さて、座敷では、未だ歳の若そうな男性と、幼い子供が2人で話し込んでいた。2人は一見親子の様に見え無い事も無い。が、実は親戚同士に当たる関係だ。成人男性の方は、話し込んでいる子供の叔父に当たる人物なのだ。子供の方は、自分の父親の実弟に当たるこの叔父に、何やら盛んに訴えている様子である。
「でも、叔父さん、母の家のお寺さんの話では、人は亡くなったら直ぐに仏さんになるって。」
「それは家の宗派でもそうだよ。」
でも、と、叔父は言った。「それは謂わば例えで、…。」と、謂えば架空の話だからと、あれこれ説明して彼は幼い子を嗜めた。が、それでも子供の方は、いいや、と、男性の言葉を遮った。
「例えじゃない、本当の話なんだ。」
と勢い込んで頑張っている。
その後の子供の話である。つい先だって母方の祖父が亡くなった。が、その時向こうの家で亡き祖父の式が行われ、その時来ていたお坊さんが皆にそう言っていた。
「自分の身近な人が亡くなり仏様にお成りに成りました。謂わば成り立てのほやほやの仏様です。成り立てで未だ慣れない仏様、神様です。が、皆さんの事をよく知っておられます。皆さん何なりと、ご遠慮なくお願いを申し上げてください。」と。
子供はこう叔父に話すと、「この話は兄さんから聞いたのだ。」と付け加えた。自分は留守番で式に出なかった。その時お願い出来無かった。子供はこう付け足すと、如何にも無念そうに顔をしかめた。
「兄さんは線香を上げて願掛けして来たって言うんだ。」
そうしたら直ぐに願いが叶ったのだと子供は言った。「羨ましい。」、羨ましい話だ。子供は尚も渋面をすると、傍らの叔父を見上げて、目で訴えた。
「私も智ちゃん仏様で願掛するんだ!。良く知った仏様で願いを叶えるんだ!。」
だって智ちゃんなら私を知っている仏様だろ、きっと自分の願いを叶えてくれる。そう子供は叔父に言うと、
「叔父さん邪魔しないでくれ!。」
と、今度は睨むように叔父を見上げて、常日頃、彼に対して自分の胸に抱いていた苦情を並べ始めた。
あの時もこの時も、叔父さんの為に駄目になった。兄さんと母さんの仲が巧く行かなくなったのも、元はといえば叔父さんのせいだ。叔父さんが兄さんを養子にすると言うから…。しっ…。と、ここで叔父が口に人差し指を当てた。
そうして彼は、その話しは内緒だっただろうと言うと、今度は彼が顔をしかめて子供を咎める様に睨んだ。「あの話しはタブーだ。ここ迄にして置きなさい。」、それは智の生まれる前の話だろう。彼は沈んだ調子では声音を落とした。