栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

WiFiタブレットを使い倒す(3)

2016-04-30 09:56:23 | 視点
ネット非接続でもPCとの同期

 本稿はタブレットとPCの両方で書いているが、こういう場合に問題になるのが文書データの同期を図れるかどうか。

 タブレットの弱点は端末内部の記録容量(ストレージ)が少ないこと。
モバイルPCなら容量300~500GBのハードディスク(HDD)を内蔵しているが、タブレットだとストレージが16GBか32GBというところだ。
 外付けのmicroSDカードにデータを保存できるようになっているものも多いが、それでも32GB。多くても64GB。大容量SDカードがまだないということもあるが、PCに比べると記録容量は圧倒的に少ない。

 もともとタブレットは単体(スタンドアローン)ではなく、ネット接続下で使うことを前提に作られているから、それでいいのかも知れないが困ることもある。特にWiFiタブレットはネットに接続できなければ「ただの板」にほかならない。

 とはいえ、日常使いで困ることはなかった。私の場合は持ち歩いて使うことがなかったからである。
 ところが、2月下旬に母がグループホームから病院に移って以降、毎午後、病室に行き母の側で過ごすのが日課になった。そうなると空き時間(母が眠っている時間)を考えタブレットを病室に持ち込むようになった。
 以前ならモバイルPCなのだが、母が眠っている時間といっても、眠ることもあるし、ずっと起きたままのこともあり、目を覚ました時に即座に対応できるという面でもタブレットの方がよかった。
 すでに医師からは「もうできることはありません。後は看取りだけです」と言われていたので、容態が急変した時、PCを開いているとモタモタしてしまうが、タブレットなら放り投げるだけでよかったということもある。

 しかし、ネット非接続環境でタブレットを使おうとした突端、データを保存して持ち歩けないというタブレットの弱点が大きく立ちはだかった。

 いままではデータをDropboxやOneDriveといったクラウド上に置き、PCやタブレットでアクセスしていたから、WindowsとAndroidでも問題なくデータの同期が図れていた。

 だが、LAN環境がなくなるとWiFiタブレットは使えない。
もちろんコンビニに行けば無料WiFiが使えるが、そこで原稿を書くわけにはいかない。
またスマホでネット接続して、テザリングでタブレットを使うという方法もあるが、そんなことでSIMのデータ容量をムダにはしたくなかった。

 結局、ネットに接続していなければタブレットは「ただの板」である。スタンドアローンでは使えない。
 一度はそう諦めたが、その後、調べているうちにネット接続環境になくてもやりかけの仕事を継続できることが分かった。

 その方法とはこうだ。私の場合は文章を書くのにWindowsでは「秀丸(ひでまる)」、Androidでは「Jota Text Editor」というエディターを使っている。
これらを使ってクラウド上にある文書を引き続き作成・編集・保存できればいい。

 試したところクラウド上の文書が読み込めたものとそうでないものがあり、すべてのデータが読み込めるわけではないことが分かった。
 その差は一度データをタブレットで読み込んでいるかどうかで別れた。要は一度読み込んだデータはクラウド上だけでなく本体にも保存されるから、それを読み込んでいるわけだ。

 次に読み込み編集もできたが、保存できないことが分かった。
これでは結局使えない。

 さらに色々試していると、DropboxにもOneDriveにもオフラインで使えるようにする設定があることが分かった。

 例えばDropboxの場合、Dropboxを開く→ファイル一覧が表示→編集したいファイルの右端にあるマークをタップする。



 するとファイル名が表示され、その下に「このアプリで開く」「名前を変更」「コピー」などが縦に表示される。
一部下の方に隠れて見えないものもあるが、その場合は上にスライドしてすべてを表示させると、下から2番目の所に「オフラインアクセス可」というのが見える。

