小雨が降り出したバス停で、その男の人は乗ってきました。厚ぼったい黒
ずんだ汚れが目立つ格好で席に座ると、手にしたビニール袋から摘みだした
小銭を手のひらに広げます。すこし離れていたので金種までは見分けられま
せん、何回か同じ動作をして時々目を上に向けます。表示される料金表の
金額と見比べているのかと思いました。
すると、かなり以前横浜駅ビルの近くで見た男の姿とだぶってきたのです。
バスの男性はかなり年齢のいった人ですが、横浜駅西口であった人は40台
はじめ位でした。3月のはじめ頃、1994年の暮までその近くが仕事場でした
ので、多分その年のことだったでしょう。格好がバスの男性と同じような黒い
汚れた服で雨のなかで立って叫んでいたのです。 「俺を使ってくれ!働ける
のだ!」、同じことを何回も両手を挙げ声をあげていました。
そのことがあってしばらくして、駅の券売機の釣銭出口に手をいれる人をたび
たび見るようになったのです。そしてまたしばらくしてその出口に「ガムなどで釣
銭を止めるなど悪質ないたずらに注意して下さい」という意味の張り紙がされる
ようになりました。
「失われた20年」はバブル経済崩壊後の1991年3月からの20年以上の経済
低迷期をさしています。この間の1998年から14年間毎年の自殺者が3万人を
超えてきました。6月に出された内閣府の2012年版「自殺対策白書」に関しての
「赤旗」主張のなかで「年間自殺者数が3万人を突破した98年は、前年に消費税
が5%に引き上げられたほか金融機関の破たんなど経済状況が一気に悪化した
時期でした」と述べています。 (主張は下記URL)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-06-13/2012061301_05_1.html