危惧していたが、幸いなことにコロナ感染せずに済んだようだ。家での自粛中に、読みかけのまま中断していた石鍋真澄先生の『カラヴァッジョ』を読み進めたのだが、Netflixの韓ドラ「シスターズ」と「ロースクール」が面白すぎて、再び中断してしまった(現在:P358
)。
感想は読了してから書こうと思っているが、私的に、そーだったんだ!、と気付いたことがあり、とりあえず触れておこうと思う。
それは、カラヴァッジョ《キリストの捕縛》サンニーニ版についてである(P274)。
ダブリンのアイルランド国立美術館《キリストの捕縛》は研究者も真作と認める傑作である。その発見経緯はドラマチックで、私も2002年の春にダブリンで観た後、サイトの方でベネデッティ本を簡単に拙訳紹介したことがある。詳細な内容についてはジョナサン・ハー『消えたカラヴァッジョ』(岩波書店:2007年)に詳しい。
さて、サンニーニ版《キリストの捕縛》は多くのコピー作品の中のひとつとされ、フィレンツェのサンニーニ家が所蔵していた。それが2003年に売りに出され、ローマのマリオ・ビゲッティが購入した。その後の科学調査で多くのペンティメントが見つかり、更にサイズもダブリン作品より大きく、少なくない専門家(マーンやグレゴーリも含む)がオリジナルと見立てたようだ。
では、ダブリン作品はコピーなのか?? 当時、カラヴァッジョの真作発見?!とニュースになり、ダブリンの美術館長が当惑のコメントを出したのを覚えている。質も高く来歴のはっきりしているダブリン作品は真作ですとも。
石鍋先生の本によれば、2008年デュッセルドルフの展覧会では、サンニーニ版は専門家によりオリジナル(ドッピオ作品)と見なされ展示された。しかし、展覧会以降、様々なトラブルのためスイスの某所に保管されたままになっているそうだ。
石鍋先生はこの作品の実物はご覧になってないそうだが、なんと私は2006年のデュッセルドルフ「CARAVAGGIO ―Auf den Spuren eines Genies 」展で実物を見ている
。なので、多分、2008年➡2006年だと思うのだが、どうなのだろう??
ご参考:https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/81aae4cc18103fa9b365a27d750b80ac
デュッセルドルフ「CARAVAGGIO」展の図録。問題の作品はカタログNo.13だと思う。
ブログにも書いたが、この展覧会ではカラヴァッジョ作品の模写作品が多く展示され、カラヴァッジョ時代の流行人気のほどが了解された。
カラヴァッジョ《キリストの捕縛》真作はダブリンで既に観ていたので、このサンニーニ版作品を見ても、えーっ、コピーでしょ?と思ってしまった。なにしろダブリン作品が本当に素晴らしかったのだから!! それに、この展覧会にはオデッサ作品も展示されていたしね。実のところ、ドイツ語は全然わからないので、美術ど素人の私はニュースになった「真作発見?!作品」とは思いもよらなかったのだ。すなわち、石鍋先生の本でようやく気が付いたというわけである。
ちなみに、このサンニーニ版の図録写真はモノクロであり、他のコピー作品はカラーであるのに、なんだか、個人蔵なので出し惜しみ?と思ってしまった。現在は「スイスの某所に保管されたまま」らしいけど、カラー写真を目にする機会が無いのもなんだか不思議な(怪しい)気がする。
で、『消えたカラヴァッジョ』によると...イタリア警察がサンニーニ版を押収し、化学分析の専門家マウリッツィオ・セラチーニに調査を依頼、その報告書では、作品の絵具からアンチモンが検出されたことで...「カラヴァッジョの作にあらず。問題の絵はカラヴァッジョが世を去20年以上経った1630年以降のある時期に描かれたもの」とあるそうだ。
美術ド素人目ではあるが、質的にダブリン作品に及ばないサンニーニ版は、石鍋先生の表記通り「カラヴァッジョ?《キリストの捕縛》」が至極妥当な気がしたのだった。
>別ヴァージョンと争った末
多分、サンニーニ版でしょうね(;'∀')
>ボッティチェリ母子の贋作
確かに、ケネス・クラークの眼は冴えていましたね!言われてよく見ると、ハーロー似なのか分かりませんが、やはり化粧で眉を描いたように見えます(昔の女優眉風)。ボッティチェッリの眉はすっと伸ばしていますよね。
https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/04fd02183da25ea38da4e4e11e9054ce#comment-list