 表示された時はグレー(オフ)になっているが、そこをタップしてオンにする。
これでオフラインでも編集・保存ができるようになる。

 OneDriveも同じように行えばOK。言葉が「オフラインを維持」に替わるだけで、ここをタップしてオンにするだけだ。

 以来、PCで文書を書く場合、常に作成中のファイルを「オフラインアクセス可」にしている。
 かくして、いとも簡単にデータの同期が図れるようになり、タブレットの出番が増えてきた。







WiFiタブレットを使い倒す。(2)

2016-04-28 22:27:02 | 視点
フリック入力が結構使える

 そんなわけで結局アンドロイドの方を買ったわけだが、買い替えた理由はキーボード。
 実は10数年前から左手小指が腱鞘炎で伸びなくなり、いまでは左手でまともに使えるのは人差し指だけ。
他の指は曲がったままで伸びない。そのためQWERTYキーボードを打つのが苦痛で、他の入力方法、例えば紙に手書きしたものをデジタル変換する方法や、音声入力、かな入力方式等々を色々試してみたが、どれも一長一短。

 入力の速さでいえば、やはりキーボードに敵わないが、指への負担を考えるとQWERTY入力より打鍵数が少ない、かな入力方式の方がいい。
ただ新たにキー配列を覚えなければならないのが多少のネック。
でも、それはなんとかなりそうだった。

 ところが未だかな入力方式はものになってない。
というのも、文章を書く時は思考を妨げないスムーズな入力が必要で、この点でどうしても長年使い慣れたQWERTY入力には敵わず、かな入力でたどたどしく入力しているうちに、ついイライラしてQWERTY入力に戻してしまう。
そのため、いつまでたってもかな入力のキー配列が覚えられないのだ。

 ところが、指が伸びなくて日常生活に支障が出はじめたのと、それに伴う入力ミスの頻発で、キーボードによるQWERTY入力を他の方法に変え、これ以上指への負担をかけないようにする必要に迫られてきた。

 そこで物理的キーボードがないタブレットをPC代わりに使えないかと考えたが、問題は相変わらず入力方法。
ソフトキーボードも左指を使うことに変わりはないが、スマートフォン(以下スマホ)などでよく使われているフリック入力なら右手人差し指だけでよさそうだったので、この方式を試してみることにした。

 フリック入力はタッチパネルでの文字入力操作の一つであり、入力文字画面をタッチすると、その文字の四方に別の文字が表示されるので、指を滑らせて入力したい文字を選ぶ方式である。
 文章でこう書くとなにかややこしい方法のようだが、ケータイの文字入力画面を思い浮かべてもらえばいい。
ケータイの場合は数字と一緒に「あかさたなはまやわ」という50音の頭文字が表示されているが、その画面から数字を消した形になっている。



 ケータイの場合は「え」を入力するためには「あ」のボタンを4回押す必要があるが、フリック入力では「あ」のボタンをタッチすると、その四方に「い」「う」「え」「お」の文字が表示される。「え」は「あ」の右横に表示されるから「あ」をタッチした指を右に滑らすだけで「え」が入力できる。

 この入力方式を使いはじめてまだ間がないので、入力スピードはキーボードに敵わないが、多少のスピードダウンさえ我慢すればそこそこ使える。

 この入力方式の利点は特別なキー配列を覚えなくても済むことだ。またケータイやスマホと同じで1文字、2文字入力すると、その文字で始まる単語がいくつか連想表示され、その中から選ぶだけで文字入力できる。
 そういう意味ではキーボード入力より楽で速いともいえる。これならいままでPCが苦手だった中高年でも簡単に文章が書け、まさに中高年にこそピッタリの端末といえるだろう。



ソニーストア

WiFiタブレットを使い倒す。(1)

2016-04-28 16:22:51 | 視点
 いままでタブレットを多少バカにしていた。パソコン(PC)に比べると、あんなものはインターネットの閲覧とメールの送受信程度にしか使えないだろうと考えていたからだ。実際、私自身の使い方がそれにほかならなかった。
 ところが最近、案外使えると認識を新たにした。とりわけ中高年にとってはPCよりタブレットの方が便利だと。

