私より一つ上のこの従兄弟は、当たり前のように私より何でもよく出来たし知識も豊富だった。私はかつて、父から親戚や従兄弟達の紹介をされた日に言われた言葉、「親戚とは仲良く」の教えを受けてから、何思うこと無くこの従兄弟とも仲良く過ごして来た。彼等の中で若年の私が、彼等からあれこれ教えられる事は親戚として当たり前の事であり、彼等が私より知識が多い事も、私より早くこの世に生まれたからなのだと私自身諦めていた。これは、従兄弟への劣等感に苛まれた私を、やはり父が諭したからだった。
或る日の事だ、従兄弟達との外遊びから帰って来た私はペタリと座敷に座り込んだ。そうして遂に大粒の涙を零すと、今まで漠然と抱いて来た感情が、堰を切って私の内から溢れ出て来るに任せた。
私は遊びでも何でも、一つ上の従兄弟のように巧く出来ない、世の中の物事を私自身が多く知っていない、と、おんおん泣き出すと、悔し紛れに畳をバタバタ両の手で打ち付けた。すると、そうやって酷く号泣していた私の側へ父がやって来た。
父は、それは歳の差に寄る不可抗力という物だと私に説いた。人がこの世に出て来た各々の経過時間、過ぎた時間と、各々が出会った経験の多少、多い少ないの違いが有るんだ。時が経てばお前にも出来るようになるさ、いや、彼れ等よりもっと上手に出来るかもしれないぞ、云々。そう語る父に、この時の私は上手く納得させられたのだった。
「人間、努力だ!。
最後に父のお決まりの言葉が出て、涙に濡れそぼり、頬を濡らした儘の私は、父の長い説教を聞き終えた。