週刊新潮で、「紅白歌合戦」についてコメントしました。
「紅白歌合戦」全舞台裏
視聴者置いてけぼりだった「紅組勝利」のカラクリ
「紅白歌合戦」全舞台裏(上)
賑やかな話題は多くても、話題になる歌は少なかった2016年。しかも、あのグループも出ないとあって、紅白歌合戦はさまざまな仕かけで視聴者をつなぎ止めようと試みたが、肝心の「歌合戦」の勝敗でとんだミソがついてしまった。その全舞台裏をここに。
お世辞にもこなれているといえない司会ぶりに「すいません」を連発した白組司会の相葉雅紀(34)。どうにかエンディングにまでたどり着き、白組が視聴者と会場の圧倒的な支持を得ると、感極まった相葉の目に涙がこみ上げてきたそのときである。紅組司会の有村架純(23)が慌てて、
「えっ、えっ、どういうこと? えっ、ありがとうございます。ちょっとびっくりしました。てっきり白が勝つかと思っていたので」
狐につままれたような紅組の勝利に、相葉の目にたまった涙は落ちる機会を逸してしまった。
台本の棒読みが精いっぱいだった有村が思わず“アドリブ”で戸惑いをあらわにし、視聴者は意味不明のまま置いてけぼりにされたこのラストシーンが生じた原因は、「『紅白歌合戦』全舞台裏(下)」で明らかにしよう。まずはリハーサルの様子ともくらべながら紅白を振り返るが、その際、意識しておいたほうがいいキーワードがある。それは、
「SMAPですね。彼らの不在の穴を少しでも埋めようと、数々の演出を盛り込んだのですが、結果的に時間が押してしまった面もあります」(NHK関係者)
事実、リハーサルでも取材陣から出演者に、SMAPに関する質問が頻繁に投げられたが、リハーサル初日は、「ス」と発せられただけでNHKのスタッフが止めに入るという異常なピリピリムード。ともあれ、その場にいない人たちが大きく影響をおよぼすという不思議な紅白は、関ジャニ∞とPUFFYをトップバッターに幕を開けた。
■余裕のない司会者
2日前は奇抜な私服で現れ、記者が「ピコ太郎さんを意識した服装ですか」と聞くと、「おかあさんにも言われた~」とゆるいムードを醸し出していたPUFFYだが、本番では、入場券を忘れた審査員夫妻を装ったタモリ(71)とマツコデラックス(44)の場面挿入で、すでに時間は押せ押せ。ちなみに、少し先でもタモリとマツコの場面の前に、市川由紀乃(40)が他界した兄からもらった手紙を、相葉と有村が読み上げる場面がカットされた。
さて、リハから無気力全開で、その場にいたNHK職員が「こんなんでいいのかね」と嘆いたAAAの登場でも時間は取り戻せない。割愛されるセリフが増えるにつれ、リハでは緊張のあまり顔面蒼白で、オリンピックを「カラリンピック」と読むなど“噛みって”ばかりの有村に加え、相葉にも余裕が失われる。E-girlsの歌のあと、副音声の紹介では「バナナマン」が「バババマン」に。
有村も負けじと噛む。少し先で椎名林檎(38)の都庁前からの中継の際、「五輪のフラッグハンドオーバーセレモニーの音楽監督を務めた椎名林檎」と紹介すべきを、「フラッグハングオーバー」だって。これ、二日酔いって意味ですけど。
余裕がないと、自ずとアドリブも少なくなる。天童よしみ(62)が歌う前、ピコ太郎(43)とRADIO FISHの中田敦彦(34)が楽屋裏で“喧嘩する”場面が中継され、映像が会場に戻ると、司会の2人は慌てた体で「はいっ、というわけで紅組、次は」。会場で司会者が“予想外”のことに慌てる場面は、みな台本通り。もちろん、SEKAI NO OWARIの歌の前に、相葉から茨城弁を求められた有村が、「恥ずかしいな」と言って照れるのも、すべて台本通りなのであった。
