『知り合いのいる人達はいいわね。』野原さんにとって殆ど顔見知りの人がいないこの会社で、彼女が入社後にそう思って眺める男女のグループは何組かありました。それでも、野原さんにもこの両日で親しくなった同期の女性、新しい友人になりそうだと思う人に出会う機会はありました。
それは出勤時の電車の中でした。同じ電車で何時も会う、同じ会社の同じ新人でした。2人は電車や会社で何回か顔を合わせる内に、何時しか親しくなり始めていました。
彼女の名前は平野奈々さんという事でした。話をしてみると家も1駅と近く、向こうにしても野原さんと同じように社に知人がいないのでした。2人はその後、朝夕挨拶を交わし一緒に出社し始めました。その知り合ったばかりの同僚の女性社員が、何時の間にか野原さんの横に来ている事に彼女は気付きました。
「平野さん」
後ろにいたのねと彼女が声をかけると、彼女も初めて気づいたようでした。
「野原さん、そこに居たの。私びっくりしたわ。私、男の人が人前で喧嘩するのを初めて見たの。」
彼女が青ざめてそう言うので、野原さんもこっくりと頷きました。
「私も、初めてなの。びっくりしたわね。」
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