あれっ?。2階に上って来た私は、寝室に父がいる事に驚いた。何時の間に帰って来たのだろう。そして、部屋がきちんと整頓されている状態なのに気付いた。
「布団が片付けてある。」
何時もは両親の布団や、私の布団が敷かれたままになっているのだ。時には母の布団だけ上げてある事も有ったが、畳に敷かれた儘の父と私の布団は定番といってもよかった。
私はこれらの布団が、私の為だけの昼寝用に敷かれているのだろうと思っていた時期もある。が、外遊びに夢中になるに連れ、昼下がりにこの部屋に入る事が少なくなってみると、時には私の布団も上げられている事があった。そんな時は父の布団だけが畳の向こう、部屋の奥に敷かれている。そして、今日の様に父だけが1人、その上で昼寝をしている姿を私は以前にも見た事が有る。
しかし、今日は父がまだ外出中だと思っていたので、部屋に1つだけ敷かれた布団と、その中に端然とした寝姿で父が収まっていたので驚いたのだ。布団も乱れずにきちんと整えられて父を覆っていた。私は寝室に足を踏み入れると、足を運ぶに連れてその部屋の端正な雰囲気と清々しさに新たな驚きと心地良さを感じた。
気持ちいい部屋になっている。何処が如何とは言えないのだが、私はそう感じた。自分で掃除などした事も無い私だ、整理整頓は遊びの中である程度知っていても、掃き拭きする事等、習い覚えていない私には考えも及ばなかった。
何が何時もと違うのか?、部屋の中をきょろきょろ見回してみる。そんな私の目に、窓辺の縁側の床にバケツが1個載っているのが目に付いた。バケツの縁には雑巾がきちんと畳んで掛けられ、長方形の白っぽい端を見せていた。
バケツだ、と私は思った。私が2階の縁側でこのバケツを見るのは初めてでは無かったが、これも何となく何時もと雰囲気が違って見えた。何故だろう?、何だか不思議な事ばかりだ。私は小首を捻った。
そこでバケツに近付いてみると、中には未だ水が入っている。濁った水だ。が、バケツの縁に掛けられた手拭いは、真っ新という物では無いが未だ白くそう汚れはていなかった。これも私には妙な気がした。今迄見たこのバケツには、中にこういった汚れ水が有る時は、共に有る雑巾も酷く汚れて白さを残していなかったのだ。時には汚水の中に身を沈めた儘の汚い雑巾にお目に掛かった事も有った。「変だなぁ。」と私は呟いた。
変は変なのだが、今日はこれに限らず色々な事が変続きである。今日はこれまでにして祖母の言う通り昼寝をしようと私は部屋の中央まで戻って来て、端に寝ている父の寝顔を覗き込んだ。父の布団の縁に座って、その寝顔を横から眺めてみる。鼻が高く端正な顔立ちだ。私は思わず自分の鼻を撫でてみた。