栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

エネルギッシュな街・香港

2005-05-30 22:55:55 | 雑感
 香港は自己主張の激しい街である。街を歩けばまず目に飛び込んでくるのがけばけばしい看板である。
しかも、決まって大きい。
互いに自分を目立たせることにだけ熱心で、街並みとか都市景観にはほんのわずかの注意すら払っていないように見える。
しかし、この猥雑さが香港の魅力なのも間違いない。
 いまではすっかり取り澄ましてしまった日本もほんの10数年前までは各地にこのような光景が残っていた。
気取った上品さの代わりにチグハグで不統一な景色と、訳の分からないエネルギッシュさが都市にも、そこを行き来する人達の顔にも溢れていた。
それがいつの間にかなくなり、いまではすっかり生気を失った顔が日本では都市も人も支配している。

 香港はお世辞にもきれいな街とは言えない。すくなくとも繁華街は。
街全体がゴミゴミしていて、埃っぽい。
とても現在の清潔好きな日本人はこの街では生活できないだろう。
だが、埃っぽくて、うるさくて、猥雑なこの街が、私は好きだ。
そしてこの街を歩き回れば不思議と元気になる。
それは都市自体が元気だからであり、かつての成長著しかった日本の姿をそこに見るからだろう。

「未来を拓く九州のテクノロジー」講演概要

2005-05-28 07:59:50 | 視点
 5月23日(月)、福岡県工業技術センタークラブ主催の先端技術シンポジウム「世界にはばたけーものづくり福岡ー」が開催された。
 その席で私、栗野も「未来を拓く九州のテクノロジー」と題して講演をした。
当日出席できなかった方のために概要を紹介すると--。

 当日の内容紹介とレジュメは以下の通り。
 半導体産業、自動車産業の集積など、九州のモノづくり環境はかつてないほど恵まれ、世界を相手にする最先端技術も育っている。しかし、その一方で中国企業の激しい追い上げにあっているのも事実。では、生き残りのために何が必要なのか。
 1.恵まれた九州のモノづくり環境
 2.中国企業の激しい追い上げ
 3.生き残りのために何が必要か


 いま北部九州は自動車産業の集積が進み、モノづくり環境には恵まれているが、トヨタ自動車が進出してきた約10年前は首都圏の地価高騰、人件費アップという背景があり、あたかもバケツの水が溢れるように地価、人件費の安いところを求め、地方に進出していった。その一つが九州であり、九州の実力で自動車産業を呼んだのではない。
 ただ、最近は地場企業の技術力もアップしてきた。そこにもってきてトヨタ自動車も4年程前から現地調達を進めるなど、現在は恵まれたモノづくり環境である。

 北部九州の企業はこの恵まれた環境に安住している側面がありはしないか。
九州という範囲で見ると、むしろ環境的には北部九州より劣る地方に技術力・開発力に優れた企業がある。
 例えば長崎県の最西端、北松浦郡小佐々には水に関する研究・技術では日本一の企業、西日本流体技研がある。いま、水泳は水着競争と言われるように、いかに水の抵抗が少ない水着を作るかが繊維メーカーの仮題になっている。水の流れや抵抗の詳しいデータを取り、記録を出す水着づくりに貢献しているのが西日本流体技研だ。
 同じく長崎県で、雲仙普賢岳の麓、見渡す限りの畑の中に半導体製造装置や液晶製造装置などの精密加工部品を製作している公精プラント製作所がある。

 また宮崎県日南市には、ボーイングジェット機の内装や国立劇場オペラ座の音響板を製作した日南家具工芸社がある。
 これらの企業に共通しているのは、絶対に「できない」と言わないことだ。常に技術力を磨き、難しい仕事にチャレンジし続けている。
 このように恵まれない環境の中でも頑張っている企業がある。恵まれた環境の中にいる北部九州の企業はもっと頑張らなければならない。

