散日拾遺

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面接授業@滋賀 ~ その1【改訂版】

2014-06-08 06:57:15 | 日記
2014年6月8日(日)

 京都から琵琶湖線、山科・大津・膳所・石山・瀬田、5駅17分。
 瀬田からバスで5~6分の龍谷大学キャンパス内に滋賀SCがある。かわいそうに、瀬田は急行が止まらない。かつてこの地は京都東側の防衛の要であり、それで歴史に何度も名を刻んでいる。

 琵琶湖から注ぎ出す唯一の川が瀬田川、東から京都へ向かうには琵琶湖の水面を回るのでなければ、瀬田川を渡るしかない。その瀬田川にかかる唯一の橋が瀬田の唐橋である。それゆえ、古来「唐橋を制する者は天下を制す」と言われた。壬申の乱の帰趨を決した瀬田唐橋の戦いはその最大のものであった。

 ・・・というのは後からの付け焼刃で、面接授業に向かいつつ僕が「瀬田」から連想したことは二つだった。

 ひとつは俵藤太(たわら・とうた)のムカデ退治。山をぐるりと巡る巨大ムカデを、見事退治したあっぱれ英雄、こないだの美術文化展にも、これをテーマにした絵があったな。雷様か子鬼みたいな俵藤太に、宇宙怪獣然としたムカデだった。だけどムカデって、必ずペアで出るんだよね・・・
 俵藤太は実在の藤原秀郷で、後に東国へ下って平将門を退治する。こういう形で伝説と歴史が接続されるのは、面白いようなつまらないような不思議な感じがする。大ムカデって、将門のことだったのかな。だとすればペアの相手は藤原純友か。わが郷土、伊予の日振島(ひぶりじま)を根城にした海賊の親分だ。
 もうひとつは下って武田信玄、三方原で家康一党を一蹴し、あとは信長を粉砕するだけ。しかし無敵の名将も病には勝てず、西上を停止したまま陣中に没する。いまわの言葉が「瀬田にわが旗を立てよ」だったという。
 無念さの伝わる話だが、甲斐の山奥にありながら信玄の頭の中では、近江路から都入りのルートも地名もつぶさに描かれていた、そのことが興味深い。信玄には具体的なプランがあった。瀬田が最終最大の関門であることは重々承知、あるいは都入り後の近畿さらには全国経略にあたり、近江路をおさえる重要性も既に考えていたかもしれない。後年信長が安土に築城したことに通ずる話である。

*****

 面接授業はいつもながら充実している。僕がではない、学生が充実しているのである。
 登録54名中、滋賀県内からの出席者は4割ほどで、あとは京都・大阪・奈良・三重・兵庫・愛知・福井、この顔ぶれが土地柄を表しているだろう。人が往来し物や情報が通過することによって栄えてきたのに違いない。
 学習センター長の成瀬先生は高知出身の経済学者。長らく京都で財政学を研究してこられたが、終の棲家は「断然、滋賀が良い」と断言なさる。京都人は比叡山の東というと「あんな田舎」と嫌がるけれど、おかげで土地も家も安く、自然は豊か、かてて加えて歴史ファンには天国です、と相好を崩された。
「歴史なら京都も・・・」
「そうなんですが、平安京は1200年、そして京都市の広がりの中だけですね。滋賀は琵琶湖の周囲どこを掘っても、面白い話がいくらでも出ます。近江京は平安京より古いですし。」

 先生の挙げられた「面白話」からふたつ。
 その一、信長の延暦寺焼き討ちは、なかったとの説あり。比叡山を掘っても、往時の火災の跡がどこにもないというのである。
「え?まさか・・・」と驚くのへ、笑って注釈。
「当時、坊主は山にはほとんどおらなんだようなのです。山の麓へ降りて俗塵にまみれた生活をしておったんですね。信長が攻め滅ぼしたのは、この輩で・・・」
「お寺の聖域を焼亡させたわけではないと、」
「そうらしいです。」

 その二、もうひとつ信長ネタ。
「伊賀攻めの時、信長は狙撃されてますね。」
「はあ・・・杉谷善住坊(すぎたに・ぜんじゅぼう)」
「そうそう、ご存知で。鉄砲名人の善住坊ですが、引き金を引く瞬間に虻(あぶ)に邪魔されて打ち損じたということになっています。ところがあれ、邪魔したんは本当は虻ではなく、ヤマビルであったと調べ上げた人がおって、」
「ははあ・・・」
 どうやったら、そんなことがわかるもんだか。
 殊勲者は放送大学の学生だそうで、この論文(?)で何か地元の賞を貰ったという。
 バカバカしいと思う人は所詮、縁なき衆生、こういうのは最高に面白い。

 バス停へ御一緒すると、龍谷大学キャンパスを埋める広大な自然林から、ひっきりなしにウグイスの声が聞こえてくる。俳句が趣味と仰る先生が、御作を披露してくださった。

 本願寺 春告鳥が経を読む

 春告鳥はウグイスの別名、「ホーホケキョ」と「法華経」をひっかけ、龍谷大学は1639(寛永16)年設立の西本願寺「学寮」が起源というカラクリ。
 お腹いっぱいだ。