2017年1月22日(日)
勝沼さん、さっそく来ましたね。そんな気がしていました。オリバー・ストーンのコメントのこと、お知らせありがとうございます。昨夜寝る前に、一言追記しておきたいと思ったこととも関連するようです。
アメリカの歴史を辿ると、「アメリカ第一で他所のことには口を出さない」路線と「アメリカの見いだした価値をアメリカの力で世界に広げよう」路線との角逐は、かなり早くからあったようですね。ロシア革命後には「一国社会主義」vs「世界革命」の対立がありましたし、大きな力が生まれるところには宿命的につきまとう問題なのでしょう。
アメリカの場合、二つの路線の対立はある時期まで、二大政党制のシステムによって調整されていたのだろうと思います。伝統的には民主党が「良いものをアメリカの力で世界に広げる」路線、共和党が「アメリカを大事にして世界のことはほどほどに」という路線だったでしょう。モンロー主義で知られるジェームズ・モンロー(第5代大統領)は共和党でした。その約一世紀後に、民主党のウッドロー・ウィルソンが第一次世界大戦勝利の余勢を駆って国際連盟を提唱したものの、議会であっさり否決されて当のアメリカが国際連盟に加盟しなかったことなどが思い出されます。
この図式は南北戦争をはさんで20世紀まで続いており、ナチス台頭後も国際社会への関与には消極的だったアメリカを外向きに転じることに腐心し、ABCD包囲陣で日本をかなり悪辣に挑発して遂に目的を達したF.ルーズベルトは典型的な民主党型の大統領でした。大戦後の冷戦時代には既にアメリカが国際社会に引きずり込まれており、民主党であろうが共和党であろうがその事実から逃げるわけに行かないので話は錯綜してきますが、両党の基本的なスタンスは人々のイメージの中では生きており、政党の側もそれを意識しながら政策決定をしてきたと思います。(両党のスタンスの違いが国際政治だけに限らないことは言うまでもありません。)
しかしこの図式は、今ではほとんど機能しません。その最大の原因はブッシュ親子ではなかったかと思います。「原因」が言い過ぎだとすれば、共和党のあり方とイメージが決定的に変質したのは、G.H.W.ブッシュ(第41代)が指揮した湾岸戦争(1991)と、G.W.ブッシュ(第43代)が指揮したイラク戦争(2003)の時期だろうと推測するのです。ある知的なアメリカ人に言わせれば、湾岸戦争は「クウェートではなくブッシュ家の石油の利権を守るため」の戦争だったそうで、この言葉を聞いたのは1994年頃でしたから、2003年にまたしても同じような構図で戦争が起き、そして「大量破壊兵器は実在しなかった」と判明(!)した時にはかなり強い無力感がありました。
詳しく見ていくと終わらないので、いったん切りあげましょう。要するに、オリバー・ストーンの批判の対象は「アメリカの民主党的な方向性の負の側面」であると考えたら分かりやすいと思うのです。これに対して「余計なお節介で迷惑をまき散らすことをやめ、良くも悪くもアメリカ第一で行きましょう」という主張は、伝統的には共和党に政権を委ねることで自動的に果たされてきた ~ だいぶ古い話? ~ のですが、ブッシュ親子の赫々たる功績とともにその種の共和党らしさは雲散霧消しました。そのこともあり、モノのレベルや人々の生活のレベルで否応なく国際的な相互依存が強まっていることもありで、今ではトランプ氏ぐらい乱暴なことを言い、乱暴なやり方をしないと、「アメリカ第一」などとは言えなくなっているのかなというのが、勝沼さんへのさしあたりのお返事です。
ただ、トランプ大統領は単に「アメリカ第一」を言うだけでなく、女性やマイノリティなどアメリカの大事な一部である人々を敵に回し、一般に和解ではなく憎悪を助長するやり方を鮮明にしていますから、「落ち着いて見守ってい」て大丈夫かどうか、非常に心配ではあります。ということで結局は、「変なことをするくらいなら国家としてのアメリカはもっと内向きであるべきだと思っています。まぁだからトランプ支持となるわけではないのですが。。。」という勝沼さんの述懐と、非常に近いところに落ちるのですね。
さて、そろそろ出かけてきます。良い一日をお過ごしください。
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・タイトル
オリバー・ストーンのトランプ評
・コメント
非常に興味深いことですが、先日、映画『スノーデン』の宣伝で来日していたオリバー・ストーンが「トランプのアメリカファーストは正しい。まぁ落ち着いてトランプを見守りましょう」と言っていました。
一見驚きましたが、インタビュー全体から見るとなるほどなと思いました。オリバー・ストーンはアメリカがその理想とは裏腹に世界に対してやってきたことを批判的に描いてきた人ですから、アメリカは内向きであるべきだという人なんですね。アメリカのダブルスタンダードの負の方に焦点を当ててきた人ですから。スノーデン事件なんてまさにそうです。自由と民主主義の正反対といえるのが監視社会なわけですから。
実は私もオリバー・ストーンに近くて、変なことをするくらいなら国家としてのアメリカはもっと内向きであるべきだと思っています。
まぁだからトランプ支持となるわけではないのですが。。。
Ω