私の人生の師匠でもある遊石氏が亡くなって、早二年半が過ぎようとしています。私達にとって大きな損失であると同時に、寂しさを感じ得ずにいられません。奥様を始め御家族に至っては、想像を絶する悲しみがあったことでしょう。ご冥福を祈るばかりです。
さて、今回句集を作るにあたって、富久子夫人にお願いをしたところ、数ある遊石氏の俳句の中から表題の句を始め、計三句の思い出の句を選んで戴きました。三句共、遊石氏には珍しいご家族の句です。「私は居ないものと思ってくれ」という言葉から始まったお二人の結婚生活。旅館業を夫人に任せて、自由奔放に生き抜いた遊石氏。
表題の句は、決して口には出さなかった、遊石氏の奥様への感謝の気持ちを込めて作られた一句だ、と思います。数々のエピソードを残された遊石氏は、皆さんにとって、自由人・粋な遊び人と思われがちですが、若かりし頃は文学に勤しみ、その後、文学だけに留まらず、音楽・料理・スポーツと興味を持ったものに対して、常に研究を重ね、実践を繰り返す研究家でした。想像を超えた読書量だったと思います。俳句だけで無く、私たちの生き方に、常に一石を投じてくれた遊石氏の俳句を存分にご賞味あれ。(御守海人記)
ねんねこを揺さぶり上げて米洗う
月おぼろ娘の嫁ぐ街を過ぐ
桃にみる球体の無限の羅列
哀しきはその噴水のスパイラル
で有るからして向日葵は爆発する
柳刃の切先しかと烏賊を引く
投げやりに焼いた秋刀魚の旨さかな
備えあり憂いも在りて歳の暮れ
会得せり粧わぬ山と粧う山
破荷似合う男の背中かな
万緑や洒脱な言葉見付からず
かわたれの毛虫のごとく生きてみるか
その蜘蛛は只揺れながら孤独だった
その人は一つの咳の様に消えた
なでしこの様な少女に径問われ
行きずりのマスクの人に会釈され
と云って貴方は蝉時雨に消えた
白日傘一瞥もせず通りけり
八つ口に春の名残の風を入れ
その猫の上に小さくリラが散った
菜の花や見つかる様にかくれんぼ
夏大根引く力なし山は雨
咳一つ呼吸器外科の吹き溜り
彼岸花忘れることは罪ですか
死或いは絶望する一つの咳
(岩戸句会第五句集「何」より 秋葉遊石)
キョウカノコ(京鹿の子)