石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和  中東の戦後70年 ( 十五)

2019-11-20 | その他

(英語版)

(アラビア語版)

 

1.対照的なフランスと英国の植民地支配

 第一次世界大戦時のサイクス・ピコ秘密協定(プロローグ5参照)により、フランスはトルコ南部からシリア全域、さらにイラク北部及びレバノンを勢力圏に収め、英国はイラク南部、ヨルダン、サウジアラビア北辺及びクウェイトを勢力下においた。両国はそれぞれの地域に宗主国として君臨した。 

 しかし第二次世界大戦を境に各地で独立の機運が高まった。この時、フランスと英国が認めた各国の独立後の政治体制は対照的なものであった。レバノンとシリアはフランスが第二次大戦でドイツに占領され海外植民地まで手が回らなくなった間隙を縫って1941年に共和国として独立を宣言した。これに対して英国はフセイン・マクマホン書簡(プロローグ4参照)の約束に従いヨルダンとイラクを王国、しかも預言者ムハンマドにつながるハシミテ家の子孫を国王とする王制国家として独立させた。

 

 フランスは共和制国家を樹立させ、英国は王制国家として独立させたことは興味深い事実である。一つの理由は両国自身の政治体制にあると考えられる。両国は共に議会制民主主義国家であるが、英国はその正式国家名「UNITED KINGDOM (連合王国、略称UK)」が示す通り王制(もちろん立憲君主制の)国家である。従ってヨルダンとイラクを王制国家として独立させることに抵抗はなかったと思われる。

 

 これに対して1798年の革命でブルボン王朝を倒し共和制を樹立したフランスには共和制国家としての長い伝統がある。フランス共和国憲法第二条で「自由・平等・博愛」を国家の標語とし、それを象徴する三色旗(トリコロール)を高々と掲げる以上、シリア及びレバノンは共和制国家でなければならなかった。但しフランスは実質的な支配権は失いたくなかったため、シリアではシーア派少数部族のアラウィ派を権力の座につけた。植民地支配で少数派をバーチャルな(見かけの)支配者に起用するのは宗主国の常套手段である。フランスは外部の支援を必要とする少数派を陰で操り、多数派を弾圧あるいは分裂させることで自国に有利な権力構造を作り上げたのである。

 

 「自由・平等・博愛」を標榜する表の顔と植民地を意のままに操ろうとする裏の顔はフランス外交の矛盾であり、その矛盾を突いたのがソ連である。第二次大戦後、唯一の社会主義国家としてソ連は世界中に階級闘争を展開し始めた。それは中東ではアラブ民族主義と並ぶもう一つの柱である社会主義運動として広まり、シリアの共和制はフランスの意図しない方向に走り出した。このような事態に対してフランスは自らの共和制という足かせに阻まれ強圧的な行動が取れない。フランスはすべてを混乱させたままで逃げ出すのである。後始末を引き受けるのは結局米国と言うことになる。ベトナム戦争でベトコン(ベトナム共産党)に敗れ後始末を米国に委ねたのと全く同じ構図である。戦乱の世でフランスが頼りにならないことは歴史の事実である。つまり中東では昔も今もフランスは問題解決の主役たりえないのである。

 

 それに対して英国は大英帝国の長い植民地支配を通じて極めて老獪な知恵を生み出した。英国はイスラームの教祖ムハンマドの子孫でありながらマッカ太守の座をサウド家に追われたフサインの二人の息子を委任統治領のヨルダンとイラクそれぞれの国王に据えた。民主主義が広く普及した西欧社会では君主制はアナクロニズム(時代遅れ)に映るが、中東はまだまだ部族が幅をきかせる世界であり、何と言ってもイスラームが生活の中に根を張っている。西欧流の共和制あるいは議会制民主主義は時期尚早だった。英国は冷徹に中東の現実を見ていたのである。

 

 1921年にマッカの太守フセインの二男アブダッラーを国王とするトランス・ヨルダン王国が成立、「アラビアのロレンス」で有名なT・E・ ロレンスが大英帝国の代表者として国王のアドバイザー(実際は支配者英国の回し者)となった。同国は1946年にヨルダン・ハシミテ王国として独立した。英国は貴族の子弟の帝王学養成所として名高いサンドハースト王立陸軍士官学校にヨルダン皇太子を留学させ、ハシミテ王家を英国に取り込んでいる。

 

 ヨルダンの一般国民にとってハシミテ王家は英国が送り込んできた天下りの支配者である。しかし彼らにとって国王が預言者ムハンマドの子孫であることはかけがえのない「ありがたい」ことであったに違いない。首都アンマンのアラブ商人たちもハシミテ家を喜んで迎え入れた。第二次世界大戦開戦の1939年に生まれたカティーブはまだ7歳で王国独立の何たるかもわからなかったが、新国王を熱狂的に迎える父親の喜ぶ様子を鮮明に記憶している。

 

(続く)

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

 

