Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 89

2020-12-11 06:13:48 | 日記
 「触っちゃダメだ!。」

と透かさず祖父の大きな声。ハッとした顔で私の従兄弟は宙へと視線を泳がせた。そうしてパッ!と手を開き、私の腕を離した。従兄弟は緊張して身構え、思わずその身が固くなった様子だった。祖父の姿を後方に、私の目の前で視線を宙に浮かせた儘、従兄弟は自分の耳に全神経を集中させている様子だ。

 「亡者に触れてはならん。」

祖父がこう口にすると、はっとして従兄弟の視線が定まり、それは私の顔へと注がれた。今迄ごく普通、生真面目な顔付きだった従兄弟の目の中に、急に猜疑と恐れの色が浮かんだ。そうしてジロジロと私の目を見詰めて来る。それは何事か探る様な気配だった。私は思わず、「なあに?」と尋ねてみる。

 従兄弟はそんな私に何か言おうと口を開けた。が、そこでまた祖父が声を掛けて来た。「霊と口を聞くんじゃ無い」と言う。祖父にしては珍しくキッパリとした命令口調だった。私は、今迄この様な祖父の呼び掛けを家で聞いた事が無かった。おやっと思う。私達孫と祖父の間の距離が急に遠ざかった気がした。私が見ると従兄弟は見事に萎縮して、おどおどとした目付きに変わっていた。私はあっけに取られ、そんな従兄弟の顔をポカンとして見詰めた。

 すると祖父の方は、こっちへおいでと、これは私の目の前の従兄弟にだけだろうと私は感じたが、こちらに向けてまた声を掛けて来た。この声に、日頃向こうの家族の声には従順な従兄弟の事、直ぐに私達の祖父の命令に従うのだろう、こう思っていた私の予想を裏切って、この時従兄弟の方は一切動きを見せなかった。如何したんだろう?、私は思った。

 「如何したの?。」

私は座敷にいる祖父に聞こえない様そうっと小声で尋ねてみる。すると従兄弟は今行きたく無いのだと答えた。

「今行くと何か言いつけられるんだ。」

あんな声で呼ばれると、そうなのだと言う。そうなんだ。と私は徐に、ごく自然に相槌を打った。それに、それにと、従兄弟は言い淀んだ。「それに?」、私はそんな従兄弟に尋ねた。

 「お願い事があるんだ。」

漸くの事で、思い切った様子で頷いた後、やっとこう口を開いて従兄弟は私に言った。この時私は、そのお願い事というのは祖父に対しての物だと感じた。それなら尚の事早く向こうへ行って、祖父にそうだと言えば良いのにと思った。

 おねだりかしら。それで言い出し難くって、ここでおろおろと躊躇して、従兄弟は手を小招いているのだろう。『遠慮者だなぁ』、可笑しくなった私はふふっと笑った。祖父とは、同居しているという気安さがあった私である。従兄弟と私は同じく彼の孫同士だが、従兄弟の方は他所に家が有り、そこで普段住んでいるだけに、私達の祖父に対しては遠慮があるんだと、私はこう考えてこの従兄弟に不憫な物を感じた。そこで私は、自分だったら遠慮等しない、私達は同じく彼の孫に変わりはないのだからと、従兄弟に率直になり、勇気を出して、直ぐに彼におねだりに行くべきだと勧めた。

「お祖父ちゃんに?。」

私の言葉を聞いていた従兄弟は不思議そうな顔をした。自分は特に祖父に願い事は無いと言うのだ。では、何をそんなに迷っているのだろう、その疑問を私は尋ねてみた。

「お願いをしたいのは智ちゃんにだよ。」

私に⁉︎、これは意外だ!、私は驚いた。何故私に?。

 実はこの従兄弟は、私の父の直ぐ上の兄、同町内に住む三郎伯父の家の子供の1人だった。私より一つ上であり、私とは最も年が近かった。彼ら従兄弟達の間でも私とは1番仲が良かった。私より年上の従兄弟が?、年下の私に頼み事とは。私は何だろうと不思議に思うと同時に、その願い事の内容という物には全く想像だに及ばなかった。年下の私に?、一体全体従兄弟の願いを叶えるという事が出来る物なのだろうか。甚だ疑問に感じて私は目をパチクリとした。正に狐につままれたような気分となった。

 と、チョン!、チョンチョン。拍子木が鳴った。もちろん鳴らしたのは祖父だ。もう仕舞いにしなさい。私には彼がそう言っている様に聞こえた。

「拍子木だ!」

なぁに、如何したの、と、目の前の従兄弟も先程の私同様に、如何にも興味を惹かれた様子で目を輝かせた。そんな従兄弟の浮き立つ様な様子に、座敷からそれを眺め、従兄弟の気配を読んだ祖父はほくそ笑んだ。チョンチョンと、如何にも楽しそうな音色で拍子木の音を響かせて来た。

「ちょ、ちょっと、」

従兄弟は私に向けて言い出し、ソワソワ座敷の方向へ背伸びなどし始めると、間なく、次に響いて来た音に釣られて、行って来るねと透かさずこの場を後にした。それは何かに驚いた鳥がその場を飛び立つばかりの素早さだった。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-12-11 06:00:29 | 日記

うの華 119

 私は祖母が言葉を止めて急にちらりと階段を見上げたので何事だろうと思った。「お義母さん。」今度は私にも声が聞こえ、その言葉の意味と声の主が分かった。 私の母の声だ。母は......

 夜明け前、未だ暗い今朝です。日の出の時刻が遅くなりました。もう少ししたら朝食にしようと思います。
 さて、来週は雪マークのついた天気予報です。いよいよ冬本番かと溜息です。今年は例年並みという予想、こちらは雪国だけに雪が多そうです。体調は良く無いので、雪掻きはそうできないだろうと思うと、ポツポツですね。積雪量が多い時は埋もれているでしょう。今年の冬は行き当たりばったりです。