『イソクラテスの修辞学校』にはイソクラテスの学校の経済的基礎についてかなり細かい考証が示されているが、正直なところ、あまり興味を持てないので、その部分は省略する。ただ、印象にのこったエピソードが一つだけある。それだけ摘録しておく。
弁論家のデモステネスがその昔イソクラテスに入門しようとしたとき、規定の授業料一〇〇〇ドラクマ全額を払うだけの資力がなかった。そこで、その五分の一なら払えるので、カリキュラムの五分の一だけ教わりたいとイソクラテスに願い出た。それに対してイソクラテスはこう答えたという。「デモステネスよ、私のところでは授業課程の切り売りはやらないのだ。いい魚は丸ごと売るようにね。だからもし君が弟子になりたいのなら、私もこの技術を丸ごと君に売るのだ。」