「僕はてっきり、あの子は世間知らずの、全くの初心初心ねんねなんだと思っていたんだ、ついさっき迄はね。彼らと話す前、その時での、今の今迄はね。」
それがこんなだったなんて…、随分な発展家だったんだ、あの子。僕、てっきり騙される所だったよ、あの子に。あいつあっちこっちで顔を売っていたんだな。僕も何日か前にあの子と一寸あったんだけど、今日のこの顔合わせであの子について話を聞けて良かったよ。これで僕の方は騙されないで済んだんだから。そう思うといい集まりだったよ、今日は。出て来てよかったんだ。彼は心此処にあらずというように、何だか呆然自失として喋るのでした。
「それにしても、向こうの奴らの中にもあの子について何人かこの事に気付いたのがいたよ。」
顔色変えてたからな。中にははっきり怒ってる奴もいたよ。あの調子じゃぁ、これからはあの子もここいらでは今までの様には行かないな。今日、皆にバレたからなぁ、発展家だって事は皆もう知っているんだ。周知の事実という事になったんだ。今日の会合であの子の日頃の行状は明るみに出たっていう事だな。
自業自得といえばそうだけど…。これからは相手にする奴がいなくなるなぁ、あの子。結構親切でいい子だったのに。
「そう思うと、可哀そうな気がするんだ。あの子も。」
1人で寂しくなるなぁ。彼は何だか同病相亜憐れむという感情に襲われるのでした。
彼自身、両親が遠い土地からこの地へ移って来たので、地域の子供達からは他所者扱いされてよく1人になりました。ごく近所の子達にお情けで付き合ってもらうか、彼自身も地域の子等に必死に取り縋って交流して来たのでした。地域から外れてしまう孤独者の心理をよく知っていました。
それにしても、今迄彼自身も知らなかった、全く気付かなかった、あの子とご近所の子供達の隠れた交流に、この時の彼はハッキリとしたショックと憤りを覚えていました。そして、その事に彼自身愕然としていました。
「びっくりだな。子供だけじゃなく親も盆暗だと思っていたら、あの親子揃って結構しっかりしてたんだ。」
君の親戚は親子で案外なやり手なんだ。そんな点ではやはり君達の親戚だなぁ、感心するよ。でも、
「気をつけた方がいいよ、君達家族の方は。」
そう言って彼は瞳を伏せるとあれこれと熟考し始めました。今迄の彼にとっては男同士の友人のいる家の方が、何方かというと同い年の子のいる家より親しかったのでした。彼は色々な事を考え始めました。
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