碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「霧山くん」は再びアメリカへ!『時効警察はじめました』が、おわりました。

2019年12月09日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

「霧山くん」は再びアメリカへ!

『時効警察はじめました』が、おわりました。

 

連ドラとしては12年ぶりに復活した『時効警察』シリーズ、その名も『時効警察はじめました』(テレビ朝日系)が終っちゃいました。全8話なので終了も早い。

主人公は、すでに時効となっている未解決事件の真相を探るのが「趣味」だという警察官、霧山修一朗。演じたのは、もちろん前作同様、オダギリジョーさんです。

まず、総武警察署時効管理課という舞台も、そこにいる面々も変わっていないのが、うれしかったですね。

捜査の女房役である三日月しずか(麻生久美子)、いつもうるさい又来(ふせえり)、表情から感情が読めないサネイエ(江口のりこ)。そして、大抵の発言が皆から無視される課長の熊本(岩松了)も相変らずで、ホッとしました。

ドラマの構成もまた見慣れたものでした。ほとんどはゲストが真犯人であり、今回も小雪(新興宗教の教祖)、向井理(ミステリー作家)、中山美穂(婚活アドバイザー)など豪華な顔ぶれが並びました。

むしろ犯人がわかっているので、見る側は安心して霧山の推理を楽しめるのです。印象に残っているものとしては・・・

第3話で「MISTAKE」というダイイングメッセージが、実は「ミス武田」を改ざんしたものだったり、第5話の「蕎麦アレルギー」を利用した手口だったり。

また第6話の凶器がプロレスのトロフィーだったりしましたが、いずれも「ミステリとしてはちょっと弱いんじゃない?」という、独特のユルさが好きでした。

ドラマ後半の解決篇で霧山が言う、あの「決まり文句」がいいんだ。

「一つ、お断りしておきますが、これからお話しするのは、あくまでも僕の趣味の結果です。事件そのものは、すでに時効ですから、この事件の犯人が誰だろうと、僕がどうすることもありません」

そして、「後は、犯人である、あなたのご厚意に甘えるしかありません」と続きます。

あれが聞きたくて、毎回見ていると言っても過言ではありませんでした。

さらに、このドラマの醍醐味は全編にちりばめられた、いや散らかしっ放しの小ネタの数々です。

時効管理課に勤務する、というか、たむろしているメンバーの無駄話、バカ話はもちろん、事件現場の最寄り駅の名前が「手賀刈有益(てがかりあります)」だったり、捜査に同行した刑事課の彩雲(吉岡里帆)が、日清の「どん兵衛」じゃなくて、本物の「わんこそば」をひたすら食べ続けたり。

また、三日月が霧山との接近を「ウッシッシ」と、ほくそ笑む。これの元祖は大橋巨泉さんですから。懐かしいなあ。

分かる人が、いようといまいと、本気で面白がっている現場の様子が目に浮かびます。時々、仲間由紀恵さんと阿部寛さんの『トリック』(テレ朝系)を思い出しました。

最終回。霧山は、再びアメリカに行っちゃいましたねえ。三日月の言葉じゃないけど、また12年も帰ってこないなんてことがないよう、祈ります。

もしも当分は戻ってこないなら、その間に、ぜひ『熱海の捜査官』(同)を復活させていただきたい。

『熱海の捜査官』は、2010年に放送された、オダギリさんと三木聡監督コンビによるカルトドラマのこと。

もっと言えば、『ツインピークス』や『ピンクパンサー』など、往年の名作へのオマージュが散りばめられ、『時効警察』以上に、分かる人には分かる、分からない人は分からなくていいという、確信犯的に不親切設計なドラマです。

オダギリさんが、FBI特別捜査官クーパーみたいな広域捜査官を演じ、保安官トルーマンみたいな警察署長は松重豊さんでした。

『時効警察はじめました』の最終回に、絵本の『ウォーリーを探せ』みたいな衣装で登場していた松重さんを見て、『熱海の捜査官』を思い出した次第です。

それにしても、来週から「霧山くん」も「三日月さん」もいない金曜の夜になるかと思うと、俄然寂しくなりますね。

ありがとう! 時効警察の人々。


【気まぐれ写真館】 晴天となった78年目の12月8日、合掌

2019年12月08日 | 気まぐれ写真館


【気まぐれ写真館】 今週末も、入試!

