6時起床。今日は、日帰りで乗り鉄旅に出掛ける。こそこそと寝室を出て、妻を起こさないように身支度を整える。
7時前に家を出て、京浜東北線で東京、上野東京ライン(高崎線)で大宮へ向かう。今日は、大宮駅始発の臨時快速リゾートやまどり藤祭り号に乗る。リゾートやまどり号は、JR東日本が群馬県を観光するためのリゾート列車として開発(正確には旧型観光用車両をリニューアル)したもので、そのため名前に群馬県の鳥である「やまどり」が付されている。通常は、週末や今回のような連休に吾妻線(草津方面)や上越線(水上方面)で運転されている。そんなリゾート列車が、このGWには栃木県足利市の「あしかがフラワーパーク」で藤祭りが開催されているということで、両毛線を走るのだ。但し、この列車はあくまで本来は群馬県観光用、というわけで、最短ルートの東北本線経由ではなく高崎線経由で両毛線に入るダイヤが組まれている。ちなみに、この列車の終着駅は佐野だが、あしかがフラワーパークの最寄駅はひとつ手前の富田駅である。富田駅は構造上長く列車を留置できる余裕がないことから、終着駅には出来ない(のだろう)。
この列車の特徴は、リゾート列車として必須ともいえる窓の大きさはもちろん、展望室や子どもが遊べるキッズルーム、畳のあるミーティングルームなど自席以外にも楽しめる空間が用意されていることや、各座席の居心地の良さである。特に座席に関しては、全車両が1+2席の構造になっていて、座席幅は60cm、前後のシートピッチも120cm以上と、いずれも新幹線のグリーン車よりも広く設定されている。実際に座ってみると、身長178cmの私でも、前の座席に当たることなく完全に足を伸ばすことが出来た。これは素晴らしい。
列車は定刻通り、大宮駅を8時14分に出発。私の席は、最後尾車両の更に最後尾にある1人座席。すぐ後ろが展望室だ。大宮を出ると、上尾、桶川、鴻巣、熊谷、深谷、本庄、高崎、新前橋、前橋と、快速らしく比較的多くの停車駅を経て両毛線に入る。高崎線はもちろん(という言い方は失礼か)、両毛線に入ってからも、正直なところこれといって特別な景色が見られるわけではない。地方都市と田園風景の繰り返しだ。しかし、それもまた落ち着きがあって良いものである。
終点の佐野駅には、10時33分に到着。一旦駅を出て、再度入り直す。せっかくなので終点まで乗っただけで、目的地はひとつ戻った富田駅なのだ。
佐野駅から乗った10時46分発の上り普通列車が、乗り込むのを躊躇するほど大混雑していた。今振り返ってみても、よくあの車両に身体をねじ込めたものだと思う。乗車は1駅分(6分)なのでそれほど大変ではなかったのだが、今度は富田駅に着いたところで降りるのに難儀した。ホームのスペース以上に、降りる人がいるのだ。更に、改札の外へ出るのにも大行列。Suicaのタッチ機が1台(臨時改札を含めても合計2台)しかないのだ。私は特に急ぐわけでもなかったので、10分ほどホームで時間を潰してから外へ出た。それでも、駅の外には人が溢れていた。藤祭り、おそるべし。
多くの方々と一緒にぞろぞろと10分ほど歩いて、「あしかがフラワーパーク」に到着。ここまでの大混雑に加えて、入場料1,700円というぼったくり価格(この時点ではそう思った)に一瞬引き返そうかと思ったが、せっかくここまで来たのだからと気を取り直してチケットを購入する。園内も人は多かったが、敷地が広いのでそこまで混雑した感じはせず、ゆっくり散策することが出来る。紫藤はちょうど今が満開らしく、陽の光を浴びて綺麗に輝いている。これは、思っていたよりはるかに素晴らしい。また、藤以外にも綺麗な花がたくさん咲いていて、特にネモフィラの愛らしさが印象的だった。1周回りきる頃には、入場料の値段はむしろ安く感じられた。
最後に、藤ソフトクリームを食べる。どうせ色だけでせいぜい少し香りがするくらいのバニラソフトクリームなんでしょ?と思うことなかれ。おそらく多少好き嫌いが分かれる味だとは思うが、藤の香りがしっかりしていて私は結構好きな味だった。
富田駅へ戻り、12時34分発の上り普通列車に乗り、桐生へ。桐生に何か用があるわけではなく、帰りに乗る臨時快速列車の始発駅が桐生駅だという理由だけでの移動だったのだが、結果的にこれは大正解だった。こんなことでもなければ、桐生駅の周辺を散策することはおそらく一生なかったと思う。