 もちろん、福岡にも第一施設工業のように非常に頑張っている企業もある。
同社は半導体の大見忠弘氏が必ず社名を上げるほど高い技術力を誇っているが、元はエレベーターの据え付け・保守作業をしていた下請け企業だ。
 ところが、ある時、元請け企業からいきなり見積書の数字を赤鉛筆で訂正された。そのことがよほど悔しかったのだろう。絶対、メーカーになってやる、と誓い、その後一生懸命に頑張った。屈辱にうちひしがれる人もいるが、同社の篠原社長は屈辱をバネに変えて這い上がった経営者だ。
 もちろん、メーカーになると念じればなれるわけではない。ヒントは客が提供してくれるので、ユーザーのひと言を聞き漏らさず、それをいかに実現するかだ。ユーザーが困っていることを解決すれば必ず商品は売れる。

 半導体産業が進出してきた時にも言われたことだが、九州の企業は熱しやすく冷めやすい。最初は仕事を求めてくるが、一度断られると二度と来ない。
 半導体にしろ自動車にしろ裾野が広い産業であり、ハイテク分野ばかりでなくローテク分野の仕事もある。一つひとつ技術力を高めて、仕事を奪い取っていく努力をしなければならない。

 三河(愛知県)の人間と比較すると九州の人は出世欲、負けず嫌い精神に欠けると指摘されたが、恵まれた環境に安住していると、中国に仕事を取られてしまうだろう。
 中国の技術力や生産力、品質アップは目覚ましく、3年で日本と並び、5年後には日本は追い抜かれると言われている。

 では、中国に対抗するためにはどうすればいいか。
一つは今以上に技術力を高めなければならない。
そのためには産学官の連携を図ることも重要だし、国・県・大学等の研究機関を上手に活用する必要がある。
 各研究機関の方には「来れば教えてやる」的な態度ではなく、中小企業の現場に出向いて指導して欲しい。
 中小企業は公設試や大学と共同研究・開発をする場合、契約書を交わすようにした方がいい。
なぜなら公設試や大学と企業では流れる時間の速さが違うからだ。
だから、いついつまでに、どこまでする、ということをきちっと決めて行わないと、せっかくの共同研究・開発が実のあるものにならない。

 もう一つは製造現場の効率化を図ることだ。
ある人が松下の下請け企業に仕事を頼んだら見積書が何銭の単位だったと驚いていたが、トヨタ自動車の話にもあったようにトヨタが買う価格がボルト1本2円。だとすれば下請けが納品価格は何円何銭である。
大手がここまでシビアなコスト計算をしているのに、九州の中小企業は甘すぎる。
競争力をアップするためにはもっとコストダウンを図らなければならない。

 では、コストダウンを図るためにはどうすればいいのか。
すぐ人件費の削減と言うが、安易な人材整理は危険だ。
いま2007年問題が言われているが、2007年から団塊の世代が定年を迎え出す。そうすると社内の優秀な技術を次世代に受け継いでいけなくなる。
技術・技能の伝承をどうするのか。そのためにも人件費のカットを目的にした安易な人員整理は危険だ。もう少し長期的な視野で物事を見ていかないと生き残っていけない。

 コストダウンを図るためには生産効率を上げることを考えた方がいい。
トヨタ生産方式に代表されるようにムダ、ムラをなくすことだ。
トヨタ生産方式というとすぐジャストインタイムの下請けいじめというイメージがあるが、そうではない。
 むしろ動きのムダ、在庫のムダをなくそうということで、中小企業でも大いに学ぶべき点は多い。
 リエゾン九州では中小企業の生産効率アップのために、製造現場に出向き、トヨタ生産方式等で現場指導をするプロジェクトチームを設立しているので、希望があれば連絡して欲しい。