2019年12月07日 | 気まぐれ写真館


今期も快走!『ドクターX』の「失敗しない」進化とは!?

2019年12月06日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

今期も快走!

『ドクターX』の「失敗しない」進化とは!?

 

米倉涼子主演『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)の放送が始まったのは2012年のことでした。もう7年になるんですね。

『相棒』と共に、テレ朝を代表する「鉄板シリーズ」となったこのドラマ、今期はシリーズ第6弾です。とはいえ、長年にわたって高い人気を持続するのは容易なことではありません。

シリーズドラマの「落とし穴」

シリーズドラマが衰退していく時、最大の要因はスタッフ(制作側)とキャスト(出演者)の「慢心」にあります。安定(高視聴率)と長期化(シリーズ継続)という成果に満足し、徐々に緊張感がゆるんでいく。

しかし、成功体験にあぐらをかいて、ストーリーがワンパターンの繰り返しとなれば、視聴者は飽きてしまいます。これまでも自己模倣と縮小コピーに陥って消えたシリーズ物は数多くあります。

そうならないために必要なのは「現状維持」ではなく、「正常進化」です。ただし、ドラマの基本となる「世界観」は変えてはいけません。それは誤った進化です。

全体は「いつもと変わらない」ように見せながら、細かなところでは世の中の動きを柔軟に反映させていく。このシリーズは、それを実現しているのです。

「リアル社会」を巧みに織り込む

今期の舞台である東帝大学病院では、手術の現場を仕切っているのが最新のAI(人工知能)です。執刀医たちはAIの指示で動くロボットのようで、主客転倒といった雰囲気。

しかも、AIに言われた通りに動いているうちに、患者の命が危うくなります。それを救うのは、もちろん大門未知子(米倉)です。

第2話では、2人の患者の肝臓移植を連続して行う「生体ドミノ肝移植」という離れ業も披露されました。

しかも治療で優遇される「富裕層」と、病室から追われる「貧困層」を対比させ、医療の現場における「命の格差」の現状を、しっかり描いていました。

「AI社会」にしろ、「格差社会」にしろ、今どきのこの国のリアルを巧みに織り込んだ展開が見事です。

「重層構造化」する物語

次が「物語の重層構造化」、もしくは「ストーリーの二階建て」です。たとえば第4話では陸上選手の「滑膜肉腫」が主題かと思いきや、外科部長(ユースケ・サンタマリア)の母親(倍賞美津子)の「特発性正常圧水頭症」に気がつき、手術を成功させました。

また第6話には、「後腹膜原発胚細胞腫瘍」の少女が登場したのですが、彼女を自分の売名のために支援していた青年実業家(平岡祐太)の「肝細胞がん」のほうが本命の手術でした。

見る側に、ある患者の難しい手術が見せ場だと思わせておいて、途中から別の患者のもっと困難なケースへと移行していく。グリコのキャラメルじゃありませんが、「1話で2度おいしい」体験を見る側に提供しています。

大門未知子の天才的外科手術と、組織内のヤクザ映画的人間模様。いつもと変わらぬ「ドクターXワールド」を堅持しながら、「正常進化」としての適度な新規性や意外性を盛り込んでいく。

その絶妙なバランスこそが、このドラマを「2010年代」という、この10年を代表する名シリーズの1本に位置付けているのです。


「グランメゾン東京」は奥行きある大人の群像劇

2019年12月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

木村拓哉「グランメゾン東京」は

奥行きある大人の群像劇

 

