飛行機が滑走路を滑り出しました。待ちかねていた旅行者の私達はいよいよだと胸が躍ります。遂にオーストラリアに向けての旅に出発するのです。
と、グイーンと、車ならアクセルを踏み込んだと言う感じで、私に限らず機内にいた皆が同じようにものすごい風圧を受け始めました。体が座席にベシッっと貼り付けられた感じです、顔はまともに前を向く事が出来ません、何故なら息が出来なくなるからです。透明な膜が顔に当たり鼻と口を覆われたような息苦しさを覚えました。苦し紛れに頭を下げると呼吸は楽になりました。機内は顔に当たり脇へ抜けて行く気流が目に見えるような物凄い圧力の掛かり方でした。私は顔を下げ下向きにすると、斜め後方へ顔を向けました。こうするとどうやら話も出来そうです。
「この前のハワイ旅行へ行かれた時も、こんなでしたか。?」
「…」
「最近の飛行機はこうなんですか?」
私は隣の熟年ご夫婦のご主人に尋ねてみました。が、ご主人は苦しそうで言葉が出ないようです。喘ぐように、あなたどうやって喋ってます?と言われるので、頭を下げて顔を横向きにしたら喋れましたと言うと、
ようやく顔を下げこちらを向いたご主人は話しが出来る状態になりました。しかし、
「いや、この前の時はこんなでは無かった。」
とだけ仰り、後の言葉が続かないようでした。私は何事だろうと訝しく思いました。
滑走路をこのような状態でゴーっと走ったかと思うと、ふわりと浮き上がった感じがして、ゴーっと空中を昇って行く気配です。そしてようやく機内の風圧が緩んで来ました。