この時は新発見のユディトの絵に関する宮下氏のコメントを紹介する目的でコメント投稿したのですが、記事中では今回のブログテーマであるキリストの捕縛にも触れていて、「アイルランドで見つかった絵は別ヴァージョンと争った末、これぞオリジナルと認められた」とあり、ここではサンニーニ版という言葉は出てきませんが、別ヴァージョンというのがサンニーニ版を指していると思われます。
ついでながら、上記コメントで書いたボッティチェリ聖母子の贋作について、この機会にベルリンでのボッティチェリ展の図録解説を読んでみました。それによると
この絵は1930年に25,000ドルで購入され、コートールド・ギャラリーに遺贈。1930年代に公開され、ボッティチェリの傑作として賞賛されたが、ケネス・クラークがこの聖母像のバラの蕾のような唇と鉛筆で書かれた眉が、サイレント映画のスター、ジーン・ハーロウ(Jean Harlow 1911~1937)を連想させることに気がついた。また、最近の科学的調査により、一部の顔料は18世紀以降のものと判明した。作者は有名な贋作者Umberto Giuntiと考えられている。
とあります。絵の写真とJean Harlowについては下記URLを見てください。唇と眉がそれほど似ているとも思えませんが、さすがケネス・クラークの目は鋭いですね。
https://www.nationalgallery.org.jp/research/research-resources/research-papers/close-examination/madonna-of-the-veil
(投稿上の規制でukをjpに置き換えていますので、ukに戻してください。)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%82%A6
で、むろさんさんのおっしゃる通り、デジタルアーカイブには両論併記で掲載した方が良いですよね。
ちなみに、芸術新潮の贋作特集を読んでいなかったので、読んでみたいと思います。ありがとうございました!!
しかし、クラーナハやハルスは有名だからわかるけれど、ジェンティレスキの贋作までとは...(;'∀')
さて、番組で扱っていたクラーナハのヴィーナスですが、上記コメントで引用したクラーナハ・デジタルアーカイブの10点のヴィーナス作品のうちのシュテーデルの絵と最後に掲載されている個人蔵の絵(下記URL)の2点の画像と今回のリヒテンシュタインの絵の3枚の画像をパソコン上で並べて比較してみました。掲載されている2点を足して2で割るとリヒテンシュタインの絵になると感じました。
https://lucascranach.org/en/PRIVATE_NONE-P155
この個人蔵の絵、27日のコメント投稿の時点では解説を読んでいなかったのですが、よく読むとなんとこの絵は1950年以降に描かれた贋作と書かれています。
番組では近代絵画のカタログレゾネのことが話題に出てきましたが、通常カタログレゾネには贋作は掲載しないものであり、(カタログレゾネではありませんが)クラーナハのデジタルアーカイブに贋作と明記して掲載されていることには驚きました。このような掲載はこちらとしては大変面白いと思うのですが、贋作も掲載されているということを認識しておかないと誤解してしまいます。そして、リヒテンシュタインの絵は掲載されていないのですが、これは所有者が真作と主張しているためだと思います。両論併記で掲載したらいいのではないかという気がしますが。
3点のヴィーナスを比べると、個人蔵の贋作の絵を基本にして、この絵でクラーナハらしくない部分(例えば表情)については、真作であるシュテーデルの絵から(クラーナハらしい)顔を持ってくると、リヒテンシュタインの絵になるという感じを持ちました。また、個人蔵の絵についてのデジタルアーカイブの解説には「1534年の銘で羽を降ろした蛇のサインを描いた絵は今まで全く存在していない」と書かれています。リヒテンシュタインの絵の銘は1531と読めるようですが、この年に対してはどのようなことが言えるのか知りたいと思います。個人蔵の絵のサインははっきりと残り過ぎている(贋作だから?)と思いますが、シュテーデルの絵とリヒテンシュタインの絵のサインは同じような古い感じです(リヒテンシュタインの絵が贋作ならば、シュテーデルの絵より1年古いことにして書き方も真似た? 蛇の羽はともに上にあげています)。
私もリヒテンシュタインの絵は贋作だと思います。興味のある方はこの3点や他のヴィーナスの絵なども(拡大できるので)比べてみると面白いのでは。
しかし、リヒテンシュタインの王様というか大公は、最近でも美術品買っていたんですね。売ったり展示に貸し出したりしていただけではなかったんだ。リヒテンシュタイン・コレクションだからといって18世紀からの伝世だとはいえないんだなあ。
>役に立ちそうな内容でしょうか?