タブレットは中高年向き

 タブレットの利点は

1.スイッチオンですぐ使えること

2.キーボード、マウスが不要なこと

3.軽量コンパクトなため利用場所を選ばないこと

4.比較的安価なことだ。

 しかし、これらはメリットであるとともにデメリットでもある。
特に2と3の項目は。キーボードやマウスが不要だと本体も設置スペースもコンパクトで済み、それがタブレットの大きな魅力でもあるが、こと操作性という点では著しく不便だ。

 文書等の閲覧には便利だが、文書を書くという点ではPCにはるかに及ばない。
コピーや貼り付けという作業一つとってもPCのようにはいかない。その操作だけでPCの何倍かの時間がかかる。
 それなら外付けキーボードを利用すればいいようなものだが、それではタブレットの魅力が半減する。また外付けキーボードを付けるぐらいなら11インチサイズのモバイルPCの方がいいということにもなる。

 3の軽量コンパクトを実現するために犠牲にされた部分も多い。
タブレットは基本的にインターネットに接続した状態で使うことを前提に作られているから、ネット未接続状態ではまず使えない(役に立たない)。データ等の記憶容量も少ない。

 早い話ネットに接続してなけれぱ「ただの板」で、PCと同じようには使えないし、PCの代わりと考えてはいけない。
 にもかかわらず、なぜ中高年にはタブレットがいいのか。

 私自身がタブレットを使って分かったことだが、この端末は閲覧向きだということ。
インターネットの画面を見たり新聞や電子ブックを読んだりするには便利なことこの上ない。

 軽くてコンパクトだから、どこにでも持ち運べるし、スイッチを入れればすぐ画面が出てくる。PCのようにスイッチを入れてから画面が出てくるまでしばらく待たされるということがない。

 私が最初に使ったタブレットはNexsus7。これは名前から分かるように7インチサイズ。片手で持つのにちょうどいい大きさで、持ち運びが苦にならない。
 言い換えればモバイルにピッタリということだが、生憎私の場合は外に持ち出して使うことはないから、もっぱら自宅専用。

 主な使い方はメールのチェックとインターネットの閲覧。
そしてこれが中心だが、新聞の閲覧である。

 新聞は紙をやめて、もっぱらタブレットを使い、ネットで読んでいる。各紙の専用アプリを使えば紙の新聞と同じ形で読めるので、パソコンよりはよほど読みやすい。かくして毎朝、タブレットのお世話になっている。まあ言ってしまえば、新聞を読むためにタブレットを使っているようなものだ。

 その程度の使い方しかしないならわざわざタブレットを買う必要はなかったのではないかと言われれば、その通りだろう。ちょいと興味本位で買ってしまったというのが正直なところ。これが2万円も3万円もしたなら買ってないが、1万6000円台になっていたから、この価格なら買って損はないだろうと、安物買いの錢失いになる危険性を承知しつつ買ってしまった。

 新聞専用程度にしか使ってなかったタブレットなのに数か月前、なぜか10.1インチサイズのタブレットをまた買ってしまった。それもアンドロイドのを。
 実はこの時Windowsタブレットを考えていた。同じアンドロイド系を2つ持っても仕方ないし、Windowsタブレットならパソコンとの親和性がいいからだ。ただ色々調べると操作性等でアンドロイドの方に分があった。外付けキーボードを使わなければ特に。







毎日新聞社、西部本社版紙面を無料公開

2016-04-18 10:37:03 | 視点
 熊本地震の被害状況が拡大している。

毎日続く余震で自宅や屋内にいる危険性を感じ避難する人達が増えている。

多くは体育館その他の共同避難場所で過ごしているようだが、プライバシーや寝る場所の確保が難しいとの理由などから車中で寝泊まりしている人も増え、20万人近い人が避難生活を余儀なくされている。

