巷では「おじさん図鑑」なる書物が売れているらしい。なにを隠そう私も持っている。しかも「熊本熊さま なかむらるみ 2011.12.20」という筆者のサインまで入っている。なかむらるみさんに初めてお目にかかったのは2010年9月8日だ。大塚の杉田さんのお宅での彫刻教室を見学におじゃましたとき、受講生のひとりとしてスプーンを作っておられた。今のところそれが最初で最後なのだが、たいへんかわいらしいお嬢さんだという印象だけはいまだに強く残っている。「お嬢さん」というのは印象のことで、蛇足ながら書き加えておくと、なかむらさんはご結婚されている。それでサインはたまに出かける小石川の橙灯というカフェの坂崎さん経由でお願いして書いて頂いたのである。坂崎さんは本書34頁「おっちゃん探訪 大阪・名古屋」に「紀子さん」として登場する。蛇足ついでに書き加えておくと、坂崎さんもご結婚されている。それで本のことだが、先日、神保町の三省堂でベストセラーの第3位にランクされているのを見てたまげた。サインまでいただいておいてこんなことを書くのもなんだが、それほどの内容のものではないと思う。ただ、ともすればシニカルな書きようになってしまいそうな内容を好意的に書いているというところが読者獲得の主要な要因ではないかと思う。いったいどのような人が購入しているのか知らないが、多くの人が手にするものというのは、多少の毒気を感じながらも根っ子の部分にはそういう優しさのようなものがあるように思う。
ところで本についての感想だが、特にない。前に書いたように著者の暖かいまなざしが印象的だった。ただ、2カ所気になるところがあった。まず一つは42頁のコラム「ギャンブル場に行こう」に戸田ボートが抜けている。ほかにもちょいちょい抜けているのだが、戸田市で幼年時代を過ごし現在も実家がある身としては戸田ボートが抜けていることだけは看過できない。あとひとつはドヤ街でのことを書いた122頁に原発関連の仕事の相場について触れているところだ。
「日雇い労働者のおじさん達が原発で働く話は噂で聞いていたのだが、ここではリアルに行われているようだった。昔から日給7万円というような仕事はあったらしいし、地震後は「3分3万円。割り切って行ける人を募集します」なんて仕事が出るらしい。」
と、伝聞調で書いているが、それはこの本が小学館というメジャーな出版社から出ているもので滅多なことは書けないということへの配慮であって、著者はちゃんと見聞しているのではないかと私は見ている。3分3万円なら割り切ってもよいかもしれない、と今真剣に考えている。
おじさん図鑑 | |
なかむら るみ | |
小学館 |
今日は陶芸の日だったが、年明け最初に挽いた碗が3つ素焼きから上がっていたので施釉をする。卯の斑をかけてみた。土が並信楽なので焼き上がりはクリーム色になり、還元焼成なら灰色がかった斑が出る予定だ。いままでは釉掛けの後、乾燥した釉薬のでこぼこや垂れを削って肌をきれいに整えたのだが、今日はそういうものをそのままにしておいた。中途半端に見てくれを繕うという姿勢は醜いのではないかと不意に感じたのである。せっかく釉薬という液状のものを使うのだから、その動きを景色として活かしたほうがよいのではないかとの思いが急に湧き上ったのである。この施釉のほかに、1月31日に挽いた壷2つを削って整形した。微妙な違いでしかないのだが、それでも今まで挽いたなかでは一番大きな壷と、今まで挽いていた平均的な大きさの壷である。大きいほうは削り加減に今ひとつ確信を持つことができず、ちょっと厚めになってしまったような気がする。平均的なほうは特にどうということもない。ただ、片付けて帰る段になって、やはりもう少し攻めておいたほうがよかったのかもしれないとの思いが頭をもたげた。来週削る予定の壷については、もう少し気持ちを入れて向かい合おうと思う。