残る虫群れにはならぬ下駄の音 裕
冬近し被災跡にも煮焚きの火
苅田這う煙にくしゃみ案山子かな 鯨児
黙もぐと葉虫が描く抽象画
避難児の校門静か秋の雨 豊春
残る虫骨董店の白釉壺
すがれ虫闇に沈んでいたき夜 さくら
長き夜や町のあちこち不眠症
気まぐれな電波時計や鰯雲 光子
物憂げにそよぐ河原の芒かな
稲の香や風友として大空へ イヨ
暗き夜をなほ暗くして刈田伏し
鵙高音だれに気兼ねをするでなし 凛
大声のおしゃべりが好きちゃんちゃんこ
友逝きて我もいつしか残る虫 貴美
密なくて水をすするか秋の蝶
蜉蝣の風向くままや尾の細き 沙会
木犀の香と行く坂の石畳
小田急線秋めく空と受験生 杏
神無月九品仏を拝みたり
木犀が匂う陰より日向まで 鞠
秋草にマスク掛けてる悲しいよ
十三夜幸せ浴びている不思議 黄玉
収穫の歓び供う十三夜
鯨のおなかは音響装置秋深む 薪
天国が在れば野菊の道辿る
半導体の争奪戦秋刀魚焼く 炎火
金秋や柱状節理を叩く滝
枯葉散るウイーンの森の旅人に パピ
今日もまた数独にはまったすがれ虫
鳥渡る今日こそ髪をカットせん 洋子
新走り息子励まし送り出す
未舗装の道が少なく四季とぼし 余白
朝散歩足元からの秋の音
椋鳥の右往左往や暮泥む 稱子
秋夕焼ふわり白鷺神田川
爽籟や無口が飲める赤ワイン 雲水
弦胼胝がなくなったらし螽斯
酔芙蓉