「存在?」
と孫は応じて、存在していたと言うとと、ああそうかと頷きました。
「もう亡くなっていたの?」と、じっちゃんと彼は思わず祖父を見やって心配そうにその顔色を窺います。いや、
「否、存在はしていたんだが、ほれ、此処の世界の戦争は相当に長引いたという話だっただろう。」
こう祖父が言うと、うんと孫は相槌を打ちます。
「しかし、新型爆弾が開発され無かったから、そのお陰で憂慮するような汚染が全く無く、また、戦争が長引いた分人の数は大量に減ったって言ってたな、その為人の手が足りない此処では人工物が減って、自然は本来の野生状態に近くなり、空気も綺麗だし、一旦爆撃で傷んだ大地もその後は回復傾向、自然に草木が芽吹いて土地は滋養に溢れて来ているという話だった。」
旅行者然として、2人はこの土地の人々からこの世界の情報を集めて来たのです。此処では戦後10年程が過ぎ、大抵の人々の暮らしは未だかなり貧しかったのですが、大気は澄み、人も動植物も元気に生育できる自然な環境の世界となっていました。その為でしょう、ナチュラリストの祖父は現在まで、此処について知る程にこの世界が至って気に入って来ていたのでした。
「去りがたい。」
去りがたい場所だと祖父は嘆息し、遂に自分自身からは言い出しにくかったこの世界の自分の事を口にするのでした。
「出生して行方不明になり、全く消息が分からなくなってしまい、未だその儘なんだそうだ。」
今でも生死不明だと、役場の人はこの世界の私の事を話していたな。親戚が尋ねて来たのは初めてという事だった。祖父は元気なくそこ迄言うと口を噤みました。
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