 被災地への支援は様々な形で行われているが、1に食料等生活必需品の支援だが、情報不足も過去の震災被害現場でよく指摘された。



 こうした状況を鑑み、毎日新聞社は本来有料版のデジタル紙面を無料公開した。

ただし、無料で読めるのは九州地区をエリアとする西部本社版のみだが、この英断に拍手を送りたい。

現在、全国紙で紙面を無料公開したのは毎日新聞だけのようだ。

ネット接続環境という状況はあるものの、毎日新聞ビューア・アプリを使えば西部本社版紙面の朝刊・夕刊が無料で読めるようだ。

 個人的には以前から有料購読していたが、無料公開されたことに今日気付いた。
もしかすると数日前から無料公開していたのかもしれないが、恐らく今日からではないかと思う。

 こういう支援の形も大いに評価したい。

[追加]
 毎日新聞西部本社版の無料公開は残念ながら5月9日朝刊までで終了になった。
 せめて1か月は続けて欲しかったが・・・

今からでも遅くない、地震対策ーー家具転倒防止装置

2016-04-16 17:31:54 | 視点



 家具転倒防止装置「田尾さん」の簡易パッケージ版

2個で1対になっています。

上の1個は爪が下に伸びた形。

地震で揺れる度にこの爪が下に伸び、取り付けられた家具等を後ろに傾け、転倒するのを防いでくれます。



 家具にセッティングした形

実際に設置する場合は2個は家具の左右端に近い所に取り付けます。

左はカバーを取り外したもの。

家具の前面に取り付ける場合、このようにカバーを取り外して付け、

取り付けが終わった後にカバーをかぶせます。

 家具等への取り付けは基本的にはビスで固定だが、

家具等に穴を開けたくない場合や金属面への取り付けは

両面テープで接着できるようになっています。

 一応、両面テープは最初から付いていますが、より強力なタイプの両面テープに取り換え、

家具等へ取り付けた方が安心でしょう。




 パッケージ版


 九州でこれほど大きな地震はかつてあっただろうか。
被害はどんどん拡大しているし、地震がおさまるまで数か月かかるかも分からない、とまで言われている。
直下型地震の恐ろしさを知らされるとともに、いまさらながらに活断層を軽んじられないと思い知らされた。
地震、雷、火事・・・という言葉があるが、今夜は雷雨まで襲ってくるという。
なんとも無慈悲。
自然にやさしさ、思い遣りの気持ちはないのか。


セブン-イレブン鈴木会長引退会見の違和感(3)

2016-04-13 12:26:43 | 視点
 まあ、これだけで結論を出すのは早すぎるだろう。では次の事実をどう考えるだろうか。
 康弘氏は新会社の社長に就任するとともにHDの執行役員にもなったのである。さらに14年12月、新設の最高情報責任者(CIO)に就任。

 繰り返すが、それまで右肩上がりの業績を上げてきたわけでもないのに、吸収合併された企業のトップにいきなり「抜擢」されたばかりか、その親会社の執行役員、最高情報責任者になったのだ。しかも最高情報責任者ポストは新設されたものだから、彼のために用意されたといってもいいだろう。

 客観的に見て、これを親の七光りと言わない人がいるだろうか。恐らくいないだろう。
 となれば、その先に見えるものは何か。どんなに鈴木氏本人が引退会見の席上で否定しようと、世襲を目論んだと勘ぐられるのは仕方ない。創業者でも大株主でもない、社員からのし上がった人物が世襲を目論んだとすれば一大事。創業者であり大株主の伊藤名誉会長が鈴木氏の人事案に賛成しなかったのは容易に想像がつく。

ご都合主義的な「資本と経営の分離」

 鈴木氏が多弁に説明し、HDの顧問を務める後藤光男氏(81歳)と佐藤信武氏(77歳)の両古参幹部が補足説明をしようとも部外者にはなんとも理解できないセブンイレブンのトップ交代人事。鈴木氏の引退会見の内容もさることながら、説明会場に首を揃えた面々が揃ってお年寄りなのも奇異に映った。
 コンビニエンス業界は流通業の中では若い業態である。すでに1線を退いた人々ではなく、次世代を担う若い世代が居並んで説明するならまだしも、80歳前後のロートル達の説明では繰り言にしか聞こえず、ますます今回の引退劇の真相を見えなくしている。

