≪本編は昭和34年3月に起こった、いわゆるスチュワーデス殺人事件に
もとづいて、著者一流の推理と解決を提示したものである。≫
新潮文庫の『黒い福音』の「解説」はこう書き出しています。
3月10日早朝、東京杉並区の川で女性の死体を発見、27歳の英国海外
航空の日本人スチュワーデスで他殺でした。容疑線上に残ったのがカソリッ
ク教会の神父。二、三回出頭して取り調べていた矢先、この神父が帰国して
しまいます。
≪松本氏はこの事件に深い関心を覚えた。事件の資料を収集し、犯行現場
にも出向くほどの熱意を示した。カトリック教団の壁に閉じ籠って、進んで疑惑
を晴らそうとしない閉鎖権威主義と、事件の核心に迫りながら、もう一歩の追
及のできなかった警視庁側の弱気、それは日本の国際的な立場が極めて弱
かったことに起因するのだが、この二つが氏に真相究明を促し、作品にする
ことにより、臭いものに蓋をする実態に、思いきってメスを振ったものである。≫
この作品は、その年の11月3日号の週刊誌に掲載がはじめられ、翌年の10
月25日号まで連載されました。
当時、清張の連載中の小説は、『影の地帯』、『黄色い風土』、『霧の旗』、『波の
塔』、『わるいやつら』、『球形の荒野』、『歪んだ複写ーー税務署殺人事件』、『高
校殺人事件』などでした。(『人間 ・松本清張』 福岡隆著)
福岡隆さんに関して、辻井喬氏の『私の松本清張論』の「年表」でこう記してい
ます。
≪執筆量の限界を試してみようと思い、積極的に仕事をする。その結果、この年
(1959年・昭和34)なかば以後書痙(しょけい・字を書こうとすると手が硬直して
動かなくなる病気)にかかる。そのために原稿は口述、清書されたものに加筆す
るという方法をとり、速記者福岡隆を約9年間にわたって専属とした。≫
「辻井喬」については http://ja.wikipedia.org/wiki/堤清二
辻井さんはこの本のなかで、
≪清張文学の影響は、読者に世の中の動きを分析できる力を与えること、それが
文学の社会的力であることを示しました。≫と述べておられます。
19日のTV番組については http://www.tv-asahi.co.jp/fukuin/