卍の城物語

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「津軽」の旅(3)~観瀾山

2009-11-30 15:03:09 | 観光地
太宰治生誕百周年記念企画「津軽」の旅・完全版。
第三回は蟹田の「観瀾山」です。

「芦野公園」を後にし、北上。
国道339号線から県道12号線へ。ここからひたすら東へ進むと陸奥湾へ辿り着く。
国道280号線に入ってすぐ左手に「観瀾山」が見えてくる。

「観瀾山」は標高40mほどの小高い丘で、頂上部は公園として整備されている。
蟹田町の集落や陸奥湾を一望出来、天気のいい日は夏泊半島や下北半島、そして北海道まで望める。
目の前は海水浴場で、「トップマスト」という観光案内所もある。

前回の「津軽」の旅では積雪の為に観瀾山に登るのを控えてしまったのが悔やまれてならなかった。
今の時期は積雪の心配などないので、車で頂上まで上った。
もちろん歩いてでも登れます。

山頂部からの景色はそれは素晴らしいものだが、天候は曇っていたので、好天ならさらに楽しめたであろう。雨降るよりはましであるが(この日の天気予報は雨だったので)。

太宰は「津軽」文中で、「蟹田ってのは風の町だね」とつぶやいているが、この日はおそろしく無風であった。そして曇天も相まって、蟹田の町は静かで寂しいように見受けられた。

中腹部には神社があり、山頂部には三十三観音石像もあった(だが観音堂はなかった)。

山頂には様々な人物の石碑があり、そして目当ての太宰治の石碑は一番見晴らしのいい場所にあった。
石碑には太宰の作品「正義と微笑」より、「かれは、人を喜ばせるのが 何よりも好きであった」の一文を、佐藤春夫が題字をとっている。
太宰治の作家人生そのものを表わした言葉である。

太宰はこの「津軽」でまず蟹田を訪れている。中学時代の唯一の友人と称してるN君に会う為にである。
N君の家で酒を酌み交わした次の日に、この観瀾山に花見に訪れている。
N君、T君、Sさん、Mさんと一緒に花見をしながら大いに語り合い、酔った太宰は暴言を放っている。
太宰についてそんなに詳しいわけでもないので理由は知らなんだが、太宰は志賀直哉を目の敵にしていて、志賀直哉が東京どころか、この蟹田の青年たちにまで評価されていたのが腹立たしかったらしい。
最後にそのユーモラスな事件の一文を紹介しておく。

~「僕の作品なんかは、滅茶苦茶だけれど、しかし僕は、大望を抱いているんだ。その大望が重すぎて、よろめいているのが僕の現在のこの姿だ。君たちには、だらしのない無智な薄汚い姿に見えるだらうが、しかし僕は本当の気品というものを知っている。松葉の形の干菓子を出したり、青磁の壼に水仙を投げ入れて見せたって、僕はちっともそれを上品だとは思わない。成金趣味だよ、失敬だよ。本当の気品というものは、真黒いどっしりした大きい岩に白菊一輪だ。土台に、むさい大きい岩が無くちゃ駄目なもんだ。それが本当の上品というものだ。君たちなんか、まだ若いから、針金で支えられたカーネーションをコップに投げいれたみたいな女学生くさいリリシズムを、芸術の気品だなんて思っていやがる。」
 暴言であった。「他の短を挙げて、己が長を顕すことなかれ。人を譏りておのれに誇るは甚だいやし。」この翁の行脚の掟は、厳粛の真理に似ている。じっさい、甚だいやしいものだ。私にはこのいやしい悪癖があるので、東京の文壇に於いても、皆に不愉快の感を与え、薄汚い馬鹿者として遠ざけられているのである。「まあ、仕様が無いや。」と私は、うしろに両手をついて仰向き、「僕の作品なんか、まったく、ひどいんだからな。何を言ったって、はじまらん。でも、君たちの好きなその作家の十分の一くらいは、僕の仕事をみとめてくれてもいいじゃないか。君たちは、僕の仕事をさっぱりみとめてくれないから、僕だって、あらぬ事を口走りたくなって来るんだ。みとめてくれよ。二十分の一でもいいんだ。みとめろよ。」
 みんな、ひどく笑った。笑われて、私も、気持がたすかった。~

続く。

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2 コメント

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トラバありがとうございました。 (毎日ヶ春新聞)
2009-12-01 01:35:51
 トラバどうもありがとうございました。はじめまして、毎日ヶ春新聞です。
 長く青森に暮らしているのに、観瀾山へはたった一度しか行ったことがありません。2005年の暑い夏の日でした。小説「津軽」を読むと、りんご酒を飲みたくなりますが、しかし一度もまだ飲んだことがありません。今年の夏はようやく初めて小泊へ行きました。生まれが南部で根に南部衆が残っているからなかなか津軽へは足が向かないのかもしれません。でも機会を見つけて、少しずつ、「津軽」を旅してみたいと思います。これからもどうぞよろしく~。
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無類の津軽好き吉田栄作 (マーズれい郎)
2009-12-01 22:45:21
コメントありがとうございます!

南部の方でしたらなかなか津軽には足が向かないのはわかります。
自分は南部には一回も行った事ないですから(笑)
別に津軽と南部がどうこうというわけじゃなくて、単に交通アクセスが不便なだけだからなんですけどね。

太宰がいたからこんな田舎でも郷土愛を覚えることに感謝したいです。
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