江戸の町の片隅の小さな居酒屋ぜんや。美貌の女将が作るうまい料理と
店の雰囲気に惹かれて集う人々。小さな悩み事を抱えた客の話を聞きはするが、
女将が解決法を示すわけではない。ただ、話を聞いてもらった客たちは
心が軽くなって帰っていき、いつしかそれぞれの問題はほぐれていく。
一番の常連は武家の次男坊ながらまったく武士らしくない林只次郎だ。
うぐいすがいい声で鳴くように飼育する鳴きつけを生業としていて、
貧乏旗本である林家の家計を支えている。その彼が預かった大事なうぐいすを
猫に食べられてしまって、もうだめだ、と絶望していたとき、
鳥の糞買いの又三に、「話しているうちに、気鬱がスッと消えちまう。
失せ物や難問も、ひとりでに片づいちまうと評判」の女将がいると
連れて行かれたのが居酒屋ぜんやだった。
取り立てて大きな事件が起きるわけでもないが、ぜんやの空気が心地よく
集う人たちも気持ちよく、どんどん読み進んでしまう。
もちろん料理の描写もとてもおいしそう!
読んでいるうち、この女将と、まんが『絶滅酒場』のママが妙にしっくり重なった。
時代小説らしくない居酒屋ぜんや、絶滅した生物たちが集う絶滅酒場、
どちらもその雰囲気の中に身を置いてみたくなる店だ。
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