イソクラテスのソクラテスへの尊敬の念は、その作品そのもののうちによりいっそうはっきりと見て取れます。
ソクラテスの影響と思われるもののうち最大のものは、イソクラテスの言論・論説にみられる倫理性、道徳性への関心の高さだと廣川氏は言います。この言論における倫理性は、ゴルギアスをはじめソフィストたちにはない特性だとされています。
イソクラテスは、弁論・修辞の術を中心とする教養理念を、たんに「立派に語ること」においては見ず、「立派に思慮すること」との連関において見ていました。さらに、「立派に語ること」を「立派に思慮すること」の最大のしるしでなければならぬとし、善き言論は善き魂(精神)の似像であると主張していました。言論の術における「思慮」の重視は、イソクラテス言論の独自な点であり、この点にソクラテスの影響を認めることができると廣川氏は言います。
イソクラテスがプラトンのアカデメイアと対立関係にあり、激しい批判の応酬を行っていたことは事実です。しかし、プラトンの師であるソクラテスは、イソクラテスにとって、尊敬し敬愛する「内心の師」であったのです。