リハではバックダンサー2人が衝撃を与えた。香西かおり(53)の後ろで踊った橋本マナミ(32)は、足を前に出すたびに太ももが露わになり、中年カメラマンの視線は橋本だけに注がれることに。本人もそれがわかってか、本番では台本を無視して「妖艶な踊りを披露します」と挑発。もっともマナミ嬢、リハでは紅白パネルの前で写真を撮るなど“お上りさん感”も披露していたが。
少し間を置いて、郷ひろみ(61)の歌に合わせて踊った土屋太鳳(21)。白いドレスに素足で一心不乱に踊り狂う姿に、取材陣は狂気を感じた。なにかが憑依しているのではないかと。友人でもある有村に「キャー! 元気?」と嬌声をあげるのを聞いて初めて、取材陣はホッとしたのである。
■アクシデントも台本通り
相葉とメンバーの間で、長野博(44)の結婚をめぐる内輪感満載の寸劇を繰り広げたV6。リハから長野が坂本昌行(45)に浣腸するマネをしたりと、妙に明るい。「自分たちの時代がきた」と思う理由でもあったということだろうか。
続いて水森かおり(43)が、小林幸子のお株を奪う巨大衣装で登場した。リハでは「また来年に向けても、いい励みにさせていただいて」。“巨大衣装枠”は渡さないという意欲を口にしたが、ライターの吉田潮さんに言わせれば、
「タモリが“水森亜土”と言ったりしたのは、まさにその通り。水森かおりって巨大衣装にばかり目がいくので、いつまでたっても顔が覚えられないんです」
相葉や有村に負けず劣らず緊張していたのが、ゆずの岩沢厚治(40)だ。リハでもだれとも言葉を交わさず、舞台袖の鏡に自分の姿を映し、直立不動で見ていた。本番が終わり、胸に手を当ててホッとした仕草をしたが、相葉と有村の緊張は続き、押せ押せのあまりのアクシデントが――。
前半最後のハーフタイムショーで、ピコ太郎が「PPAP」のあとに新曲「ポンポコリンポンペン」を歌う途中で、映像が切れてニュースに切り替わってしまった。スポーツ報知もスポーツニッポンも、「進行が遅れており」「無念」と報じたが、実はこの“アクシデント”はリハ通りである。NHKとスポーツ紙が手を組んで、こんなヤラセをしていいものなのか。
「紅白歌合戦」全舞台裏(下)
ここから後半である。RADWIMPSが映画「君の名は。」の主題歌を歌うところでは、新海誠監督に話を聞くことになっていたが、カット。調整がつかなかったようだ。
福山雅治の中継では、引退した広島の黒田博樹投手がVTRで登場。「広島の土砂災害の惨状を見て、MLBを蹴って広島に復帰」と紹介されたが、
「野村前監督が退任したうえ、契約面で合意があったからにすぎません」(スポーツ紙記者)
とまれ今回の紅白、被災地への配慮が目立った。総合司会の武田真一アナ(49)が熊本出身なら、途中で歌われる「ふるさと」は、くまモンをプロデュースした熊本出身の小山薫堂氏が作詞。そして福山の次に歌った演歌の島津亜矢(45)も熊本出身で、本人いわく「コンサートでもあまり歌ったことがない」、ふるさとが描かれた「川の流れのように」を“歌わされ”た。
西野カナ(27)の場面ではレスリングの吉田沙保里、伊調馨、登坂絵莉がステージへ上がった。時間短縮のためかセリフが大幅にカットされたが、台本通りなら大炎上しただろう。リハでは「どんな相手が理想ですか」と聞く紅組司会の有村架純(23)に、吉田役のNHK職員が「男らしく私を守ってくれる人です」と答えると、白組司会の相葉雅紀(34)が「吉田さんを守る人は大変そうですね」と返す、シュールなやりとりだったのだ。