やっと復旧しました。

2005-05-25 11:24:34 | 雑感
 サーバーがダウンし、リエゾン九州のHPへのアクセス、メールの受発信が不能だった状態がやっと昨日昼前からHP、メールの順で回復しました。
実に40時間以上サーバーがダウンという考えられない状態で、その間にメールを頂いたり、HPへのアクセスをされた方から不信感を抱かれたのではないかと危惧しています。
 なにより信じられないのはその会社から未だお詫びの挨拶文一つ来ないことです。
復旧しましたの連絡が来た時も「ご迷惑をおかけしました」のひと言もなし。
企業の真価はトラブルの時にこそ問われるし、そういう時に如実に出るものです。

またサーバーがダウン・・・。

2005-05-23 10:04:12 | 雑感
 また、サーバーがダウンしてメール、HPへのアクセスが出来ない。
いまのプロバイダーに契約を替えてからこれで何度目だろうか。
決まって月曜日の朝にダウンする。

 もともとサーバーはよそに置いていたのだが、地元のITベンチャーがプロバイダーもしているというので、同じことなら地元のベンチャーを支援しようとそこにサーバーを移したのだった。
そもそもリエゾン九州という組織はベンチャーのサーポートを目的に設立したので、サーバーを地元ベンチャー企業に移すこと自体にはなんら問題なかった。
その会社の社長が会員になったこともあったし・・・。

 しかし、プロバイダー契約をそこと交わす時に一抹の不安も感じていたので、万一の場合に備えて従来からのプロバイダー・DTIとの契約は残しておいた。
なんといってもDTIには絶対の信頼を置いているからね。
一度もビジー状態になったことがないし、各種媒体調査でも満足度の非常に高いプロバイダーとして毎回評価されている。
こうしてブログに投稿できるのもDTIを残していたからだ。

 それにしても毎回月曜日にサーバーダウンではどうしようもない。
それにこの会社、フォローも悪い。
DTIのメールアカウントからサーバーがダウンしている旨メールを出しているのだが、2時間経ってもウンともスンとも言ってこない。
 やっぱり大手の方がいいか、とは思いたくないが、こう何度もダウンするようではそう思わざるをえない。

 企業とは必ずトップの姿勢が投影されるもの。
プラグマティックに自己利益追求を優先し、そのために人を利用することしか考えてない企業人をたまに見かけることがあるが、そんな人間にならないようにしたいものだ。

地震雲かも?

2005-05-19 20:55:55 | 雑感
 5月19日PM6時~7時の間に福岡市内南区で撮影したものです。
夕日が沈む西の方向、つまり福岡西方沖地震の震源地の方向です。
雲が西の方向から放射状に立ち上っているように見えます。
雲の形は不動明王像が背後に背負った火焔のような形をしていました。
 もし、これが地震雲だとしても、大きな地震ではないと思います。

 画面中央に太陽の暈(かさ)が見えると思います。
太陽の位置は画面下ですから、輪の向きは反対です。
雲が水分を含んでいる時に太陽の周囲に暈ができますが、今日は朝から晴れでした。

香港の朝は太極拳で始まる。

2005-05-16 00:46:13 | 雑感
 朝、公園に行くとこうした光景に必ずお目にかかる。
太極拳に限らず様々な体操、民族楽器による演奏、歌、踊りなどを、思い思いに行っている。
大抵はこのような少人数グループで行っているが、1人で黙々と太極拳に汗を流している人、気功で精神を集中させている人も多い。
 香港は北京語ではなく広東語。太極拳の掛け声も北京語で「イー(1)、アール(2)、サン(3)」ではなく、「ヤッ、イー、サーム」と広東語で掛けていた。

 写真は九龍半島のメーンストリート、ネイザンロードに面した九龍(カオルーン)公園内。撮影はニコンのデジカメ、Coolpix5700。香港旅行中の写真はすべてCOOLPIX5700。

香港空港でちょっと戸惑う。

2005-05-13 12:47:45 | 雑感
 久し振りの香港である。以前行ったのは中国に返還される1年前だから96年。自分の感覚では5年程前かなと思っていたけど、9年も前だった。
まだ当時は新空港建設中だったので、新空港に降りたのは今回が初めてだ。

