雪の降る中、京急蒲田の近くで開催された「アントレフェア」というものに参加してきた。3月にビックサイトで「フランチャイズショー」というのが予定されているが、これはそのミニチュアのような印象だ。出展しているのはフランチャイズビジネスだけではないが、殆どがフランチャイズチェーン本部である。今回ここを訪れたのは、そうしたFCビジネスの話を聴くというよりも、会場内で開催されるセミナーを聴講するためである。せっかく時間がふんだんにある状況に置かれているので、この機を利用していろいろ新しい体験をしてみたいと思っている。昨年末は肉体労働系のバイト、年明け以降はさまざまな無料セミナーに足を運んでいる。今回聴講したセミナーは以下の3つだ。
「成功・失敗実例に学ぶ「トレンド&商機」大研究 小売業」講師:井上竜也氏
「成功・失敗実例に学ぶ「トレンド&商機」大研究 サービス業」講師:西野公晴氏
「成功・失敗実例に学ぶ「トレンド&商機」大研究 飲食業」講師:安藤素氏
講師はいずれも社団法人中小企業診断協会東京支部フランチャイズ研究会所属。
今回の出展企業数は49社で大まかな分類ではサービス業が29社、小売が16社、飲食が4社だが、セミナーは飲食が一番興味深いものだった。もし自分が起業をするとして、一番可能性が低いのが飲食なのに、ノートを取った量は飲食が一番多かった。その走り書きのなかからいくつか紹介してみようと思う。
このブログには何度も書いているが、私は積極的に酒を口にすることはない。居酒屋の類にはもう何年も足を向けていないし、外食チェーンも今は滅多に利用しない。失業した12月初旬以降、何度か会食で酒を飲む機会があったが、いずれの場合も食事が主で酒は従である。そういうことなので、世間の居酒屋事情のようなものには疎いということを断っておかなくてはいけない。
統計上の動向として、昨年11月の飲食店の倒産は過去最高水準だったそうだ。そのなかで特に多かったのが居酒屋だという。まず社会全体の傾向として若年層人口が減少しているので、低価格帯市場が縮小を続けている。さらに昨年特有の傾向として震災以降の人々の帰宅時間が早まっているというのである。ひとつには例の「とりあえず自粛」ということで接待が激減しているらしい。接待自粛は高価格帯、例えば銀座のクラブのような市場を直撃したという。もうひとつには、不測の事態で公共交通網が麻痺する前に自宅近辺に戻っておこうという帰巣本能が強くなっているらしい。尤も、これは郊外の「地元飲み」という新たな傾向を生み出しており、個店ベースでは都心店がマイナスで郊外店はプラスなので市場としては中立と読むこともできよう。もうひとつ昨年特有の事象としては焼肉需要の落ち込みが挙げられていた。ユッケでの食中毒事件を機に焼肉店そのものへの需要が減少した上に、焼肉店の売上としても生肉系の落ち込みを他のメニューでカバーできず客単価が下がったという。震災と生肉事故の影響が一時的なものなのか、このまま傾向として定着するものなのか、今の段階ではなんとも言えないが、景気全体が低迷を続けるならば回復などしないだろう。そうしたなかで比較的元気のよい飲食業は低投資、素材重視、個店化(コミュニケーション重視)というキーワードで象徴されるものだそうだ。
飲食を業態毎に俯瞰すると、ラーメンは市場規模が5,000~7,000億円で、寿司や蕎麦・うどんの各1兆円市場に次ぐ大きさだそうだ。しかし、都心では競合が激しく、売上が立地に大きく左右されるため、市場規模が大きいからといって必ずしも事業の難易度が低いということにはならないという。平均的な客単価は700円前後で、一般的な傾向としては開店初月の売上がピークでそこから逓減していく。このため、撤退が早く、居抜店舗が多いので新規参入の比較的容易で、結果的に店舗の入れ替わりが激しくなる。但し、居抜店舗は前の入居者の設備を流用できるというメリットがあるものの、それらの経年劣化が進行していることも少なくなく、例えば空調が故障して交換が必要になるなどすれば、予想外の出費を強いられることにもなる。空調は使用年数に比例して交換リスクが上昇するが、冷蔵庫は使用年数より電源の入切に寿命が左右されがちなので、出店の際には動作状況を確認しなければならない。また、カウンターが狭いと労働環境が過酷になる。豚骨スープを終日作り続けるというようなことは常人には不可能に近く、求人が難しいらしい。
