卍の城物語

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「津軽」の旅(5)~竜飛館

2009-12-05 01:38:10 | 観光地
太宰治生誕百周年記念企画「津軽」の旅・完全版。
第五回は三厩の竜飛にある「竜飛館」です。

「本覚寺」を後にし「義経寺」にも寄った。
「義経寺」は今年の2月に訪れてるので、詳しくは省略します(当ブログ参照)

義経寺を後にし、竜飛へ向かう。
国道339号線を西へ。国道なのに道路は狭くなるばかり。
そうして竜飛岬へ辿り着く。

余談だが、昼食をどこにしようか迷って迷っていつのまにか竜飛まで食わずにいた。
道の駅ならマシな食事にありつけるだろうと思ったが、道の駅三厩は冬季でもう営業しておらず・・・。
竜飛ホテルにでも行こうかと思ったが、岬の上にお土産屋が一軒だけ営業しており、そこでイカ焼と味噌しょうがおでんを買って岬の吉田松蔭など多数の石碑や砲台跡のある屋根付き休憩場で軽いお食事。美味かった。

この日の竜飛は静かであった。「そよ風」が吹いていた。こんな天気に義経は海を渡ったのかね。

そこから階段国道へ。
以前は積雪があったので通れなかったが、今回は無事通れた(下りは楽だが、上りはかなりキツイ!!もう二度とこの国道は歩きたくない)

その高台から見る集落の風景、まさに「鶏小屋」であった。
「小さい家々が、ひしとひとかたまりになって互いに庇護し合って立っているのである。」と太宰は書いているが、全くその通りである。

家々の隙間はほぼ無く、建て替えする時どうするのだろう?と余計な心配をしてしまうほどである。
このどこかの家族が「大改造!!劇的ビフォーアフター」でリフォームを頼んだら、タイトルはこうなるだろう。「極寒!鶏小屋のような家」。

その前に心配するのは火事である。一軒が火事を起したら、風の強い日だったら集落ごと全焼してしまいそうだ。

そんな無駄な杞憂を考えながら階段国道を下りると、その集落の中へ迷い込む。人の家の真ん前に国道が走っている。
誰が造ったのか知らんけど、ここらの住民にはいい迷惑だろう。

そして普通の国道へ抜ける。
そこから目指すは太宰治の文学碑。海沿いにあるのは知っていたので徒歩で向かった。

おや、右手に「津軽」の竜飛での一文が書いている塀があった。
その塀の奥には「奥谷旅館」と書いてある。
こりゃ調査不足だった。ここは太宰が竜飛に訪れた時に泊まった旅館で、今は「竜飛館」として無料開放している。

文学碑を拝んでからここへ。
入るまで未だに旅館を経営していると勘違いしてしまい、入るのをためらったが、無料だったので入館。

まず大きな画が出迎えてくれる。
高野元孝の描いた「北の浜」という油絵である。
こりゃ、見事である。冬の竜飛の厳酷さ、惨忍さを豪快に描ききっている。名画である。

そこから昔の竜飛の写真など。向かいにはテレビや映画で竜飛ロケをした際の演者のサイン色紙など。
隣には棟方志功も泊まった部屋(?)もあり。

そして奥には太宰とN君が泊まった宴席の様子を再現している。
ここでの様子が本文に楽しげに描かれているので、その一文をどうぞ。

~「歌を一つやらかそうか。僕の歌は、君、聞いた事が無いだろう。めったにやらないんだ。でも、今夜は一つ歌いたい。ね、君、歌ってもいいたろう。」
「仕方がない。拝聴しよう。」私は覚悟をきめた。
 いくう、山河あ、と、れいの牧水の旅の歌を、N君は眼をつぶって低く吟じはじめた。想像していたほどは、ひどくない。黙って聞いていると、身にしみるものがあった。
「どう? へんかね。」
「いや、ちょっと、ほろりとした。」
「それじゃ、もう一つ。」
 こんどは、ひどかった。彼も本州の北端の宿へ来て、気宇が広大になったのか、仰天するほどのおそろしい蛮声を張り上げた。
 とうかいのう、小島のう、磯のう、と、啄木の歌をはじめたのだが、その声の荒々しく大きい事、外の風の音も、彼の声のために打消されてしまったほどであった。
「ひどいなあ。」と言ったら、
「ひどいか。それじゃ、やり直し。」大きく深呼吸を一つして、さらに蛮声を張り上げるのである。東海の磯の小島、と間違って歌ったり、また、どういうわけか突如として、今もまた昔を書けば増鏡、なんて増鏡の歌が出たり、呻くが如く、喚くが如く、おらぶが如く、実にまずい事になってしまった。私は、奥のお婆さんに聞えなければいいが、とはらはらしていたのだが、果せる哉、襖がすっとあいて、お婆さんが出て来て、
「さ、歌コも出たようだし、そろそろ、お休みになりせえ。」と言って、お膳をさげ、さっさと蒲団をひいてしまった。さすがに、N君の気宇広大の蛮声には、度胆を抜かれたものらしい。私はまだまだ、これから、大いに飲まうと思っていたのに、実に、馬鹿らしい事になってしまった。
「まずかった。歌は、まずかった。一つか二つでよせばよかったのだ。あれじゃあ、誰だっておどろくよ。」と私は、ぶつぶつ不平を言いながら、泣寝入りの形であった。

続く。

入館料・無料
開館時間・9:00~16:30
住所・外ヶ浜町三厩龍浜59-12
電話・0174-31-8025

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