そういえば、このブログでの「2011年 テレビは何を映してきたか」の掲載が、7月編までで止まったままでした。
2011年のテレビを、「日刊ゲンダイ」に連載した番組時評で振り返ってみるわけですが、ちょうど1年前の夏、8月分からアップしていこうと思います。
(以下の文章は、同時代記録という意味で、掲載当時のままです)
2011年 テレビは何を映してきたか(8月編)
NHKスペシャル「未解決事件」
先週の金曜と土曜、2夜連続の長時間だったが、しっかり見せてもらった。NHKスペシャル「未解決事件」だ。
扱われたのは「グリコ・森永事件」。これをドラマとドキュメンタリーで見せていた。まず驚いたのはドラマ部分で新聞社や記者の名前が実名で出てきたことだ。さらに本人たちが登場して当時を回想。ドラマのシナリオも彼らの証言に基づいて書かれており、全体として強いリアリティを感じさせてくれた。
そんな力作であることは認めるが、2晩つき合っての“読後感”に残るモヤモヤは何だろう。恐らく多くの視聴者がこの番組に期待していたのは、それが無理なのは承知の上での「未解決事件の真相」、もしくは「犯人は誰か」ということだったのではないか。
しかし実際に見せられたのは、いかに警察がダメだったかという話だ。現場を無視した指揮系統や縦割り組織のあり方が、あり得ないようなミスの数々を生んでいたことはよく分かった。つまり制作側が目指していたのは「未解決事件の真相」ではなく、「未解決の真相」だったのだ。警察はなぜ失敗したのかという「失敗学」である。
とはいえ警察側と報道側、それぞれの葛藤もしっかり描かれていたのは見事。次は三億円事件が見たいが、これだけのものは年に1本の制作が限度だ。楽しみに待ちたい。
(2011.08.01)
「それでも、生きていく」フジテレビ
フジテレビ「それでも、生きていく」は15年前に起きた幼女殺害事件、その加害者家族と被害者家族の物語である。犯人の中学生は殺された女の子の兄の同級生だった。事件を境に双方の家族は辛い時間を生きてきたし、今も生きている。
物語の軸となるのは被害者の兄(瑛太)と加害者の妹(満島ひかり)の関係だ。この2人が少しずつ心を通わせていくのだが、設定としてはかなり難しい。脚本の坂元裕二は昨年の「Mother」(日本テレビ)を彷彿とさせる巧みな組み立てでストーリーを成立させ、瑛太と満島が各自の持ち味で応えている。
そしてもう一人、目が離せないのが大竹しのぶだ。被害者家族の中で最も精神的に傷ついた母親を怖いほどの集中力で演じているのだ。先週も約10分間に及ぶ長い独白シーンがあった。専門家だの識者だのが語る犯罪分析への吐き捨てるような呪詛の言葉。周囲からの励ましなど何の支えにもならないほどの喪失感・絶望感。その上で現実と向き合おうとする決意。大竹ならではの芝居場だった。そんな大竹を見るだけでも、このマニアックなドラマにつき合う価値は十分にある。
テーマの重さと暗さから一般ウケは困難かもしれない。だが警察物と男装物ばかりが目につく今期連ドラの中で、異色にして本格という出来の1本であることは確かだ。
(2011.08.08)
「双方向クイズ・天下統一」NHK
地デジ完全移行から3週間。NHKとしてはこのあたりで“地デジならではの番組”を提案したかったのだろう。2週連続で「双方向クイズ・天下統一」なるものを放送した。生放送で出題されるクイズに、データ放送機能を利用して視聴者も参加できる点がウリだ。
1回目のテーマは「アニメヒーロー&ヒロイン」。先週の2回目が「戦国武将」だった。スタジオには武将役の8人のタレント。視聴者はそのいずれかの配下となり、一緒にクイズに答える。正解率の高いチームが領地を広げ勝ち残っていく。
狙いはわかる。ただクイズ番組としての出来はいまいちだった。クイズのキモは考えたくなる「問題」と、発見や意外性のある「答え」だ。ところが、「中国で人気の戦国武将は?」(正解・家康)とか、「天守閣の屋根を間近で見られる城は?」(正解・姫路城)といった魅力に乏しい問題が並んでいた。
さらにこの番組の欠点の一つが、スタジオにいる武将(タレント)の成績が番組の流れと関係ないこと。一問も正解できなくても、抱えている視聴者の正解率が高ければ勝ち進める。極端にいえば彼らがいなくても番組が成立してしまうのだ。
ちなみに先週の参加者は3万2千人と結構な数字だった。とはいえ、データボタンを押さない「見るだけ」の視聴者も楽しめる工夫が必要だろう。
(2011.08.15)
「24時間テレビ 愛は地球を救う」日本テレビ
日本テレビ「24時間テレビ 愛は地球を救う力」が放送された。あれこれ言われ続けながら34年。今年は障害者支援に東日本大震災への支援の大義名分が加わった。
とはいえ、日本テレビを辞めた人(いまやテレビ朝日の看板・羽鳥慎一アナ)と辞める人(今月末に退社の西尾由佳理アナ)が司会をしている珍妙な図には苦笑するしかない。しかも、24時間マラソンを走るのは日テレOBの徳光和夫だ。とても〝局を挙げての特番〟には見えなかった。
24時間を埋めるために多くの企画が並ぶ。震災関連では「三陸の漁師に漁船を贈る」「石川遼が石巻で特別授業」などには意味を感じたが、例のマラソンや「盲目少女のアフリカ・キリマンジャロ登山」は無理矢理感があった。うそ寒さを感じた企画も多い。
また、呆れたのは土曜深夜からの「朝までしゃべくり007」。くりぃむしちゅー、ネプチューンなどが延々6時間も馬鹿騒ぎを続けていた。
なんといっても節電の夏だ。「深夜から朝までこの番組も休止します」とでも宣言したら見事だったのに。そして、「流れるはずだったCMの料金は被災地への義援金とします」と言って企業名を読み上げるのだ。さらに、「テレビを消して家族で震災や原発事故について話し合ってみて下さい」と。視聴者、被災者に与える印象はより強かったと思う。
(2011.08.22)
向田邦子ドラマ「胡桃の部屋」NHK
家族は最も近くにいる他者だ。しかし近いとはいえ互いの全てを知っているわけではない。各人が思わぬ秘密を抱えており、何かのきっかけにそれが噴出する様子はまさにドラマ的だ。今週最終回を迎えるNHK向田邦子ドラマ「胡桃の部屋」(火曜よる10時)の三田村一家も結構大変なことになっている。
実直なはずの父は突然家を出て女と暮らし始めた。嫁いだ長女は夫の浮気を発見。二女は逆に妻子ある男と交際している。三女は家庭の実態を隠してセレブ男と交際し、それがバレて大騒ぎとなる。それぞれは善人なのに誰かを傷つけ、自らも傷つきながら生きているのだ。
物語の軸は父親に代わって一家を支える二女で、松下奈緒が「ゲゲゲの女房」以上に好演している。舞台はバブル前の東京だが、ケータイもメールもない時代のもどかしい不倫模様が健気だ。このもどかしさこそ昭和であり、何もかもがむき出しになる平成との違いだろう。
そして“昭和感”において松下に負けずいい味を出しているのが、父親(蟹江敬三)と暮らすおでん屋の女・西田尚美だ。一緒にいて欲しいと思いながらも、男はいつかいなくなると覚悟を決めて過ごす日々。わざと憎まれ口をたたく時の切ない目の表情など絶品だ。テレ東「IS~男でも女でもない性」の母親役も含め、今最も旬な“助演女優”である。
(2011.08.29)