東京新聞に連載中のコラム「言いたい放談」。
今回は、映画「夢売るふたり」をめぐる話を書きました。
西川美和監督の新作
映画「夢売るふたり」を見てきた。夫(阿部サダヲ)と“共謀”して結婚詐欺を仕掛ける妻(松たか子)が秀逸だ。
最初はいわゆる「健気な妻」に見えていたが、とんでもない。恐らく女性なら誰でも持っていて、でも男にはちゃんと見えていない、胸の奥に潜み、腹の底に眠る業(ごう)のようなもの、その“怖さ”を存分に味わうことができた。
西川美和監督の作品は、「蛇イチゴ」以来すべて見ている。自然なようでいて、実は異様なシチュエーション(設定)を納得させる脚本が、また一段とパワーアップしたように思う。
約十四年前、映画「ワンダフルライフ」(是枝裕和監督)の撮影を見に行った。テレビマンユニオンの後輩である是枝監督の激励だけではない。当時小学生だった娘がエキストラとして参加していたのだ。
是枝組には女性スタッフが何人かいて、きびきびした動きで現場を支えていたが、その中の一人が西川さんだった。やがて彼女は西川監督となり、毎回私たちに驚くべき人間ドラマを見せてくれる。
「夢売るふたり」では松さん以外にも、木村多江さん、鈴木砂羽さんなど、ゴヒイキの女優がそれぞれの持ち味を生かして競演している。そういう意味では“怒涛の女性映画”と言っても過言ではない。阿部サダヲさんならずとも、いつだって男は女性に敵わないのだ。
(東京新聞 2012.09.19)