船戸与一、新潮文庫。遺作。
風の払暁、事変の夜、群狼の舞、炎の回廊、灰塵の暦、
大地の牙、雷の波濤、南冥の雫、残務の骸。
この一年近く、通勤時間にずっと読んでた。
敷島4兄弟と満州の歴史物語。
4兄弟の名前が、太郎次郎三郎四郎なのはわかりやすくていい。
4人の目線にころころ切り替わるから、名前が記号で助かった。
高級官吏の太郎、馬賊になって流されて生きる隻眼の次郎、
生真面目な帝国軍人三郎、劇団やったり人殺したり流されまくり末っ子四郎。
歴史上の著名な人物は、サラッと出てくるだけで、
語って行動を起こしているのは架空の人物たち。
でも4兄弟や架空の人物たちは、巻き込まれはするが、流されていくだけ。
歴史は変えられない。
最初はいかにも船戸与一な男臭い描写に辟易したが、そのうち慣れた。
この論調で行くと、慰安婦も南京虐殺も、あるべくしてあった。
中東のゲリラ組織はそれほど日本軍とかと変わらないのではとも思えてくる。
巻が進むにつれ、世界はどんどん広がる。付属の地図の範囲が広がる。
硫黄島とかサイパンとか、そういう戦略で侵略してたんねとか、
ソ連との駆け引きとか、(北海道の北半分よこせと言われてたと)
全然第二次大戦の全体像を理解してなかったなあと思った。
一番気に入ってたのは次郎だなー。
しかし、物語の最後は、かなり凄惨なエピソードで終わる。
あんな経験をした少年は、一体どう生きていくんだろう。
戦争、恐るべし。