内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

《Philosophia》あるいは哲学の実践

2016-11-27 18:32:13 | 読游摘録

 今年に入って、Monique Dixsault の名著 Le Naturel philosophe. Essai sur les Dialogues de Platon の改訂増補新版が Vrin から刊行された。初版は1985年である。2001年には第三版が刊行されているから、今回の新版は第四版ということになるのだろう。おそらくこれが最終決定版になるだろう。650頁近い大著である。
 本書は、« philosophia » という言葉そのものにプラトンの諸対話篇の各処でいかなる意味が与えられているかを詳細に辿り直すことで、哲学が対話篇の中で様々な仕方で実践されていることをテキストに即して明らかにしていく。
 プラトンにおいて、哲学は、出来上がった学説の披瀝でも、思想体系の構築でもない。そもそも、プラトンの時代、哲学は、まだその可能性よっても、その現実によっても、その定義によっても、さらにはその名によってさえも、まだ確立されたものではなかった。ただ、哲学が創り出されねばならないという要請のみがその時代にあった。プラトンは、« philosophia » という言葉のあらゆる含意を引き出しながら、この言葉の「哲学的な」意味を創り出していく。
 本書は、« philosophia » に初期・中期・後期それぞれの対話篇で与えられていた異なった意味を確定する一方、プラトンの哲学の「学説」から哲学の仕方そのものへと、つまり、問題が提起され、再度提起され、再考される仕方へと読者の注意を転じさせる。
 本書の著者は、そうすることで、きわめて巧妙に意表を突き、意図的に断片化され、この上なく多様な仕方で媒介項を導入するプラトンのテキスト群を、細心の注意を払いつつ、かつ自由に読むことで哲学することへと読者を招いている。