日々下がっていく気温とは逆に、ヒートアップしてきたのが、日曜劇場「グランメゾン東京」のフレンチバトルだ。

主人公の尾花(木村拓哉)、オーナーシェフの倫子(鈴木京香)、京野(沢村一樹)、相沢(及川光博)という「グランメゾン東京」チーム。そして、パリの修業時代から尾花と因縁のある丹後(尾上菊之助)と祥平(玉森裕太)が組んだ「レストランgaku」チーム。

どちらもミシュランの3つ星を目指しており、先日、その前哨戦ともいえる「トップレストラン50」の勝負に突入した。

尾花たちが考案した新メニューは「鰆(さわら)のロースト 水晶文旦のソース」。鰆は文字通り春の魚だが、冬のそれは産卵期前で脂が乗っている。難しい「火入れ」を何度も実験し、絶妙の焼き加減を探っていく。

当然、料理の場面が毎回登場するわけだが、つい見入ってしまうだけの力が画面にある。料理の発想やそれを実現する技術もさることながら、客を喜ばすために、一皿にとことん心血を注ぐ料理人たちの姿に打たれるからだ。

尾花も丹後も、彼らを支える面々も、まるで求道僧のようだ。その一方で、フードビジネスの暗部もしっかり描かれており、大人の群像劇として奥行きのあるものになっている。

そう、このドラマは、「木村拓哉主演の群像劇」という新メニューが功を奏したと言っていい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2019.12.04


言葉の備忘録117 楽シサハ・・・

2019年12月04日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

楽シサハ
身ノ
自由ナル
トコロニアル

いま在るがままでいればいい
いちばん好きなことを
するがいい
いま要るものだけ
持つがいい


加島祥造『小さき花』

 


【書評した本】 『山田宏一映画インタビュー集』

2019年12月03日 | 書評した本たち

 

 

ベテラン映画評論家が聞く 

世界の映画人の貴重な証言 


山田宏一:著『山田宏一映画インタビュー集 

       ~映画はこうしてつくられる』

草思社 3960円

 

是枝裕和監督の『真実』が公開された。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ、共演がジュリエット・ビノシュ。そんな作品を日本人監督がフランスで撮る。すごい時代になったものだ。

本書は今年81歳になる映画評論家による、世界の映画人へのインタビュー集だ。さすがに是枝監督は登場しないが、映画史を築いてきた面々が自身と映画を率直に語っている。たとえば、「ジャズと映画はわたしの二大情熱」だというルイ・マル監督。画期的だった、『死刑台のエレベーター』でのマイルス・デイヴィス起用について、「対位法的に音楽を使うこと、つまりイメージと対立しながら調和がとれている音楽」を目指した結果だと振り返る。

また、フランスからアメリカへと移ったのは、なんと『プリティ・ベビー』が撮りたかったからだった。しかも、「わたしの思いどおりの作品にはならなかった」と本音を明かす。同時に、アメリカ映画産業のシステムは「企画から何から、すべてが金になるか、ならないかで決まる」と一種の絶望感も隠さない。

女優陣では、『めまい』などで知られるキム・ノヴァクの話が印象的だ。「ハリウッドのスター・システムによってつくられたセックス・シンボルにすぎない」と決めつけられたこと。そういう目で見る監督には「自分を与え、作品に加担することなど、とてもできない」こと。一方、ヒッチコック監督は役づくりについて、「あなたがこの役をつくるんだ。あなたにしかできない役だ」と鼓舞してくれたと感謝する。演じる側から見た監督たちの生態と、それぞれ異なる現場の様子が目に浮かぶ。

他にも、監督ではクロード・ルルーシュやジャン=リュック・ゴダール、俳優のジャン=ポール・ベルモンドやシャルル・アズナヴールなどが並ぶ豪華キャストだ。著者の知識や見識、そして映画と映画人へのリスペクトのなせる業ともいうべき、貴重な証言の数々がここにある。

週刊新潮 2019.10.24号)


【気まぐれ写真館】 週末は、入試!

2019年12月01日 | 気まぐれ写真館