックイン。お部屋からは静かな森が見渡せる。
フレンチフルコースの夕食を堪能し、重いお腹を抱えて部屋に戻った後は、ゆっくりと手足を伸ばせる大きなお風呂や、今にも降って来そうな星たちが煌めく夜空を見上げながら開放感あふれる露店風呂を楽しめる筈・・・だったのだが、残念ながら早くも雨がぽつぽつしてきている。
それでも何より家族揃って笑顔でいられる、愛おしくも幸せな夜である。
私は独身貴族の気ままな年末を過ごす予定だったけれど、結局、帰省した息子がどこへも行かず仕舞いではちょっと可哀想、せめて近場の温泉にでも・・・ということに相成った。何分既に宿泊予定の1か月前を切っており、どこのホテルも満室状態。ようやく、別々の旅行代理店でリゾートホテルと日本旅館を1泊ずつ確保しての2泊3日の温泉旅行である。
今朝は、乗換え駅で、目の前でJRに行かれてしまい、予約した特急に間に合わないのでは、とハラハラしたけれど、なんとか滑り込みで青いロマンスカーに乗り込んだ。乗ってしまえば僅か1時間弱。途中、抜けるような青空に雪を被った富士山の姿が何とも美しい。最近は、新幹線の車窓から見る富士山にすっかり慣れてしまったので、ロマンスカーからの富士山が新鮮に映る。車内販売のお茶とお菓子でほっと一息したかと思ったら、もう終点である。
体力に自信のない軟弱な私は、ホテル迄バス直行でのんびりしたかったのだが、鉄男の息子がそれではつまらない、とフリーパスを印籠のように掲げ、登山鉄道、ケーブルカー、ロープウェイとフル制覇である。登山鉄道では、今年の11月に導入されたばかりのピカピカの新車両(なんと息子の花粉症のアレルギー薬と同じネーミングなのが笑える。)とすれ違って興奮し、お喋りが止まらない息子である。乗り換えするにもどこもかしこも大混雑で、駅員さんがフル稼働で乗車制限をしている。年越しにかかる旅行でもないし、こんな年の瀬に一体どこからこんなに沢山の人が湧いてきているのだろう、とちょっと溜息である。もちろん、我々もその一翼を担っているのだけれど。それにしても中国語、韓国語、それ以外の言葉が飛び交っており、実にインターナショナルな観光地である。
もう15年近く前、亡くなった義母と4人で初めてここにやって来た息子のこと。スイッチバックをして急な坂を上っていく登山鉄道は、チビの頃から鉄道大好きの彼にとってはとても楽しかったようで、ホテルの大きなお風呂に浸かるのも忘れ、裸ん坊で腕を体側にしっかりつけて、トコトコ歩きながら何度も「スイッチバックします、スイッチバックします」と行ったり来たりしていた。そして、ロープウェイは初体験。行きはロープウェイなるものが一体どんなものかがよくわからずに乗ったものの、硫黄の強烈な臭いと白い噴煙が湧きあがる深い谷底や、そのあまりの高さが怖かったようで、帰路は半べそをかいて「僕だけはバスで帰る」と言ってきかなかったっけ、と懐かしく思い出す。本人にからかうと何ともバツが悪そうである。
既にお昼を大きく回り、食事をする場所も時間もなく、お菓子をつまみながら空腹をやり過ごす。青空をバックにロープウェイの窓から望む真っ白な富士山は大迫力だった。真正面に迫る大きな山、やはりこの美しいラインは日本一の山に違いない。
ロープウェイの終点からはバスに揺られ、冬枯れの高原を抜けてホテルへと向かう。当初の予定では、昼食を済ませてからホテルにチェックインした後に、隣接したガラス美術館のレストランでお茶をすることになっていた。が、乗り継ぎ乗り継ぎの都度、時間を大幅にロスした結果、バスを降りたら既にお茶の予約の5分前。ホテルに荷物を預けることも出来ず、美術館直行となった。
陽光と風に揺られ七色に輝く16万粒ものカットクリスタルガラスの回廊を抜け、庭園を見渡せるオープンテラスのレストランへ滑り込むや否や、「お待ちしていました」と案内される。
そして席に着くなりカンツォーネの生演奏がスタート。陽気なイタリア人歌手によるヴォーカルと電子ピアノのデュオである。その真ん前の特等席で、遅いランチとスペシャルデザートを楽しんだ。
ようやくお腹が一杯になったところで、園内散策開始。ちょうど「貴方も仮面をつけて変身してみませんか」という“ヴェネチア仮面祭”の開催中。物見遊山といえば右に出る者がいない私たち馬鹿親子はすっかりその気になって、仮面とマントを貸して頂くことに。本場ヴェネチアで作られたフルフェイスに黒い帽子、黒マントとファントム・オブ・オペラを地で行く息子と、羽根つきのハーフマスクに金色のマントに身を包んだ私。一人付き合いの悪い夫に写真を撮ってもらいながらテンション高く園内を練り歩く。もちろん、そんな変装中の来園者があちらこちらに神出鬼没、である。皆、幸せそうなのだから、何より平和ではないか。中世ヨーロッパ貴族を熱狂させたヴェネチアン・グラスの繊細で優美な輝きは、今見ても本当にうっとりする。そして、現代ガラスの美術館もなんとも洒落ている。アクセサリーやサンドブラストの体験工房に立ち寄る時間はなかったけれど、ミュージアム・ショップで記念にイタリア製のミニチュアフルマスクを購入して、美術館を後にした。
暗くなる前になんとかホテルにチェックイン。お部屋からは静かな森が見渡せる。
フレンチフルコースの夕食を堪能し、重いお腹を抱えて部屋に戻った後は、ゆっくりと手足を伸ばせる大きなお風呂や、今にも降って来そうな星たちが煌めく夜空を見上げながら開放感あふれる露店風呂を楽しめる筈・・・だったのだが、残念ながら早くも雨がぽつぽつしてきている。
それでも何より家族揃って笑顔でいられる、愛おしくも幸せな夜である。