そんな私の様子を見て、なんだい?と従兄弟は言うと、ニヤッと笑顔を浮かべた。
「智ちゃん、君ね、皆から好かれていると思ってない?。」
笑顔の儘で従兄弟は、私にこう尋ねる様に話し掛けてきた。そうして直ぐに、こう自分の言葉を訂正した。
「ああ、そうか、もう、いたかだ。」
智ちゃんがここにいたのはもう昔の事だものね。そうだそうだとしたり顔風で従兄弟は言った。
「この昔の事、という言い方は難しいんだ。何時も兄さんに言い直させられるんだよ。」
ここで従兄弟は珍しくしょげて見せた。この従兄弟の一連の所作に、これは従兄弟が本当に態としている事なのだろうか?、と私は内心訝った。何故ならこの従兄弟が、自分の失態の様子を年下の私の前で、さもあからさまに、無防備に曝すという行動をするとは私には思えなかったからだ。しかし従兄弟がもし真面目なら、この従兄弟にしてはこれが全く初めての私の目の前で見せた失態の姿だった。
今迄の従兄弟は、私の目の前で真新しい言葉の知識を披露する時、自分の顔、言葉の端にでさえ、微塵も自慢気な様子を浮かべたり、漂わせたりもしなかったものだ。『もしかしたら、』私は思った。これは従兄弟が新しく習得した冗談なんだろうかと。
私は従兄弟から視線を外してあれこれと思案に入った。私はふと、居間と座敷との間にある白い障子戸に目を奪われた。障子襖の細かく小さな木の桟、そこに広がっている複数の格子模様を眺めた。それは木の枠で区切られた画一な図形達だった。小さくて可愛らしい、焦げ茶色の枠を持つ無垢な白い長方形の数々だ。
私は従兄弟の意図する所がさっぱり分からない儘だった。しかし、私も従兄弟も未だ幼い。この世に出て未だそう長くないのだ。あの数多く並ぶ可愛い一つ一つの障子模様の様に、い並ぶこの世の子供達の集合の中に2人はいる。2人は未だ小さいものなのだ。そう思うと、ここにいる2人、同じ様な年端の2人の現在の人生が、そう掛け離れた物では無い様に私は感じられた。
「そう違わない。」
私の口から言葉が零れた。2人の人としての成長はそう違わないんじゃないかな。私は思った。『きっとそうだ!。』私は思った。私は思った儘に従兄弟に問いかけてみた。私と従兄弟はそう違わないよねと。
「何だい急に。」
年下の私にこう言われれば、従兄弟は多分不愉快な気分になるだろう。私にはこう予想が着いていたが、将にその通りに反応した従兄弟の言葉と顔付きは余りにもあからさまで、その様子に返って私は、得意の笑みを漏らすより失笑せずにいられなかった。そうして、歳上として模範的だった従兄弟が、実は本当は子供らしい子供だったのだと、自分の今考えた考えという物を確信した。