 それはそれとして鈴木氏の繰り言、いや失礼、説明で資本と経営の分離が言われている。井坂氏解任人事案の理由とは直接関係ないことであり、唐突な印象を拭えないが、これも先の「獅子身中の虫」発言同様、鈴木氏自身が納得できない個人的感情があったのだろう。以下、その部分を引用してみる。

 「くどくなりますが、私は資本と経営の分離を言ってきました。今、伊藤家の資本そのものは全体の約10%で、そのこと自体は経営に大きく影響するようなものではありません。けれども私は小売業、なかんずくフランチャイズビジネスについて考えると、そのあたりをきちっとしておかないといけないと思っています。その見本を作ることが大きな使命だと思っていますし、何もそれはセブンイレブンだけの問題ではなく、日本のコンビニを総反対された中で作ってきたという私の使命からしても、資本と経営の分離をきちっとすることが、重要だという思いがあったからです」

 納得。このこと自体に異論はない。その通りだと理解する。ただし、今回の騒動発端のセブンイレブン社長交代人事案否決の最後のトリガーが伊藤名誉会長の反対表明だったことを考え合わせると、その通りと一般論で頷くわけにはいかない。
 資本と経営の分離の大原則に従い、オーナーは経営(今回の場合は人事案)に口を挟むな、と言っているように聞こえる。

 とにかく、この人物、一言多いようだ。「お恥ずかしくて申し上げられない」とか「くどくなりますが」と断りながら、くどくど、ネチネチとよく語る。そのくせ肝心な人事案提出の理由についてはあやふやなまま語らないが。

 早い話、会社を私物化したかったとしか思えない。でなければ社外取締役2人を加え4人で構成される「指名・報酬委員会」で5時間も議論し、賛成に至らなかった人事案を取締役会に再度提案するなどという強引な手法を取る理由が見当たらない。

 俺が言うことに反対するはずがない、と考えていたのが案に相違して5時間も議論を尽くすことになり、最後は折れてくれるどころか、最後まで決着がつかず、挙句の果てには取締役会に強引に諮ったところ、ここでもよもやの否決。「ブルータス、お前もか」の心境だったのではないか。

 「資本と経営の分離」という言葉をこのような形で使うべきではないだろう。むしろオーナーでもないのに、長期に渡って君臨し続けた自身の姿をこそ恥ずるべきだったのではないか。







セブン-イレブン鈴木会長引退会見の違和感(2)

2016-04-13 12:26:30 | 視点
 在任期間の長さを問題にするなら鈴木会長の在任期間はどうだろう。鈴木氏がセブンイレブン社長に就任したのが1978年、同会長には1992年に就任しているから、社長時代から考えれば37年余り。会長時代から数えても23年余りトップとして君臨しているわけで、自らの在任期間を問題にしないのは明らかに片手落ちだ。

 鈴木氏はオーナー経営者ではない。にもかかわらずこの在任期間は問題だろう。それとも業績を上げてきた実力者だから許されるのか。もし、そうだとすれば井阪氏の場合にも同じ判断基準が適用されなければならない。

 こう見てくると、鈴木氏が井阪氏に退任を迫る根拠が非常にあやふやなことに気付く。仮に「君は7年もセブンイレブンの社長を務めてきたから、ここらで後進に道を譲り給え。私も長年、会長職に留まり過ぎたので、この際退任する」とでも言うならば、退任が遅すぎたきらいはあるが、それでもまだ筋が多少通る。
 だが、そういう流れでもなかったようだ。とすれば本当の理由は何なのか。


多弁は真の理由を覆い隠す

 鈴木氏の引退会見が異常なのは既述したように古参幹部に援護射撃を頼んだことと同時に、多弁すぎることだ。むしろ女々し過ぎるほどで、くどくどと経緯を事細かに話している。そして話せば話すほど、なぜ、井阪氏を辞めさせることにそこまでこだわるのか、もっと別の理由があったのではないかという疑念を生じさせる。

