Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 153

2020-02-10 10:59:01 | 日記

 『これだよこれ。』

私は思った。上向きに布団に寝転ぶ私の目には、明るい室内の天上板、丸や歪んだ曲線等の年輪が映って来る。一寸頭を傾けて目を脇へと動かすと、壁や障子戸、鴨居等の日本家屋の部分部分が目に付いて来る。

「これが昼寝という物だよ。」

私は呟いた。

 眠りに落ちる迄の退屈な時間だ。私はじっと布団に身を横たえている。難行苦行宜しく目に映ってくるこれ等変化の無い静物を、私は交互に眺めると、時に溜息交じりに見詰めてみたりするのだ。そして、次にはぼやけた視界や、霞掛かった思考の内に自分の所在を慮っている自分に出会う事がある。

 すると、ああ、自分は寝ていたのだと合点する。今は朝か昼か?。私は明るさの具合や、その時に存在する自分の記憶等で何時もは判断出来た。しかし、時に記憶が無い時等もこの頃には出て来ていた。そんな時は、その時に来ている衣類からも朝の起床か昼寝からの物かどうかを判断した。目覚めた時にはっきり何方か分かっている時の方が多かった私だが、相当目覚めが悪い時等、視界も記憶もぼんやりしている時、夢現の私はうんうん唸りながらこの方法を用いて現実を判断する。この方法は私に取って未だ発見して間もない頃だった。

 さて、そうだよと私は思う、さっきのあれはやはりおかしいと思ったのだ。私は自分の寝入り端の記憶が無い睡眠が在るという事を、この時期薄々自覚し始めていたが、それが確実に存在するのだという認識迄は未だ持っていなかった。

 先程縁側で、母から自分が寝ていたと言われた時、今の時間から言えば昼寝に当たる物を自分は取ったという記憶が無かった。ましてや寝入る迄に行われる、恒例の退屈な行程が存在していなかった。私には抱っこしてあげると言われた頃までの記憶しかなかったのだ。昼寝に入るまでの行程が存在しない昼寝等、私には考えられなかった。記憶する退屈な時間が無い、目覚めた時の寝入り端の記憶も無い。何方も無い事が私に自分の縁側での昼寝など存在していなかったと思わせていた。

 「やっぱり変だ!。」

私は声を上げた。そして、この声に自分の傍で横になっている父が目覚めたのではないかとハッとすると、急いで口に手を遣った。私が首を曲げてそっと父を見てみると、彼は相変わらずきちんと天井を向いた儘の姿勢で、身じろぎもせずもに布団に横たわっていた。私はほっとして溜息を吐いた。