識字率の低下は独裁化を招く
背景にあるのは戦後のローマ字教育と近年のスマートフォン普及。
明治の文豪達は外国人が発音する言葉に近い漢字を探して表記したから
コーヒーを「珈琲(かひ)」と記したし、プロレスでも「本日のメーンイベント」とアナウンスした。
それが戦後のローマ字教育でアルファベットが読めるようになると
「Coffee」を耳からではなく目でローマ字読みし「コーヒー」と発音し出した。
「main」も耳から入って来る音の「メーン」ではなく、目で読み「メイン」と
ローマ字読みするようになった。「maid in japan」も「メード・イン・ジャパン」と
表記されていたのが、最近はメディアでも「メイド・イン・ジャパン」と
ほとんどローマ字表記に変わってきている。
要は目と耳が分離しだしたわけで、戦後のローマ字教育のせいで日本人の外国語は
どんどんローマ字化してきている。
一方で「グローバル化」「国際化」を唱え、入試にヒアリングを取り入れるなど
喋れる英語教育に力を入れている。だが、その実「グローバル」とは無縁な
「ジャパニーズイングリッシュ」が蔓延っているのは皮肉だ。
国際化を唱え「ガラパゴス化」を批判しながら、言葉が「ガラパゴス化」している現実に対し
何も言わず、ただ追随しているメディアにも疑問を感じるが。
ともあれ、以上のように現代日本人の識字率は明らかに低下しつつある。
スマートフォンの普及で、読めない文字は「読み飛ばす」傾向にもある。
紙媒体中心の頃なら、読めない漢字は辞書を引き、読みと意味を調べ、
ついでに熟語や関連する言葉も覚えたりしていたが、今ではそんなことをする人は極稀だろう。
PCならいざ知らず、スマートフォンはそうした操作をするのに不向きである。
かくして皆が「なんとなく分かった」気で読み飛ばしていく。
その結果ますます文字が読めなくなっていく。
誤解を恐れずに言えば、文字が読めない程度ならまだいいが、
社会全体で識字率が低下すれば重大な社会変化が起きる。
「識字率の上昇は民主主義を浸透させる」と言ったのはフランスの人類学者
エマニュエル・トッドだが、この言葉は裏を返せば「識字率が下がれば
民主主義は後退する」ということである。
今、世界は独裁化に向かって急速に進んでいる。
北朝鮮や中国、ロシアや開発途上国のいくつかの国だけのことではない。
アメリカやベトナム、さらには自由を重んじるフランスでも指導者の独裁的手法が進んでいる。
世界で独裁化を加速させた要因の主要な一つはCOVID-19だが、
日本ではそれよりずっと前、安倍政権下で進められていた。
それは水を少しずつ温めるように進められていたので、人々はあまり意識することなく
「ゆでガエル」状態で、むしろ心地よささえ感じていたかもしれない。
こうした状態を「ソフト独裁」と指摘して、かつてのナチスやスターリン、
日本軍部などで代表的に見られた強権的な「ハード独裁」と区別して述べたが、
「新・文盲」の増加がソフト独裁を呼び込み、支える基礎になっている。