洋食の最大の競合はファミレスだ。成功例としては居抜店舗を活用して初期投資を抑え、主力商品の単価を大手ファミレスより300円程度落とし、なおかつ一手間かけて付加価値をつけたもの、というのが一般的イメージだという。例えば、おれのハンバーグなどが挙げられるという。銀座のジャポネは老舗系の色彩もあるが、立地の良さと大盛りで客を吸引しているという。個人的な経験では、ジャポネは新入社員時代のランチ圏内の店だった。当時は今のように行列のできるような店ではなかったのだが、いったいいつ頃から今のような人気店になったのだろうか。
牛丼や海鮮丼のような単品系では、不思議なことに魚貝系の成功例が少ないという。肉に比べると魚介類の扱いが高い技能を要求するせいではないかとのこと。ただ、ピンポイントでは貝専門店で人気店が現れているらしい。
ファーストフード(ファストフード)・カフェはいずれも低単価なので客数を必要とする。カフェは出店する側も雰囲気や素材にこだわりがちだが、よほど商品の完成度が高く、立地に恵まれない限り成功はしないらしい。殊に健康だの安全だのといったこだわりを前面に出して成功した例は無いのではないかとのこと。所謂「自己実現」的な動機でカフェを開業する人が多く、また内装を担当するデザイナーも雰囲気重視の店作りに走る傾向が見られるが、それで商売として上手くいくとは思えない、ということだ。
最後に居酒屋だが、主戦場は低価格帯市場なので、個人店で戦うには素材などの付加価値で勝負するしかない。成功例としては神田のVinocityや恵比寿のVocoなどがあるが、価格は安くて当然、料理は旨くて当たり前、というのが必須条件でその上で店の関係者の人脈やノウハウを活かした特殊事例と言えるそうだ。他に立呑系で自動車メーカーに勤めていた人が脱サラでいくつかの業態を経営した後に起業した串カツ店が成功事例として紹介されていた。酒の肴となると、旨いものを出そうとすれば職人の腕が必要になることが多いが、職人を使うというのは難しいことなので、自分やバイトを使ってできるもので、競合の少ない立地で営業してコストを抑えることで経営が軌道に乗るということになるらしい。また、売上的には成功している手作り餃子店があるが、手作りなので変動費が高く、それが果たして「成功」と言えるかどうかは微妙なものも紹介されていた。
こうした内容が素朴に面白かった。なにしろ自分では未経験のことなので、ついつい感心しながらノートを取ってしまった。セミナー聴講の後、興味をそそられたブースを2カ所まわり、会場を後にした。帰り道の途中、ハニービーンズでマンデリンを買う。年明け最初の豆補給だ。
「成功・失敗実例に学ぶ「トレンド&商機」大研究 小売業」講師:井上竜也氏
「成功・失敗実例に学ぶ「トレンド&商機」大研究 サービス業」講師:西野公晴氏
「成功・失敗実例に学ぶ「トレンド&商機」大研究 飲食業」講師:安藤素氏
講師はいずれも社団法人中小企業診断協会東京支部フランチャイズ研究会所属。
今回の出展企業数は49社で大まかな分類ではサービス業が29社、小売が16社、飲食が4社だが、セミナーは飲食が一番興味深いものだった。もし自分が起業をするとして、一番可能性が低いのが飲食なのに、ノートを取った量は飲食が一番多かった。その走り書きのなかからいくつか紹介してみようと思う。
このブログには何度も書いているが、私は積極的に酒を口にすることはない。居酒屋の類にはもう何年も足を向けていないし、外食チェーンも今は滅多に利用しない。失業した12月初旬以降、何度か会食で酒を飲む機会があったが、いずれの場合も食事が主で酒は従である。そういうことなので、世間の居酒屋事情のようなものには疎いということを断っておかなくてはいけない。
統計上の動向として、昨年11月の飲食店の倒産は過去最高水準だったそうだ。そのなかで特に多かったのが居酒屋だという。まず社会全体の傾向として若年層人口が減少しているので、低価格帯市場が縮小を続けている。さらに昨年特有の傾向として震災以降の人々の帰宅時間が早まっているというのである。ひとつには例の「とりあえず自粛」ということで接待が激減しているらしい。接待自粛は高価格帯、例えば銀座のクラブのような市場を直撃したという。もうひとつには、不測の事態で公共交通網が麻痺する前に自宅近辺に戻っておこうという帰巣本能が強くなっているらしい。尤も、これは郊外の「地元飲み」という新たな傾向を生み出しており、個店ベースでは都心店がマイナスで郊外店はプラスなので市場としては中立と読むこともできよう。もうひとつ昨年特有の事象としては焼肉需要の落ち込みが挙げられていた。ユッケでの食中毒事件を機に焼肉店そのものへの需要が減少した上に、焼肉店の売上としても生肉系の落ち込みを他のメニューでカバーできず客単価が下がったという。震災と生肉事故の影響が一時的なものなのか、このまま傾向として定着するものなのか、今の段階ではなんとも言えないが、景気全体が低迷を続けるならば回復などしないだろう。そうしたなかで比較的元気のよい飲食業は低投資、素材重視、個店化(コミュニケーション重視)というキーワードで象徴されるものだそうだ。
