人はなぜ陰謀論に惹かれるのか
こうした現象は何も今回が初めてではないが、ここまで威力を持ち、勢力を拡大したのは今回が初めてであり、
それだけにこのウイルスの蔓延は恐ろしい。
ウイルスは宿主に寄生して生きていくため、ウイルスと宿主は共生関係にあるとも言える。
ウイルスにとって宿主は絶対必要な存在で、宿主が絶命すれば自らも絶命せざるを得ない。
だから一般的にはウイルスの毒性は宿主を絶滅させるほど強くはない。
しかし、今回のウイルスは強力で、ある地域では宿主を2分させ、互いに闘わせているし、我が国でも一定の感染力を持って広がっている。
人はなぜ、このウイルスにいとも容易く感染するのか。その背景と今後に及ぼす影響について考えてみたい。
「人間は考える葦である」
フランスの哲学者パスカルは、人間は自然の中で最も弱い1本の葦に過ぎない、と言った。
だが、それは「考える葦」だと。葦と人間の違いは思考するかどうかなのだ。
「反省するだけならサルでもできる」というCMが流行ったことがあるが、これは正確に言うと
「反省している動作(ふり)」だけならサルでもできる(猿真似)ということであり、それは「反省」とは別物だ。
反省とは過去の行動を振り返り、改めるという思考(考える)が伴うからで、「考えるサル」は人間になれるが、
「考えない人間」はサルと同じだろう。
しかし今、考えない人達が増えている。
風の強さや風向きを見て、風になびき従っていたり、風に逆らっているように見えても、その実、別の意見に同調し、
その強固な信者になっているだけの人が。
こうした傾向は何も昨日、今日現れたわけではない。
なんども形を変えて現れている。
「フリーメーソンの陰謀」だったり「宇宙人説」や「影の集団」、挙句の果てには「M資金」という言葉も
日本では何度も囁かれては消えた。そのうち最も長かったのが「秘密結社」フリーメーソンだろう。
フリーメーソンは別に秘密結社ではなかったのだが、組織の実態が広く知られてなかったり、
ベンジャミン・フランクリンやルーズベルト、トルーマン、マッカーサーなどがフリーメーソンの会員だった
こともあり、世界の政治を影で操っているのは彼らだという「陰謀論」がまことしやかに囁かれた。
そういえばロスチャイルド家もフリーメーソンと同じような位置づけで囁かれたことがあった。
これらは「エスタブリッシュメント」への反発から来る「陰謀論」で、確たる根拠(エビデンス)は
ないにもかかわらずというか、だからこそ一部の人達の間で信じられ、広がっていた。
なぜ、この種の話は広がるのか。1つには面白さがあり、次に説明の付けやすさがある。
人は論理的な話をあまり好まない。
それよりはスパッと言ってくれる話の方に飛びつく。
正しいかどうかではなく、分かりやすく感情に訴えるものの方を好む。
ドナルド・トランプ元米大統領の言動が支持されたのはまさしくこのためだ。
「君たちの生活が苦しいのは移民が仕事を奪っているからだ。移民の流入を阻止しろ」
「SARS-CoV-2なんか怖くない。マスクなんか着けなくていい」
「選挙で勝ったのは私だ。民主党陣営は票を誤魔化している」
アジアやアフリカの独裁政権が使っているのと同じ言葉をアメリカの大統領が発し、
議会議事堂へデモをかけるように支持者を煽ったわけで、つい先程、ミャンマーの軍事政権が選挙の不正を訴えて
クーデターを起こし軍政を敷いたが、それと同じことがアメリカで起こりかけたのだから恐ろしい。
さらに恐ろしいのはアメリカ国内ではまだトランプの言うことを信じている人たちが結構いるということと、
日本にも一定数いること。トランプ夫妻はちゃっかり早々とコロナワクチンを打っているというのに。
論理的な思考より感情に訴える話の方を好むのは日本人も同じ
都合よく説明できる宇宙人説や陰謀論
