Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

美湾

2017-10-31 21:22:47 | 日記

 飛行機が滑走路を滑り出しました。待ちかねていた旅行者の私達はいよいよだと胸が躍ります。遂にオーストラリアに向けての旅に出発するのです。

 と、グイーンと、車ならアクセルを踏み込んだと言う感じで、私に限らず機内にいた皆が同じようにものすごい風圧を受け始めました。体が座席にベシッっと貼り付けられた感じです、顔はまともに前を向く事が出来ません、何故なら息が出来なくなるからです。透明な膜が顔に当たり鼻と口を覆われたような息苦しさを覚えました。苦し紛れに頭を下げると呼吸は楽になりました。機内は顔に当たり脇へ抜けて行く気流が目に見えるような物凄い圧力の掛かり方でした。私は顔を下げ下向きにすると、斜め後方へ顔を向けました。こうするとどうやら話も出来そうです。

  「この前のハワイ旅行へ行かれた時も、こんなでしたか。?」

「…」

「最近の飛行機はこうなんですか?」

私は隣の熟年ご夫婦のご主人に尋ねてみました。が、ご主人は苦しそうで言葉が出ないようです。喘ぐように、あなたどうやって喋ってます?と言われるので、頭を下げて顔を横向きにしたら喋れましたと言うと、

ようやく顔を下げこちらを向いたご主人は話しが出来る状態になりました。しかし、

「いや、この前の時はこんなでは無かった。」

とだけ仰り、後の言葉が続かないようでした。私は何事だろうと訝しく思いました。

滑走路をこのような状態でゴーっと走ったかと思うと、ふわりと浮き上がった感じがして、ゴーっと空中を昇って行く気配です。そしてようやく機内の風圧が緩んで来ました。


美湾

2017-10-31 21:05:37 | 日記

 「お互い様ですから。」

そう添乗員さんに言われた言葉を、私は搭乗時間が来るまでぼんやりと考えていました。時間は19時頃だったでしょうか、そろそろ外は暗くなり、室内が電灯で明るく感じる時刻だと自覚できるような頃合いになってきていました。私は家の子に向かって電話をかけたと思います。待合室の側の公衆電話です。

 「一寸南の方へ登山に行ってきます。1週間ほどだけだから、いい子でお留守番していてね…。」

そんな事を言って、安心するように、大丈夫、危険なところではないからと子供に念を押して、ちゃんと帰って来るからねと言い聞かせて電話を切りました。

 さて、私はマスクをしていたように思います。やはりインフルエンザだったかもしれ無いと思うと、マスクをせずにいられ無かったからでした。いつマスクを外したか覚えていませんが、シドニーの空港でも最初マスクをしていたように思います。念には念を入れて、うつさないようにと気を配っていました。

 搭乗してみると、座席は年配のご夫婦と3人掛けでした。還暦の記念か何か、フルムーンというような事だったと思います。1月ほど前に息子さんがハワイで挙式したので、1月ほどの間に2回海外旅行で飛行機に乗ったというような事をご主人が話しておられました。何しろ、私の横がご主人で、ご主人の向こうが奥様でした。どうしてもご主人とお話する事になってしまいました。旅の初めの内は奥様の方は寡黙な方でしたから尚更でした。


美湾

2017-10-31 20:45:10 | 日記

 集合後、ブースの添乗員さんから各自質問がありました。インフルエンザ等に掛かっていないかという問いも勿論聞かれました。オーストラリア国内に風邪のウィルスを持ち込んでは行けませんからね、当然ですね。それで私も正直に、

「38度近い熱が2日間あって、漸く昨日の夕方4時くらいに平熱まで下がったところです。」

「熱が下がってから丸1日経てば大丈夫なのでしょうが…。」

と、半分諦めた感じで、私は60%は行きたい欲望に駆られながら眉根に皺を寄せていました。『駄目でしょうか…。』という心の声が口に迄は上って来ませんでした。

 「大丈夫です。」

「えっ?」

添乗員さんのこの言葉に、いいのだろうかと私はびっくりしました。

「いいんですか。」これは言葉に出ました。せめて1日過ぎればと思っていた私に、

「もう1日経っています。」

と、添乗員さん。

 そうです、私はこの日電車の中にばかりいたので、もう5日の夕方を過ぎたという感覚が実感としてなかったのです。言われてみれば熱が下がってから丸1日が過ぎていたのでした。何となく半信半疑でそうですねと鸚鵡返しに返事をして、私は旅行に行けるのだという嬉しさを噛みしめるより、唯ホッとしたのを覚えています。それでも、やはり少々の罪悪感という物が私の心の中に残っていました。