花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

プーシキン美術館展

2005-10-24 00:58:16 | 展覧会
東京都美術館で「プーシキン美術館展」を観て来た。
http://www.tobikan.jp/museum/pushkin.html

今回はロシア帝政末期の実業家シチューキンとモロゾフのコレクションから、印象派を中心にした展示内容だった。面白いのはコレクターふたりの好みの違いが展示作品から見えてくることで、同じ画家作品でもタイプの異なる作品を購入している。どうやら大きなコレクションになるとコレクター自身の嗜好・個性が出るようだ。花耀亭としてはどちらかと言うとシチューキン・コレクションの方が好きな作品が多かった(^^;

例えば、今回の展示はシチューキンのルノワール「ムーラン・ド・ギャレットの中庭で」がオープニングを飾っていたのだが、以前観たオルセー作品の連作であり、背景の柔らかな光と色彩に溶けこんだ人物たちからは同じように和やかな幸福感が伝わってくる作品だ。で、その隣に並んで展示されているのはモロゾフのルノワール「黒い服の娘たち」。こちらはルノワール模索期の作品らしく、ラフな筆致の背景から人物を強調するような輪郭線が目立ち、ドレスの濃い色彩もあり、より人物造形のメリハリがはっきりしているように思える。柔らかに溶け込む色彩とメリハリの造形、ふたりの嗜好の違いがここにも現れているような気がした。

さて、今回の展示作品の中でも評判の高いマティスの「金魚」は、明るく華やかな色彩を統べる赤い金魚のユーモアあふれる存在感がなんとも楽しい作品だった。細部を見ているとラフな筆致が目立つのだけれど、全体の構成のバランスの面白さは独特のものがある。「金魚」は実に素敵だった♪ が、実は私的に一番惹かれたのは、ドガの「写真スタジオでポーズする踊り子」とゴーギャン「ヴァイルマティ・テイ・オア」だった!

ドガの踊り子は結構観てはいるが、明るい窓からパリの空と建物が見えるという開放的な構図は初めてである。画面右端に置いてある鏡に向かってポーズをチェックしている踊り子のつま先立った脚の筋肉から緊張感が伝わって来る。彼女の後ろの窓からは青味がかった街と空…でも、きっと踊り子は鏡に映った窓の景色なんて目に入っていないに違いない。だが、踊り子を観ている私は画面やや左寄りに立つ彼女の衣装飾りのオレンジ色と窓の右に寄せてあるカーテンのブルーが小気味良く調和していることに気付く。青と白の淡い光の階調がとても美しい作品だった。

ゴーギャンは...実は今回の「彼女の名前はヴァイマルティと言った」を観て、初めてゴーギャン好きになったのだ(^^;;;。タヒチ初期の作品らしいが、プリミティヴな造形と瑞々しい色彩の散りばめられた画面構成に陶然となってしまった。特に印象的なのはヴァイマルティの座る紺色に白の花模様のファブリックで、色彩のブロック的調和のあり方にマティスの前駆的作品のように思われた。解説によるとマティスはゴーギャンの影響を受けたらしく、さもありなんと頷いてしまう。いやはや、自分がマティス好きなことも再認識してしまった (^^ゞ

今回の展示作品はモネやセザンヌにゴッホまであるという、プーシキン美術館の所蔵作品の充実ぶりを示すかのような作品群だったが、最後に版画作品も展示されていて、意外にこちらも充実していた。
マネの石版画の上手さにも驚いたし、ロートレックの人物や動物の本質を捉える観察眼の鋭さとデフォルメ力を再確認した。そしてまた、版画の魅力に溢れた作品2点を知ることができたのもラッキーだった。ひとつはエルー「毛皮の帽子を被った女」。多色ドライポイントで繊細な毛先の流れを纏め上げたエレガントで印象的な作品だった。もうひとつはルイ・ルグラン「4人の踊り子」で、疲れてバーに持たれかかった踊り子たちを、エッチングによる繊細な線描とアクアチントによる立体的陰影を加え、臨場感を盛り上げていた。この時代の版画の多様なアプローチを知ることができた思いだ。

一昨年ロシアに行った時、モスクワは通りすがりになってしまい、美術館巡りはできなかった。ゲンキンな私は今回の充実の展覧会でプーシキン美術館に行ったような気分になってしまった(笑)。次は未見のトレチャコフ美術館!さて、来てくれるだろうか?

<蛇足>:図録が見難い!(>_<) 多分作った側は意図的に凝った作りにしたのだろうが、読者側としては作品が探し難いのだ。