宇宙人説や陰謀論が流行るのは、今起きている不可解な出来事を都合よく説明できることも大きく関係している。
例えばキリストが起こした数々の奇跡や復活もキリスト宇宙人説に立てばスッキリ説明できるし、
エジプトのピラミッドも宇宙人建設説なら実にスッキリ説明できる。
アメリカの陰謀、ロスチャイルド家の陰謀、ビル・ゲイツの陰謀等々。
とにかく不都合、不可解な現象は裏で〇〇が操っていると言いさえすれば、全て簡単に説明できる。
陰謀だから理論的、科学的、論理的に説明しなくてもいい。「陰謀だ」と言いさえすればいいのだから。
こうした陰謀話を聞いた人は最初は半信半疑だが、そういう人には「実は私も最初はそうだった」とか、
別の人を連れて来て「この人も最初は半信半疑で信じてなかったけど、今は彼(彼女)の方が私に情報を
教えてくれるほどの存在」と言えば「そうなのか、この人も最初は半信半疑だったのか。私と同じだ」
という妙な安心感と仲間意識みたいなものを覚え、第三者が信じたのだから本当だろうと思い込んでいく。
一度そうした感情に陥ると、後は陰謀論信者になるのは容易いことで、それを手助けしてくれる便利なものが現代にはある。
インターネットやSNSだ。
インターネットに接続して検索すれば「仲間」はすぐ見つかる。そして安堵する。
自分だけではなかった。ほかにもこんなに多くの人が信じているのだ、と。
何事につけ人は独りだと不安になるが、同じ考えの人がいれば安心する。落ち着く。そして群れる。
動画中心の人ほど偽情報、陰謀論に感染
インターネットは数々の便利なものを我々に提供し、生活を大きく変えることに貢献したが、
その一方で人々を情報漬けにし、真偽不明な情報を溢れさせたのが最大の罪で、今GoogleやFacebook、Twitter、
さらにMicrosoft社はそのことに気づき、フィルターにかけフェイクニュース(偽情報)の拡散を防ぐ必要性を感じ始めている。
しかし、これは難しい問題だ。
どれが不都合、あるいは害を与える情報で、どれがそうでないかの判断基準をどこに置くのか。
また判断は誰がするのか等々といった問題がある。
規制を強めれば、最近、力を増しつつある中国や、アジア他で拡大しつつある独裁政権のようになる危険性があるし、
なにもしなければフェイクニュースに正しい情報が埋もれてしまうことになる。
ところで陰謀論を信じる人達にはある共通点がある。
ユーチューブなどの動画をよく見ているし、彼らが入手する情報はほとんどが動画だ。
動画は視覚から直接脳へ情報が伝達される(送り込まれる)ため、脳を刺激することが少ない。
そこが本や文字から入ってくる情報と違う点で、文字を読むという行為が加わることで情報が大脳を経由し、
その間に考え、情報の選別をしている。
つまり動画と文字情報では動画からの方が影響を受けやすく、陰謀論に限ることではないが
他者の意見に感化されやすく、同調性が強いのは動画視聴者に多い。
「ハードファッシズム」と「ソフトファッシズム」
インターネットは情報の民主制、公開に大きく道を開いたが、今世界で行われていることはその逆で、
情報の画一化、統制であり、それはファッシズムへ続く道である。
しかし、その危険性を意識している人は存外多くない。
ファッシズムと言えば戦前の軍部独裁やヒットラーのナチスドイツ、あるいは北朝鮮、
軍部独裁のミャンマー政権等を思い浮かべるかもしれないが、
武力による強権的な弾圧政治のことだと捉えれば見誤ることになる。
顕在化する民衆ファッシズム
ファッシズムの主役は大衆
全文は栗野のHP http://www.liaison-q.com/kurino/Softfascism1.html
栗野的視点(No.738):「コロナ」が変えた社会(7)~世界はファッシズムに向かう で。