ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズにすっかりはまって
シリーズを読み進んでいるのだが、全部読み終えてしまうのが惜しくて
間に他の作品も読んでいる。キャサリン・ダンス・シリーズは
リンカーンがたまに捜査協力で登場するという楽しみだけでなく、
ダンス自身が魅力的なこともあって、今ではこっちのファンでもある。
また、本家イアン・フレミングの007シリーズは未読だが、
ディーヴァーの『007白紙委任状』のボンドは、映画のイメージとは
ちょっと違うものの、きらいじゃない。もちろんディーヴァーらしい
どんでん返しは映画の007以上のものがある。
今回、ディーヴァー作品ではやや異色な『獣たちの庭園』を読んだ。
舞台は第二次世界大戦前のベルリン。ナチスの高官暗殺の指令を受けて
アメリカ人殺し屋ポールがオリンピックのアメリカ選手団に混じって入国するのだ。
ベルリンに入ってからは、たった3日の間に起きることなのだが、
その中身の濃密なことといったらない。文庫本にして600ページ超。
暗殺というミッション自体、簡単なことではないのに、それに加えて
さまざまなアクシデントやら陰謀やらがポールの前に立ちはだかる。
別の容疑でドイツの警察に追われる事態にまでなってしまうのだ。
この小説がおもしろかったのは、暗殺者の視点からだけでなく、
ポールを追う刑事警察(クリポ)の警視の視点からもきっちり
描かれている点で、この警視コールが『逃亡者』でキンブルを追う
トミー・リーに負けないくらい鋭く有能かつ愛すべき人物で、
わたしはポールよりむしろこっちに感情移入して応援してしまったほどだ。
ヒットラー政権下のドイツは、ユダヤ人にとって暮しにくかっただろうことは
想像に難くないが、一般のドイツ市民にとってもかなり窮屈な社会だったと
これを読んでよくわかる。警察機構に属してはいるものの、内心では
ヒットラーに批判的なコール警視にとっても状況はきついものだった。
しかも、SSやゲシュタポに見下されているクリポには十分な情報が
来ないし、検屍や指紋照合も後回し、捜査に必要な人員までゲシュタポに
駆り出されて、コール警視は部下ひとりのみで孤軍奮闘するしかない。
ともあれ、事態は二転三転し、3日の間にドイツ人の恋人ばかりか
親友まで得たポールは、ミッションを完遂して無事国に戻れるのかどうか?
結末は予想外のものだったが、温かな気持ちになること請け合い。