 戸惑ったのは飛行機を降りてから荷物を受け取るまでに列車で移動したことだ。
羽田の感覚ではモノレールに乗るのは空港を出てからだからちょっと不安になったが、「Arrival」の表示に従っていくと他に行きようがないし、外国人も皆そちらに移動しているから間違いないだろうと列車に乗る。

 皆が移動する後に付いていって変なところで降りたり、違う場所に行った経験がニューヨークでもあるので、入国審査を抜け、荷物受け取りロビーに付くとホッとした。
 実は香港滞在中にシンセンに行ったが、シンセンから再び羅湖(ローフー、香港側)に入境する時、同じような失敗をしてしまった。疲れてくると案内表示を見落としたり、よく見ずに人の流れに付いていくことがあるので要注意だ。

 ともあれ無事、到着ロビーに出、ちょっとコーヒーでも飲んで一休みと思った時に目に付いたのが熊本発祥のとんこつこってり味の「味千拉麺」。
 熊本を中心にチェーン展開しているが、近年は中国での出店を加速しており、数年前、上海に行った時に「長崎チャンポン」の店と同じくよく見かけた。
 香港と上海、どちらが先に出店したのか知らないが、国内の店舗よりは中国の店舗の方がきれいな店作りをしている、というより最近の新しい店舗は昔のラーメン店のイメージを脱却し、ファーストフード的な店作りにどこもしているということだろう。
 創業者の重光氏は台湾出身で、海外1号店はやはり台湾に出している。2代目の代になってから積極的に海外展開を図りだしたようだ。

香港に行ってきました。

2005-05-10 23:39:44 | 雑感
 GWに気の置けない仲間2人と香港に行ってきた。2人は東京から、私は福岡からで、香港で合流。
 このところJALはなにかと問題ありなのでキャセイ航空で飛んだ、というわけではなく、ただ単に料金が安い方を選んだだけ。台北経由の便だったので飛行時間は5時間。出発時間と到着時間を見た時、所要時間は4時間だったので、これなら1万円少々安いキャセイで、と思ったが、時差の関係で1時間プラスしなければならないのを忘れていた。5時間もかかるなら1万円強余分に払っても早く着く飛行機の方がよかったと思ったのは香港に着いた時だった。
 福岡出発時に最も搭乗者数が多かったのは韓国ソウル行き。逆に最も少なかったのは上海行きで、搭乗者は10人程度だった。

私はなぜ福証Qボードに上場したのか。

2005-05-09 17:50:17 | 視点
 新緑の眩しい頃になりました。
若木がグングン育っています。
芽が伸びる時期にしっかり芽を伸ばし、大樹に育って欲しいと思います。
木も企業も同じです。
若木が育って行くには育つ環境も必要です。
土と光と水、そしてなにより伸びようとする木自身の気持ち。
これらが一体となって初めてグングン伸びていくのではないでしょうか。

 いま、全国的にも地方証券市場が注目されているようです。
福証Qボードは福岡証券取引所のベンチャー企業向け市場です。
一般証券市場に比べ上場しやすくなっています。
こうした背景もあり、現在、福証Qボードに4社が上場しています。
今後、証券市場から資金を集めたいと考えているベンチャー企業にとっては、非常にいい流れができているのではないかと思います。

 そこで今回は、先頃、Qボードに上場した(株)タイセイの佐藤社長をお招きし、JASDAQではなく、なぜ福証Qボードを上場先として選んだのか。
その結果、どういうメリットがあったのか等について語ってもらいます。
 佐藤社長はすでにいろんな所で話されていますが、お聞き逃しになった人も多いと思います。ぜひ、この機会にお出でください。

         --記--

●日 時:5月21日(土) 13:30 ~ 17:00
    ★(例会は基本的に第3土曜日に開催します)
●場 所:福商会館(大名1-12-57)の2F
     天神西通り、岩田屋本館(旧Zサイド前)の前に大福うどん、
     ケンターッキーフライドチキンがあり、その角を赤坂方向に
     入ると角から2、3軒目左手のビル(1FにPumaの赤いショップ)