桐生駅の南口を出て、何となく歩いている内に見つけた「鳥亀食堂」が気になり、入ってみる。大将と女将さんの2人で切り盛りしている、2人掛けテーブルが3つあるだけの小さな食堂である。しかし、一般的な食堂ではなく、鶏料理の専門店だ。注文は、メニューの一番上に書かれていたささみフライ定食と、やきとり。出されたささみフライを一口食べて、驚かされる。とにかく、みずみずしいのだ。ジューシーという表現では少し違う、”みずみずしい”と言うのがぴったりくる味。ささみって、こんなに美味しいものだったのか。「こんなにみずみずしい鶏肉を食べたのは初めてです」と言うと、女将さんはにっこりと笑った。この笑顔から私は、嬉しいという感情だけでなく、それがうちの売りなんだという誇りのようなものを感じ取った。平焼きのやきとりは、炭火と香ばしさとさっぱりめのタレの味が、お肉の食感、旨みを引き立たせていて、これもまた美味しい。ご飯、お味噌汁、付け合わせも、丁寧に作られているのが伝わってくる。なんだこのお店、すごいじゃん。「ありがとうございました」と深々と頭を下げてくださった女将さんに、改めて「本当に美味しかったです」と声を掛ける。ここには絶対にまた来ることになるという確信を持って、扉を閉めた。
本町通りに出て、本町六丁目商店街を歩く。多くの地方都市がそうであるように桐生市の中心市街地も桐生駅周辺ではなく、この商店街も駅から歩いて10分ほどの所にある。ゴールデンウィークだからだろうか(そうであると思いたい)、多くのお店はシャッターが下ろされていて、歩いている人もほとんど見かけない。
ちなみに、この時点で実際に歩いていた場所は下記「現在地」の線路を挟んだちょうど反対側、本町六丁目の付近である。
大通りから1本奥へ入ると、またなかなか乙な雰囲気。
商店街の中で見つけた喫茶店「モリムラ珈琲店」で休憩。優しいマスターと奥様がやっているこじんまりとした喫茶店である。生絞りのオレンジジュースとクリームあんみつを注文。オレンジジュースには自分で甘さを足せるようにシロップがつくのだが、そのままでもオレンジの甘さが十分にあって美味しい。クリームあんみつはフルーツたっぷりで、あんこもずっしり濃厚。おそらく、あんこは手作りだろう。居心地も良く、ゆっくりと本を読むことが出来たこともあり、予定の時間をオーバーして滞在した。
桐生駅を経由して、今度は駅の反対側の末広町通りから本町通りを歩く。本町通りのこちら側には歴史的建造物が点在していて、散策にはもってこいの場所になっている。特に、「有鄰館」という、かつては酒や醤油、味噌などを醸造していた矢野商店の蔵群が印象的だった。現在はほとんどの蔵が展示場やイベントスペースになっているようで、今日もいくつかのイベントが開催されていたようだ。
この時点で実際に歩いていたのは、駅から末広町通りを歩いて下記「現在地」を通り、線路を背にして本町通りを進んでいく(右)方向。
末広町商店街。
桐生中央商店街(本町通り)。
桐生信用金庫。
1829年創業の老舗鰻屋「泉新」。
有鄰館の正面にある現在の「矢野商店」。
散策中にどうしても気になるお店があり、お腹は空いていないのだが、思わず入ってみる。お店の名は、「ほりえのやきそば」。桐生や足利地域のご当地グルメ「ポテト焼きそば」の有名店らしい。焼きそばのメニューには普通と肉入りがあって、いずれにもポテトがついているようだ。私が注文したのは、普通の焼きそばとラムネ。味は素朴であっさりとしたソース焼きそばで、ポテトとの相性も良い。お店そのものの懐かしい雰囲気も含め、西新井大師にある「かどや」に似ている。地元にこういうご当地グルメがあるというのは羨ましい。
桐生駅に戻り、17時12分発の快速足利藤まつり4号に乗る。185系特急車両で運転される臨時列車で、これに乗るのが私の今日一番の目的である。全車指定で指定券は全て売り切れとなっているが、大半の乗客は先ほど行ったあしかがフラワーパークの最寄駅である富田駅から乗車してくるので、桐生を出るタイミングでは車内はガラガラだ。
予想通り、富田駅から車内は満席になる。私が下車する品川までの所要時間は、約2時間20分。当初は終点の大船まで行って引き返そうと思っていたのだが、持ってきた本を全て読み終えてしまったので、真っ直ぐ帰ることにした。
20時過ぎに蒲田へ戻り、妻と待ち合わせて家の近所の焼肉屋「海山」で夕食。妻は今日、友人たちと代々木公園でピクニックをしたそうで、少し日に焼けていた。そんな妻の姿を見て初めて、そういえば自分もそこそこ日焼けをしていることに気付く。そういえば、今日は日差しの中をかなり歩いた。万歩計を見たら、20,000歩を超えていた。さすがに足もパンパンになっている。