私はその時抱いた歓喜の気持ちの儘、その儘に階上にいた祖母達を迎え入れる事を決意した。私は笑顔を崩さなかった。寧ろ今迄以上に気持ちを込めて、より笑顔に力を入れると歓迎の気持ちを表現した。
そんな私の目に、不思議な事に祖母は明らかに元気を失った。先刻私が目にした様な塞ぎ込んだ姿、彼女の齢を感じる寡黙な姿へと変わって行った。彼女は肩を落とし、項垂れると、私を避ける様に私から彼女の身を逸らせた。
私がそんな祖母に、どう対処したらよいかと決めかねていると、階上からは残っていた人物達が降りて来た。私の母は勿論だったが、その人物達が私の目の前に降り立ってみると、そこには2人の婦人が並び立っていた。それは私の母と伯母である。
『あれっ?、伯母さん。』
如何して伯母さんが家に?。私が思いも掛けなかった人物がこの家に増えていたのだ。私はこの意外な事実に目を見張った。そしてその人物は誰あろう、普段家で私が殆ど目にした事が無い、父のすぐ上の兄三郎伯父の連れ合いに当たる伯母だったのだ。
伯母さんは何時の間に家に来たのだろう。しかも私の知らない間に2階に迄上がっていたのだ。私は面食らった。ポカンとして口を開けると伯母の顔を見上げた。伯母は微笑んでいたが、何だかきまり悪そうな感じで私から視線を逸らせた。
「ねえさんは良いけど…、」
と、祖母は今下りて来た2人に顔を向けて行った。
「あなたは何が可笑しいの。」
「人の旦那さんに、調子が悪いと言うのに、笑うという事があるかい。」
と、祖母の言葉は小さくその声音も普通の調子だったが、彼女が明らかに立腹しているのだという事を私が気付く迄にそう時間は掛からなかった。伯母は顔を曇らせると、すみませんと小声で詫びを述べた。
その後すぐ、祖母は自分達3人の傍から私を遠ざける為だろう、私に台所への仕事を言いつけた。奥の戸締りがきちんとしているかどうか、勝手口の戸締りの確認をさせに行かせたのだ。私が再び階段の部屋へ戻って来ると、階下には何と伯母に変わり、彼女の夫である三郎伯父がいた。そして祖母と伯父の間で何やら話し合いが行われている気配だった。