役に立つか?の観点からすると、読まなくとも大丈夫だと思います。
>国宝 東博の全て展
私も水曜日に観ました。日帰りで疲れがまだ取れていません(^^ゞ。感想はあとで書きたいと思っています。
>吉住磨子氏の研究情報
「画家のアトリエ」ですが、かなり前に「Apollo」誌でリベラのアトリエ賃貸契約書について読んだことがあり、カラヴァッジョと同じく天井に穴を開ける契約内容だったので興味深かったです。多分、この事かなぁと思うのですが、どうなのでしょうね??
>「贋作の誘惑 ニセモノVSテクノロジー」
クラーナハの《ヴィーナス》は多数ありますから、贋作も有りかもしれませんね(^^;。見逃がさないようにしたいと思います。
10/29(土)22:30~ NHK BSプレミアム「贋作の誘惑 ニセモノVSテクノロジー」
https://www.nhk.jp/p/ts/6QJPZ5QL6M/episode/te/R32K9W11JP/
以前のカラヴァッジョのユディト購入話ほど面白くないかもしれませんが、クラーナハのヴィーナス(リヒテンシュタイン公国コレクション)が出てくるので、それなりに期待できると思います。
この絵についてクラーナハのデジタルアーカイブで検索すると、ヴィーナス単独の作品は10点出ていて、このうちStädel Museum(Frankfurt)の絵がよく似ていますが、番組で扱うリヒテンシュタインの絵は出ていません。
https://lucascranach.org/en/search/?filters=subject%3A0104051202&page=1
https://lucascranach.org/en/search/?page=1&filters=subject%3A01040512
この絵はシュテーデル作品の贋作なのでしょうか。
なお、久しぶりにクラーナハのデジタルアーカイブを見たら、日本では2点となっていて、西美のゲッセマネの祈りも掲載されていました。
ご紹介いただいた本2冊ですが、ともに私の知らないものです。地元の図書館にはなくて、絶版なので書店の店頭で内容を確認することもできません。この2冊はカラヴァッジョやルネサンス・バロック美術を理解するのに役に立ちそうな内容でしょうか? 役に立つようならば、そのうち他の区から取り寄せる形で借りたいと思います。
逆にこちらで最近確認した情報です。感覚のラビュリントスシリーズの第1巻知識のイコノグラフィアの4章「絵は詩に似て―イエズス会の言葉とイメージ」(吉住磨子)を読んでいたら、注釈に同じ吉住氏の著書で「ヨーロッパ文化と日本―モデルネの国際文化学」(昭和堂、2006年、田村栄子編)所収の「初期バロック絵画の視の方法―カラヴァッジョと16世紀ロンバルディアの美術理論および観想」という論考がありました。
http://www.showado-kyoto.jp/book/b96636.html
地元の図書館にあったので、早速借りてきて吉住氏の部分だけコピーしました。果物籠、リュート弾き、カジノ・ルドビージ天井画、ハートフォードの聖フランチェスコなどのカラヴァッジョ作品やアルチンボルドの四元素・四季を扱っています。なお、この本は佐賀大学関係者が様々なテーマを取り上げていて、この吉住氏の論考以外はあまり興味ないテーマなので読んでいません。
また、これに関連して吉住磨子氏の研究情報(佐賀大学のHP)を確認したら、「画家のアトリエーカラヴァッジョとフセペ・デ・リベラの制作の現場」という論考が佐賀大学の研究叢書「美のからくり―美術・工芸の舞台裏」という本に掲載されていましたが、書店では販売していないとのことで、所蔵している図書館や美術関係の資料室があるか、機会があれば確認してみます。
https://research.dl.saga-u.ac.jp/profile/ja.8c9130dfcff3355659c123490551be02.html
https://sadaibico.wordpress.com/2011/12/19/
2番目の 研究叢書『美のからくり』の出版 の 続きを読む をクリックすると、カラヴァッジョの絵の写真ページが見えます。
ついでながら、10/18から始まった国宝 東博の全て展ですが、開催日前日の内覧会に行くことができたので、もし行かれるご予定があるのでしたら、貴ブログ5/21の記事の方に関連情報をコメントします。
で、ご紹介のTV取材裏話を読み、うーん、やはりねぇ、と思いました。『消えたカラヴァッジョ』を読んだ時、確かにイタリア側重視だと思いました。物語的にフランチェスカ・カペレッティが主役でしたしね。
私的には2002年にダブリンで購入したベネデッティ本を読んでいたので、アイルランド側(セルジョ・ベネデッティ)の扱いの薄さに同情しました。