ホームページ:OCIN INITIATIVE(http://ocininitiative.maeda1.jp/index.html) 

 

(目次)

 

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世界競争力は米国2位、日本6位、UAE25位:世界・中東主要国の競争力(上)

2019-11-20 | その他

(注)本レポートは「マイライブラリー」一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0484WorldRank2.pdf

 

(世界ランクシリーズその2)

 

国連などの国際機関あるいは世界の著名な研究機関により各国の経済・社会に関するランク付け調査が行われている。これらの調査について日米中など世界の主要国及びトルコ、エジプト、イランなど中東の主要国のランクを取り上げて解説するのが「世界ランクシリーズ」である。

 

第2回のランキングは世界経済フォーラム(WEF)が発表した「世界競争力レポート(Global Competitiveness Report) 2019」により世界及び中東主要国の競争力について比較した。

 

*   WEFホームページ:

https://www.weforum.org/reports/global-competitiveness-report-2019

 

1.「世界競争力レポート」について

 「世界競争力レポート(Global Competitiveness Report)」は、毎冬スイスで開催される「ダボス会議」の主催者として世界に名を知られている「世界経済フォーラム」が2001年から毎年発表しているレポートであり今回で第19回目となる。第1回レポートの対象国は75カ国であったが、その後対象国は増え今回は141カ国となっている。

 

 「世界競争力レポート」の総合的な競争力ランキングはコロンビア大学のザビエル・サラ=イ=マーティン教授が開発し2004年に導入された世界競争力指数(Global Competitiveness Index, GCI)が用いられている。GCIは競争力に関する12の分野をもとに設計されており、世界の国々のすべての発展段階における競争力の全体像を示している。

 

12分野とは、①制度機構(Institutions)、②インフラ(Infrastructure)、③情報通信技術(ICT adoption)、④マクロ経済安定性(Macroeconomic stability)、⑤健康(Health)、⑥技能(skills)、⑦製品市場(Product market)、⑧労働市場(Labour market)、⑨金融システム(Financial system)、⑩市場規模(Market size)、⑪ビジネス・ダイナミズム(Business dynamism)及び⑫イノベーション力(Innovation capability)である。

 本稿では世界の上位5か国(含、米国)に日本、ドイツ、韓国、中国、ロシア、インドの先進及び開発途上国6か国に加え、中東の主要国であるトルコ、エジプト、イラン、サウジアラビア、イスラエル及びUAEの6か国を取り上げて比較する。比較する項目は総合及び12分野のランク並びに過去5回の総合ランクの推移である。

 

(競争力世界1位はシンガポール!)

2.世界と中東主要国の世界競争力ランク

(表http://rank.maeda1.jp/2-T01.pdf参照)

世界141か国の2019年競争力ランクの1位はシンガポールである。同国は昨年の世界2位から今回トップに躍り出た。昨年1位であった米国はシンガポールと入れ替わりに2位に後退している。これら2か国に続き世界3位から5位までを占めているのは香港、オランダ、スイスの各国であり、香港は昨年の7位から大幅にランクを上げている。

 

日本は昨年の5位から1ランク下がり6位であり、昨年3位であったドイツが今回日本に次ぐ7位にとどまっている。その他主要な国を列挙すると、韓国13位(昨年15位)、中国28位(昨年と変わらず)、ロシア43位(変わらず)、インド68位(同58位)であり、インドのランク下落が顕著である。

 

中東の主要国ではイスラエルが20位であり、UAEが25位にランクされている。これら2か国から少し遅れてサウジアラビアが世界36位にランク付けされている。同国は昨年39位であり若干アップしている。中東の三大国であるトルコ、エジプト及びイランの中で最もランクが高いのはトルコの世界61位である。エジプト及びイランはそれぞれ93位と99位で、世界141か国の中では下位グループである。3か国のうちトルコ及びエジプトの世界順位は昨年と変わらないが、イランは昨年の89位から大幅に下がっており、米国の経済制裁の影響が大きく出ている。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

 

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石油と中東のニュース(10月20日)

2019-11-20 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil

(石油関連ニュース)

・イエメン反政府派、紅海沖合で韓国とサウジの浚渫船・タグボート計3隻を拿捕

(中東関連ニュース)

・米、イスラエルのヨルダン川西岸入植を容認

・アブダビ:ハリーファ首長次弟スルタン殿下死去。 *

・クウェイト、前外相を首相に指名、組閣着手

・イラン、政府批判デモで106人死亡:国際人権団体アムネスティ

・レバノン、デモで国会開けず。銀行再開、但し預金引き出しは週1回300ドル程度まで

・サウジの駐留米軍、石油施設爆撃を契機に3千名規模に拡大

・イエメン正統政府、昨夏撤退以来初めて亡命先のサウジからアデンに戻る

・アフガニスタン、タリバン指揮官3名と米豪大学教授捕虜2名をカタールで交換

・カタール、ドーハのメトロGoldライン試運転開始

*「アブダビ・ナヒヤーン家家系図」参照。

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