 今回の引退会見を見聞きした人に、そのような疑念を生じさせたこと自体がすでに失敗であり、鈴木氏を名経営者という名声から遠ざけることになるだろう。

 それにしても話の内容がくどい。まるで自身の方が引退を迫られたような感じを受ける。
 くどいのは話だけでなく、井阪氏に退任を迫ったやり方にもくどさというか、執拗さを感じる。セブンイレブンとは直接関係ない井阪氏の父親にまでアプローチし、息子に辞めるよう説得を頼んでいるのだから尋常ではない。

世襲画策を疑われた背景

 鈴木氏の会見で気になる箇所、奇異に映った箇所がいくつかあった。一つは「お恥ずかしくて申し上げられないけれど、獅子身中の虫がおりまして、色々なことを外部に漏らしていたのは事実です」と語った部分だ。

 「獅子身中の虫」って何? 井阪氏解任の件を創業者であり大株主の伊藤雅俊名誉会長に連絡した人物のことだろうか。「お恥ずかしくて申し上げられない」なら喋らなければいいと思うが、なにかよほど個人的感情があったに違いない。
それにしても、この一言は全くの余分。この一言で過去の名声を自ら地に落とした。

 今回の井阪氏辞任要求の背景に、鈴木氏次男への世襲画策があった--そう勘ぐる向きは結構多いようだ。実際、株主である米投資ファンドのサード・ポイントは3月末に「人事案は鈴木氏が次男康弘氏(51)を後継にするためだ」と批判する内容の書面をセブン&アイ・ホールディングス(HD)に送っている。

 これに対し鈴木氏は引退会見の席上、記者の質問に対し次のように述べている。
「何で息子の話が出てくるのか分かりません。社内でも飛び交っていると聞きまして、ビックリ仰天なんですよ。そんなことを言ったことはありませんし、息子もそんなことを考えたことはないと言っていますし、ましてやセブンイレブンに直接タッチしたことがありません。技術屋ですから、そんなことは考えていません。それなのに、まことしやかに社内で言われているのは、いかに私の不徳の致すことかと思っています」

 この言葉を額面通りに受け取る人は本人以外にいないのではないか。なぜなら、この噂は1年前から囁かれているからだ。火のないところに煙は立たず、と言われるように、これを根も葉もない噂と一笑に付すには少し無理があるかもしれない。

 そこで鈴木氏の次男、康弘氏のセブンイレブングループ入社前後の経歴を見てみよう。
 1999年8月、書籍のインターネット通販会社イー・ショッピング・ブックスを設立し社長に就任。
 2009年12月、セブン&アイHD傘下に入り、セブンネットショッピングに社名変更。
 14年3月、セブン&アイHDの中間持ち株会社セブン&アイ・ネットメディアがセブンネットを吸収合併。康弘氏、社長就任。

 企業動向に詳しい読者の中にはこの段階で「おやっ」と思われるに違いない。そう、吸収した側ではなく、吸収された側の社長が吸収合併されてできた新会社の社長に就任したのである。

 一般的には吸収した側が社長に就任することが多い。ただ、今回のようなパターンもないわけではない。ただ、超低空飛行を続けていた会社の社長が新会社の社長に就任する例はないか、あっても極稀だろう。

 業績が悪化している会社のトップを新会社のトップに据えて指揮を任せてうまくいくと考えるのはよほどのお人好ししかいないだろうから。そういう意味では当時のセブン&アイ・ネットメディア、あるいはHDはよほどのお人好しだったのだろう。でなければ、なにか遠慮しなければならない事情でもあったのだろうか。







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セブン-イレブン鈴木会長引退会見の違和感(1)

2016-04-13 11:56:07 | 視点
 4月7日、流通小売業界を激震が襲った(というほどでもないか)。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)が突然、引退を表明して記者会見を行った。その会見内容を詳細に知るや、上場企業のトップとも思えないお粗末な内容。ひと言で言えば大いなる茶番。名経営者、カリスマ経営者との名声(?)を欲しいままにした鈴木氏が晩節を汚したというか、見苦しさを露呈した会見だった。
 その見苦しさたるや大塚家具創業者の会見以上で、まさに二番煎じ。「二度目は喜劇」ならぬ茶番にほかならない。よくもまあここまでと呆れ返った。

