この話はこれ迄だよ。不意にあっさりと祖母は言った。私は話が途中で打ち切られたような物足りなさを感じたが、祖母の切なそうな表情を見て取ると、彼女から無理して話を聞きだすべきでは無いと察しられた。それで別段彼女に異を唱えなかった。
確かに、その後も私の胸中には祖母の話の続きを聞きたいという思いがあり、それは私の胸で燻ぶっていた。私は自身の好奇心が再び勢いを増しそうだという胸苦しい気配を感じた。この事を自身で感じ取ると、私は自分の胸に手を遣った。そこで胸の内の好奇心を消してしまうべく、私は胸を揉むようにして手を動かした。それから、祖母の姿を見ない様にと顔を俯けた。こうやって私が祖母から目を逸らしている内に、彼女が階下へと消える事を願い私は目を伏せていた。
そんな下降目線の私の視界に、祖母が階段へ向かうべく踵を返す彼女の足が映り込んで来た。良かった、祖母はこの場を去るのだ。これで私は彼女が言いたくない話を無理やり彼女から聞き出すという真似をしなくて済むのだ。私はほっとした。ホッと吐息が漏れた。
祖母はこれを聞き逃さなかった。私を離れようとしていた足が躊躇する様に数歩乱れた。が、彼女はこの場を去る様に歩を踏み出していった。と、彼女の足取りは途絶えた。寝室の次の間で立ち止まった彼女は、気掛かりらしく考え事をしている様子だ。
不思議な物だ、この祖母の様子を目にすると、私は物分かりの良い考えから、何とか彼女が戻って来て話の続きを聞かせてくれるようにと願い始めた。自分本位で、祖母の気持ちより自身の興味を満たしたいという、利己的な考えへと私の思いは変わりつつあった。
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