Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 52

2019-09-18 14:42:12 | 日記

 あれ!?。私は驚いた。父の言っていた通り、その時の障子には穴が4個開いていたのだ。

幾つに見えるか、とか、数えてごらん、等と父が言うので、私は何だか自分が如何にも赤ちゃんねんねと馬鹿にされたような気がした。内心ムッとした。が、私は大仰に父の目の前に腕を差し出し、指で穴を1つ1つ指し示すと、1つ2つと数え、「4つだから4個。」とさも幼げに答えた。そして更にさも得意気に胸を張って微笑もうとした。が、私の顔は自慢顔にならず、やはり照れて苦笑いの顔になった。そして思わずぷっと吹き出して仕舞った。

 父はふんと言う感じで、やっぱりなぁと言った。お前知っていたんだろう。いちいち数えなくてもこのくらいの数なら見て分かっていたんだろう。そう言うと、

「お父さんだってお前くらいの歳には見るだけで分かっていた。」

等と言うので、私は内心それは父の負け惜しみじゃないかなと思った。『真実の分らない人が。』と口から出して呟きたくなった。がそれをぐっと堪えて無言でとり澄ましていた。そんな私の顔色や様子の変化を父も無言で観察していた。私達親子はここで暫く沈黙の時を過ごす事になった。

 そんな沈黙に耐えられなくなり、先ず口火を切ったのは私だった。

「お父さん、未だ障子に穴を開けたのは私だと思ってるの?。」

すると父は俯き加減で悪びれた顔付になった。まぁなぁと言うと父は私から視線を逸らした。彼は障子の穴を見詰め、手を伸べてそっと穴を撫でる様な仕草をして、「今はお前だと思っていないがなぁ…、」と言った。この時、父から初めて犯人がお前では無いという様な言葉を聞いたのだから、私は嬉しい驚きを覚えた。思わず顔がにっこりと笑った。

 「何だ、お父さんにだってきちんとした事が分かるんだね。」

と私が言った物だから、父の機嫌は頗る悪くなった。もうお前とは話をしないと言うと父は

「お前がこの穴を開けたんじゃないなら、この家にこんな穴を開ける人間は1人だけだ。」

と割合大きな声で明確に言うと、ふんとばかりに畳に仁王立ちした。 

 父は直ぐに身を翻すと廊下に向かい、台所に向かって「おい、おい、」と声を発しながら、母への呼びかけを続けて遠ざかって行った。父は居間から台所へと姿を消したのだ。その後は台所から「何ですか急に、」そんな母の声が聞こえていたが、居間にいた私にはその後の両親の話は殆ど聞こえて来なかった。

 この後父と母の間で一悶着あった事は確かだった。父は機嫌が悪くてピリピリしていたし、母ははっきりと顔色が悪くべそをかいていた。それでも、母がこの家を出て行くという事は無かった。


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