●内 容:
1.「私はなぜ福証Qボードに上場したのか」
   講師:(株)タイセイ・社長 佐藤成一 氏
      
 (株)タイセイは大分県津久見市の企業です。津久見市には申し訳
 ありませんがローカル都市です。そんなローカル都市にありながら業
 務用食品資材の通販に活路を見出し、会社設立6年目で上場した企業。
  中央ではなく地方の証券取引所を選んだ理由と上場のメリットにつ
 いて率直に語っていただきますが、佐藤社長の話は上場を目指す中小・
 ベンチャー企業には大いに参考になると思います。

2.発表企業
  「面白似顔人形"オレフィギュア"登場!」
   発表者: 株式会社デザインQ・社長 古賀久則 氏
    発表目的: 販路拡大・顧客開拓

  「オレフィギュア」はユニークな全身似顔人形です。
 デザイン会社が作成しただけに、本人の特徴をよく捉えています。
 「かわいい! 似ている! 面白い!」と評判です。
 名刺に印刷すると一発で覚えられます。これ以上のPR効果はないと
 好評です。婚礼の記念品としても注目されています。
 今後はさらなる販路拡大を目指し、販売委託先も募集しています。

●例会参加は誰でも自由です。
  参加費用:会員・非会員共に1,000円。
●例会後、懇親会を予定しています。
   予算3,000円程度。
●例会・懇親会とも参加申し込みは事前に!
   当日、会場準備の都合上、極力事前に参加申し込みをお願いします。

失敗の方程式ーーわずか2カ月で閉めた店。

2005-05-08 20:13:13 | 視点
 「勝つ時は偶然もあるが、負ける時は必然的だ」
 と言ったのは知将、野村克也監督である。勝つ時は敵失とか、たまたまなどの不確定要素が入るから、こうすれば絶対に勝てるという方程式のようなものはない。
しかし、負ける時は必然的な理由がある。たまたま運が悪かったから負けたというような偶然性はなく、負けるべくして負けるというのだ。
 であるからこそ、人は成功からより失敗からの方がより多く学べるし、前車の覆るを以て後車の戒めとすべきである。
にもかかわらず、前車の轍を踏む人のなんと多いことか。
 以下に紹介するのもまさに失敗するべくして失敗した店の例である。

 店名に桜の名前を付けた店から一枚の葉書が届いたのは桜が散り始めた頃だった。
その店に行ったのは2月の初め。オープン招待だから、と友人に誘われて行ったのが最初である。
それ以来行ってない。
だから、また来てくれという誘いのハガキだろうと思った。

「櫻が満開となる季節を終え、皆様方に取りましては公私共に慌ただしい毎日をお過ごしの事と存じます」
 文面は型通りの挨拶から始まっていた。
「櫻の花を見ながら美味しいお食事とお酒を一杯・・・と楽しんで頂きたかった」
 ここまで読んで、やはり営業用の葉書だなと思った。
最近は挨拶文すら出さない店もあるだけに、葉書を送ってくるだけましである。しかし、お義理の挨拶葉書1回だけではどこも一緒。問題は2通目を出すかどうか。そこが客を増やすかどうかの分かれ目、などと考えながら次を読み進んだ。

 すると、「閉店」の2文字が目に入ってきた。
一瞬読み違いかと思い、読み直してみたが間違いではなかった。
「三月末日を以って閉店いたしました」
 と、記してあるではないか。なんということはない、来店勧誘どころか、閉店の挨拶状である。

 開店からわずか2カ月足らずで閉店。
普通なら驚くところだが、「やはり」という思いの方が先に立った。
 というのも、当初からこうなる予感がしていたからである。
早ければ3カ月、もって半年。
開店招待に誘ってくれた友人にもそのように伝えていた。