Sergio Benedetti 『Caravaggio – The Master Revealed』(The National Gallery of Ireland ,1993/11/1)
まぁ、若い女子大生が主人公の方が読者に好まれるからだろうと思っていたのですが、アイルランド側に取材をしてなかったなんて…本当に酷い話ですよね(-_-;)
で、むろさんさんは「ミメーシスを超えて」を既に読まれたようで、やはり私も読んだ方が良さそうですね(^^ゞ。ありがとうございます。
ちなみに、本棚で埃をかぶっている本がありました(汗)。論考ではないので、あくまでもご興味があれば…です(^^;
ジュリア・クリステヴァ著『斬首の光景』(みすず書房)
https://www.msz.co.jp/book/detail/07085/
クリスティーヌ・ビュシ=グリュックスマン著『見ることの狂気』(ありな書房)
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784756695390
でも、それは、賢者にも失あり。というもので、本全体の価値をひどく落とすものではありません。
この中で黄色の絵具については「Sn and Pb YELLOW」「ANTIMONY YELLOW」「YELLOW OCHRES」の3種が出ていて、Sn and Pbは8点の作品、OCHRESは6点の作品から検出されていますが、ANTIMONYは0です。絵具の物質の種類は下地のCALCITE、GESSOも合わせ22種類であり、検出作品数0はANTIMONYとCOPPERだけです。
「消えたカラヴァッジョ」で「絵具からアンチモンが検出されたことで~カラヴァッジョの作にあらず。~1630年以降に描かれたもの」としているのは、それまでに分析されたカラヴァッジョの真筆作品からはアンチモンが検出されたことは全くないので、この「サンニーニ版キリストの捕縛」を別の作者の絵と判断したということですね。この結果は信頼していいと思います。
岡田温司著「ミメーシスを超えて」については数年前に図書館で借りて、必要部分(2,3,5章)をコピーしました。カラヴァッジョに関係するのは2章の一部と5章全体ですが、この本は読んでおいた方がいいと思います。ただ、文章が難解なので、この本の書評(美学205号、2001年、千野香織執筆)を読んでからミメーシス~を読むと理解しやすいと思います。また、5章に書かれた聖トマスの不信のキリストの傷に関することをごく簡単に書いた本が「キリストの身体」(岡田温司著、中公新書2009年)です。合わせてご覧になるとよいかと思います。なお、3章のペストの関係は昔ミラード・ミースの「ペスト以降のイタリア絵画」を読んだ時にさっぱり理解できなかった苦い思い出がありますが、このミメーシス~の3章を先に読んでいたなら、ミースの本ももう少し理解できたのに、と思いました。
むろさんさんはヴェロッキオ研究でお忙しそうで何よりです。石鍋先生の本はかなりのヴォリュームですから一気読みは無理ですよね(^^;
で、ありな書房のシリーズは私も図書館から借りていくつか読んでいます。最近はネーデルラント美術の方を重点的に読んでいますが(^^;
>あまり知られていない本や論文で、カラヴァッジョ関係の論考
論文関係はあまり読んでいないので思いつきませんが...読みたかった本があります。
岡田 温司『ミメーシスを超えて: 美術史の無意識を問う』(勁草書房)
https://honto.jp/netstore/pd-book_00022959.html
私は未読ですが、むろさんさんは読まれましたか?
貴ブログテーマのキリストの捕縛に関することについては、何も話題はないのですが、カラヴァッジョついでに少しご質問させていただきます。私は最近、カラヴァッジョ関係で今まで見落としていた本や雑誌論文(もちろん日本語)を少しずつ拾っていこうとしているのですが、花耀亭さんは ありな書房の「感覚のラビュリントゥス」シリーズはご覧になっていますか? 聴覚と触覚のイコノグラフィアの一部(カラヴァッジョ関係はともに吉住磨子氏の執筆)は以前に読んだのですが、出版社のホームページ等を見たら、他の巻でもカラヴァッジョに関するテーマがいくつかあるので、2ヵ月ぐらい前から他の地域の図書館から取り寄せる方法で、全巻を確認することにしました。数日前に残りの巻も届いたので、今日やっと必要なページのコピーが終わったところです。こういったあまり知られていない本や論文で、カラヴァッジョ関係の論考が掲載されているようなものを何かご存じでしたら教えてください。