飲食を業態毎に俯瞰すると、ラーメンは市場規模が5,000~7,000億円で、寿司や蕎麦・うどんの各1兆円市場に次ぐ大きさだそうだ。しかし、都心では競合が激しく、売上が立地に大きく左右されるため、市場規模が大きいからといって必ずしも事業の難易度が低いということにはならないという。平均的な客単価は700円前後で、一般的な傾向としては開店初月の売上がピークでそこから逓減していく。このため、撤退が早く、居抜店舗が多いので新規参入の比較的容易で、結果的に店舗の入れ替わりが激しくなる。但し、居抜店舗は前の入居者の設備を流用できるというメリットがあるものの、それらの経年劣化が進行していることも少なくなく、例えば空調が故障して交換が必要になるなどすれば、予想外の出費を強いられることにもなる。空調は使用年数に比例して交換リスクが上昇するが、冷蔵庫は使用年数より電源の入切に寿命が左右されがちなので、出店の際には動作状況を確認しなければならない。また、カウンターが狭いと労働環境が過酷になる。豚骨スープを終日作り続けるというようなことは常人には不可能に近く、求人が難しいらしい。
洋食の最大の競合はファミレスだ。成功例としては居抜店舗を活用して初期投資を抑え、主力商品の単価を大手ファミレスより300円程度落とし、なおかつ一手間かけて付加価値をつけたもの、というのが一般的イメージだという。例えば、おれのハンバーグなどが挙げられるという。銀座のジャポネは老舗系の色彩もあるが、立地の良さと大盛りで客を吸引しているという。個人的な経験では、ジャポネは新入社員時代のランチ圏内の店だった。当時は今のように行列のできるような店ではなかったのだが、いったいいつ頃から今のような人気店になったのだろうか。
牛丼や海鮮丼のような単品系では、不思議なことに魚貝系の成功例が少ないという。肉に比べると魚介類の扱いが高い技能を要求するせいではないかとのこと。ただ、ピンポイントでは貝専門店で人気店が現れているらしい。
ファーストフード(ファストフード)・カフェはいずれも低単価なので客数を必要とする。カフェは出店する側も雰囲気や素材にこだわりがちだが、よほど商品の完成度が高く、立地に恵まれない限り成功はしないらしい。殊に健康だの安全だのといったこだわりを前面に出して成功した例は無いのではないかとのこと。所謂「自己実現」的な動機でカフェを開業する人が多く、また内装を担当するデザイナーも雰囲気重視の店作りに走る傾向が見られるが、それで商売として上手くいくとは思えない、ということだ。
最後に居酒屋だが、主戦場は低価格帯市場なので、個人店で戦うには素材などの付加価値で勝負するしかない。成功例としては神田のVinocityや恵比寿のVocoなどがあるが、価格は安くて当然、料理は旨くて当たり前、というのが必須条件でその上で店の関係者の人脈やノウハウを活かした特殊事例と言えるそうだ。他に立呑系で自動車メーカーに勤めていた人が脱サラでいくつかの業態を経営した後に起業した串カツ店が成功事例として紹介されていた。酒の肴となると、旨いものを出そうとすれば職人の腕が必要になることが多いが、職人を使うというのは難しいことなので、自分やバイトを使ってできるもので、競合の少ない立地で営業してコストを抑えることで経営が軌道に乗るということになるらしい。また、売上的には成功している手作り餃子店があるが、手作りなので変動費が高く、それが果たして「成功」と言えるかどうかは微妙なものも紹介されていた。
こうした内容が素朴に面白かった。なにしろ自分では未経験のことなので、ついつい感心しながらノートを取ってしまった。セミナー聴講の後、興味をそそられたブースを2カ所まわり、会場を後にした。帰り道の途中、ハニービーンズでマンデリンを買う。年明け最初の豆補給だ。