今年の九月に Les Belles Lettres から Maurizio Bettini の Éloge du polythéisme. Ce que peuvent nous apprendre les religions antiques という袖珍本が刊行されました(「袖珍本」って、「袖の中に入れて携えられるくらいの小型の本」っていう意味だから、和服を日常では着ない今日ではもうほとんど死語かもしれないけど、好きなんですね、私、この言葉。別に和服を着るわけじゃないけれど。もちろん文庫本サイズとかポケット版とか言った方が通りがいいんでしょうけれど、なんかそれじゃ言葉として味わいに欠ける気がして)。
著者はイタリア人、古代哲学の研究者、シエナ大学教授。作家でもある。カリフォルニア大学バークレー校で定期的にセミナーをもっているし、フランスにも、École Pratique des Hautes Études やコレージュ・ド・フランスに教えに来ています。
上掲本は、2014年にイタリア語で出版された原本 Elogio del politeismo. Quello che possiamo imparare oggi dalle religioni antiche (© Il Mulino, Bologne, 2014) の仏訳。すごく面白い、この本。タイトルはちょと挑発的だけれど、中身はいたってまっとう。著者は、現代社会に蔓延しつつある不寛容に対して、その原因の一つが一神教の排他的精神にあると考え、古代多神教の世界観から治療法の一つを提案しようとしています。
参照されている現代社会の実例は、イタリアのそれが多く、それがまたフランスと違っていて面白い。議論の出発点として挙げられている対照的な二つの事象はとても示唆的。それを紹介している第一章のタイトルは « Le sacrifice de la crèche et les bombes à la mosquée »。一見すると、寛容の精神がよく発揮された決断と不寛容な態度のラディカルな表明とが、実はどちらもほとんど無意識のうちに一神教の排他性を前提としていることが鮮やかに示されています。そこのところを明日の記事で紹介しますね。