二度目は茶番劇になる

 両者の会見は実によく似ている。大塚家具創業者の場合、子飼いの部下を何人も引き連れて会見したが、鈴木氏も当初3人での記者会見の席に急遽、古参顧問2人を含めた5人を引き連れての会見となった。古い、子飼いの部下(イエスマン)を引き連れての大名会見で、両者に共通しているのは「俺はこんなにも幹部から慕われている」という思いであり、それを外部にひけらかすことで「世論」を味方に付け、状況を変えたいという意識である。

 引退会見なら一人で堂々とやればいい。それなのに部下を引き連れて行わなければならない所にすでに時代錯誤、見苦しさがある。
 鈴木氏は模倣すべき相手を間違えたようだ。模倣すべきは大塚勝久氏ではなく大塚久美子社長の会見の方だ。正々堂々と一人で淡々と会見を行うべきだった。

「どうやら私の時代は終わったようだ」「Old soldiers never die, but fade away.(老兵は死なず、皆の前から消えていくが、私の魂=理念は皆とともに生き続ける)」とでも言って静かに去れば、賞賛の嵐に包まれただろうに。

 まあ、内幕を暴露した、なんとも見苦しい引退会見だったが、引退時期は5月の株主総会までの間と漠然としているし、取締役会で鈴木氏主導の井阪隆一社長退任人事案が否決されはしたものの、「これは井阪君が信任されたということではありません」と述べるなど、株主総会までの間にまだ一波乱二波乱はありそうな(起こそうとしている)気配だ。

 それはさておき、要領を得ない今回の「騒動」だが、鈴木氏の会見内容から問題点を探ってみよう。

問題は業績か在任年数か

 「騒動」の発端はセブン-イレブン・ジャパン(以下セブンイレブン)の社長交代人事である。鈴木会長が井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)に退任を求めたのだが、その理由は「セブンイレブンの社長は、これまで最長で7年間の任期」という暗黙の了解(慣習)で来ているから、井阪社長も在任期間が7年になったから辞めろというもの。

 これは大手企業ではよくあることで、在任期間5年で交代という例も多いから、このこと自体はあながちおかしいとはいえない。井阪氏もそう考えたのだろう。鈴木会長から辞任の打診を受けた時、一度は了解したようだ。ところが、その後態度を一変させ、辞職拒否に動いたことから両者の確執が始まり、辞めろ、辞めないの騒動に発展した。

 井阪氏の会見がない(執筆時点)から以下は憶測になるが、鈴木会長が井阪氏を辞めさせようとしたのは単に在任期間の長さだけではなく、何か他の意図がありそうだと感じ取ったからではないだろうか。

 一般的にトップが交代するのは不祥事か業績悪化の責任を取って辞めるパターンと、業績がいい時期に交代のどちらかである。後者の場合はバトンタッチが会社の業績その他に影響を与えないと思われるからであり、スムーズなバトンタッチはこの時期に行われることが多い。

 では今回の社長交代はどちらに該当するかと言えば明らかに後者である。井阪氏が社長に就任して以降、好業績を続けているわけで、スムーズに後継にバトンタッチするには絶好のタイミングといえる。
 ただし、この場合、後継は若返るのが一般的で、逆の場合は業績悪化等の責任を取って辞める場合に見られる程度である。

 今回の人事案で挙げられた後継社長候補は古屋一樹副社長。井阪氏が58歳なのに対し、古屋氏は66歳。これでは若返りどころか逆である。ちょっと待って、と思うのが普通だ。
 これってもしかするとショートリリーフ? その先に待っているのは何? と井阪氏が考えたとしてもおかしくはないだろう。同じように感じた人は株主の中にもいたようだが。




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