(しゅんしゅうの まなざしかえす ぎげいてん)
学生時代というと、今からもう半世紀も前のことになります。春、夏、秋、冬 奈良に行っては日吉館にお世話になっていました。奈良公園に面した小さな宿で、当時、国文学、建築、美術を専攻する学生、卒業生の常宿でした。いまでいう民宿のようなところです。
昭和十一年に、高浜虚子を関西に迎えて俳句会を開催した平畑静塔、西東三鬼、秋元不死男たちが、発奮して奈良俳句会をこの日吉館で始めることにしたのでした。橋本多佳子も参加して米2合を持ち寄り、夜を徹して句作するという、多佳子の自伝に出てくる凄まじい[日吉館俳句会」が昭和二十一年から二十七年まで続いたということです。その十年後の昭和三十七年、私ははじめてこの日吉館にお世話になりました。
旅籠(はたご)のような飾り気の無い宿でしたが、和辻哲郎、会津八一、亀井勝一郎などの直筆の色紙や掛け軸が無造作に置いてあり、ここが「古寺巡礼」の起点なのだと感じるものがありました。
まなうらの大和路の寺京の寺 凛
(合同句集「天岩戸」より 古田凜記)
サザンカ(山茶花)