「もう、他の人の物なの、あの太陽よ?」
私は指さして従兄に夕日を示しました。従妹はにんまり笑うと「そうだよ、あの太陽だよ。」と答えるのです。私は心底驚きました。冗談という物はもう分かっていましたから、従兄の雰囲気からもしかすると、と思い、「冗談?」と尋ねてみました。すると彼は至極真面目な顔付きをして、まさかというように驚いて見せると、これはまた意外な事を言うというように「本との話だよ。」と言うと、やや立腹した顔つきをして私の目を見詰めて来ました。
彼は内心可笑しくてたまりませんでした。幼い子の真面目な顔付や真剣な動作が面白くてたまらないのでした。自分の言葉に右往左往する様子や、そんな子を自分が手玉に取っているという優越感、快感が堪らなく愉快なのでした。彼は続けました。
「だからあの太陽は、絶対君の物にはならないんだ。」
決定的!というように駄目出ししてそう言うと、従妹に真面目な顔をしてみせます。が、やはり目は笑ってしまいました。
この瞬間、『嘘だ。』と私は思いました。よく大人の人が、この場合母が、時には父も、自分に対して信じられないような話をして「これは本当だよ!」と言う時、同じような光を目に宿していました。この光が目にある時、大抵は後で「冗談だよ。」「からかったんだよ。」「さぁ、騙された。」等言って、大人は面白そうに笑うのでした。それで、私は従兄がそう言って笑うのを待っていました。
が、彼はそのまま背を向けると、知らん顔して私の側から離れていく様子です。これには私の癇癪が頭をもたげました。
「一寸待って、お兄ちゃん。」
『冗談なら冗談と言ってくれればそれで済んだのに。』そう思いました。「あの太陽が誰かの物だって言うなら、」
「誰の物なの?」
私はそう言って彼を呼び止めると、このままで、驚かされたままで、後から冗談でしたも無い、騙されて悪ふざけされたままでは済まさないわと、きっ!と身構えるのでした。私はこれから従兄と問答する為に確りと心の準備を整えると、負けないわよ!と従兄のその背を見詰め思うのでした。
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