 理由はいくつかある。
1.店の入り口が分かりにくい。
 これは客商売にとって致命的である。
店側が敢えて入り口を分かりにくくしたのには理由があるのだろう。
恐らくある意味、隠れ家的な雰囲気を演出したに違いない。
誰にでも来てもらう店ではなく、「選ばれたあなたにだけ来て頂きたい店」という選客意識を客に持たせるためにそうしたと思われる。

 こうしたコンセプトは店内に入っても貫かれていた。
器は凝っていたし、会席料理の味も悪くはなかった。店内の装飾も「和のテーマ」でしっくりと落ち着いた雰囲気を演出していた。
そして、最後に料理の価格も決してここが大衆を相手にした店ではないと主張していた。

 途中でオーナーが挨拶に来たので、店内の雰囲気、器もよく、味も上品でいいことは伝えた。
聞けばオープンに先立ち京都で修行してきたという。
とくれば、流行らないわけはない。
あとは客層が合いさえすれば入り口が分かりにくいのもマイナスにはならない。

2.顧客ターゲットを間違っているか、設定していない。
 ところが、である。店内にいた客は20代の若い女性が中心。
これには少々首を傾げてしまった。
この層は店のコンセプト、料理の価格からして顧客にはなり得ない。
にもかかわらず、若い女性達が多いということはいままで若者相手の商売をしていたか、招待券を配った相手が自分の代わりに若い子達を行かせたかである。

 前者の場合はいままでの顧客が新しい店の顧客にならないということだし、後者の場合も招待状を配った客との繋がりがその程度でしかないということだ。
 とすると、この店の経営者は顧客を持ってないということであり、ゼロから勝負しなければならず、店が軌道に乗るのに少し時間がかかるだろうというのが私の感じだった。
 店の内装費に金がかかっているようだから、問題は運転資金がいつまで持つかだ。固定客を早く掴まないと資金がショートするに違いない。

3.経営者の熱が伝わってこない。
 その割には話をしても経営者の熱意が伝わってこなかった。
しかも致命的なのは、料理が出てくるスピードが非常にゆっくりしている。
客が手持ち無沙汰にしているのに、次の料理を一生懸命に作るのではなく、カウンターに陣取っている若い女性達とお喋りをしている。これでは新規の客は付かない。

4.料理が出終わるまでに2時間。
 なにより「この店が持って半年」と判断した理由は料理が出てくるスピードである。
最後のデザートが出てくるまでに2時間。
いくら会席料理とはいえ、これはあまりにも遅すぎる。
よほど時間に余裕がある人しか来られない。それでも食材と味と店の雰囲気がそれらを補ってあまりあれば別だが、並では一度来た客が二度と来ない。

5.昼のオープンが不定期。
 新規オープンで、従来からの固定客も持ってない店は固定客づくりに最も力を入れるべきである。
 そのために、昼は宣伝と考えて店を開けた方がいい。
もちろん、その店もそう考えたのだろう。昼食の案内もあった。ところが、そこには「当分の間、昼は予約がある時のみ開けます」と書いてあった。

 恐らく昼は開けても客が入らなければムダだから、客がある時だけ開けた方が効率がいい、と考えたのだろう。
この考えが間違っている。
店を開けたり開けなかったりすれば、いつまで経っても固定客は付かない。
苦しくてもきちんと定時には店が開いているということが客商売では基本。

 結局、この店はしてはダメなことを全部していた。
これでは早晩、店を閉めざるを得なくなるのは火を見るよりも明らかで、文字通りその通りになってしまったというわけだ。
 この店の失敗の方程式をひと言で言うと、出店に当たってのマーケティングがされてなかったということである。
 自分の店が相手にする顧客層の設定と認識が不十分、料理を出すことに満足し、客の満足を考えてない、不定期な営業時間は客を不安にする、そして宣伝不足と熱意不足である。
 しかし、この種の店は結構多い。飲食関係はちょっと修行したり、あるいは見よう見まねでもできるので参入が容易だが、生き残っていくのは難しい。これはどの業界にも通用することだろう。