auのCMで話題になった桐谷健太(36)の曲。…企業名は出したくないNHKもやむをえず、有村に「浦ちゃん、がんばって!」と声をかけさせた。これ、スポーツ紙は有村のアドリブであるかのように報じていたが、台本通りなのである。
■審査員席がステージ上で
AKB48は、リハで目立ったのが“卒業”する“ぱるる”こと島崎遥香(22)のやる気のなさ。一人腕組みをして突っ立っている姿は悪目立ちしていた。
有村のボケっぷりもさらに目立ってきた。AI(35)が歌う前、ゲスト審査員で昨夏のパラリンピックに出場した辻沙絵に話を聞くと、仕事が終わったと思ったのか、固まってしまう。Perfumeの紹介でも、ボーッとして相葉に「紅組の番ですよ」と促され、「さあ、続いては」。架純ちゃん、緊張による疲れがピークに達してきたのか。
一方、話題の星野源(35)がリハで見せたのは、緊張ではなく神経質な一面。音合わせは、若手は短時間ですませるのが暗黙の了解なのに、「音ちょっと下げてください」「もう一つ下げてください」。結局、17分を要して、すでに大物の風格であった。
大竹しのぶ(59)は熱のこもった歌を聴かせ、その表情は「理科室に置いてある人形のよう」(吉田潮さん)。感極まって涙がこぼれそうだったが、曲を紹介した嵐の松本潤(33)もなぜかガチガチで、「演技者の先輩として、いつも、ひ、非常に尊敬している大竹さん」と声も手も震わせていたが、なにか“感極まる”理由でもあったのだろうか。
相葉も疲れがピークに達してきたか。TOKIOの中継では、パラリンピックに出た陸上の山本篤に話を振るのを忘れてしまい、「失礼しました!」と繰り返しながら、取ってつけたように質問した。
今回の紅白、タモリとマツコなどのほかに、ゴジラ来襲というフィクションが挿入された。松田聖子(54)の歌のあと、渋谷に来襲したゴジラを止めるには良質な音楽が必要だ、というVTRが流され、聖子の伴奏も務めたYOSHIKI(51)が、今度はX JAPANとして演奏する前に「僕たちが止めます」。実は、YOSHIKIは31日午前までのリハをすべて欠席。したがって、彼の返答はほとんどアドリブのはずだが、Toshl(51)の絶叫に押され、ゴジラは“無事に”凍結したのだった。
■評価の声も
ケチばかりつけているようだが、昨年の紅白を評価する声を紹介しておこう。
「前回の紅白は、『スター・ウォーズ』やディズニーのキャラクターが客寄せパンダのように登場していた。今回はバラエティ要素にも工夫があり、映画『君の名は。』やドラマ『逃げ恥』など、2016年のポピュラーカルチャーを反映したものだという点で、音楽で1年を振り返るという、紅白本来の趣旨にも合致していたと思います」(上智大学の碓井広義教授)
さて、大トリは嵐である。本番中に「すいません」を20回、「ごめんなさい」を7回繰り返した相葉も、ホッとしたのか、歌いながらすでに涙をためていた。そして視聴者と会場の投票結果を受け、白組優勝を確信して優勝旗を受け取りに行きかけたそのとき、まさかの紅組優勝に。どうしてこうなったのか。
「今回の勝敗は、視聴者と会場が2票ずつ、ゲスト審査員10票、ふるさと審査員1票の計15票で決められました。視聴者と会場の票はすべて白組に入りましたが、残り11票のうち9票が紅組に入った。今回は舞台を前方に広げたため、以前は客席の最前列にあった審査員席をステージ上にもってきた。だから、審査員たちは白組が圧倒的に優勢なのをステージ上から眺めることになり、せめて自分ぐらいは紅組に入れよう、と思ってしまったようです」とNHK関係者。しかも押せ押せで採点方法さえ視聴者に説明できず、司会者も混乱。こればかりは台本になかったようだ。
(週刊新潮」2017年1月12日号)