島というのは、長崎県は五島列島の福江島。
著者は、四十代半ばにして、人間関係がズタズタに壊れ、愛猫にも死なれてしまい、
何かまったく新しいことに挑んで、ふたたび生きる気力を取り戻したいと、
免許合宿に参加することを思い立つ。免許合宿のことは前から知っていたが、
じつは、けっこうたくさんの教習所が合宿生については25歳以下、
30歳以下という年齢制限を設けているのだそうだ。そんななか、40歳超の著者は
大好きな「長崎県」に加えて「高齢者」という検索条件をつけて、長崎県の離島にある
ごとう自動車学校を発見する。そして、東京から飛行機と夜行フェリーを
乗り継いで、自動車学校へ入学したのだ。
この自動車学校は、車だけでなく、馬にも乗れるというのが売りで、
馬場は教習コースよりはるかに広いときている。とはいえ、ほとんどの教習生は
その特典を享受せずに卒業していく。通常の2週間で順調に免許を取得すると、
学科と実習でスケジュールが埋まり、それほど自由時間がないせいもある。
けれど著者は仮免の検定を受けるところまでなかなか到達せず、空いた時間に
乗馬だけでなく、馬小屋の掃除や馬の世話まで体験してしまう。
そして、学校で飼われている犬のマリアを連れて海辺の散歩。
この島は隠れキリシタンの里なので、今でも教会がたくさんあって、
日曜日に恒例の遠足では、教会めぐりにでかけたり、
指導教官のお宅で捕れたての海の幸をごちそうになったり。
なんだか島の滞在記みたいな面もあり、五島列島に行きたくなってしまうのだ。
ついでながら、この島にはおばけの出るスポットが異常に多いらしい。
個性的な合宿仲間のようすも生き生きと描かれていておもしろいが、
車の運転にまつわる考察も独特な視点で興味深い。
それに、著者以外のみなが話す長崎弁にとっても味わいがある!
最後に、東京に戻ってからの運転の特訓も語られるが、
離島の路上教習との落差がなんとも激しい。
ちなみに、長崎県の学科試験では軌道電車関連の問題が多く、
東京都の試験では高速道路関連の問題が多いというのも、なるほどと思った。
ときに、免許取るのなんてもうやめたい!と落ち込んだりもする著者だが、
島の生活を楽しんで、どんどん島への愛着を深めていったところは、
順調に免許を取って島を見ずに帰るのより、ずっといいなと思えた。